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4 心配してくれた人の思い

 お医者様が帰った後、今日一日だけでもベッドにいるようにと厳命されたアメリアは入れ替わり立ち代わり現れる屋敷の面々の対応に休む間も無いほどだった。

 そして誰もがアメリアの外見が変わったことを問題にしていない様子で普段通りに接してくれる。

 そのことにアメリアは密かに胸をなでおろした。


 執事長のコーレシュからは『無理をしてはいけませんと』お小言を言われ、お暇でしたら… と、どっさり勉強の本を渡された。こんなにお勉強したら熱がまた出ちゃうわ! と思ったが、コーレッシュの目元には濃いクマができている。おそらく昨夜は一睡もしないで私を心配してくれたのだ。素直に『ありがとう』と伝える。


 メイドのイオナは泣き笑いしながら沢山のスコーンを焼いてくれた。


「イオナのスコーンは絶品ね! でもこんなに食べきれないから、屋敷のみんなにも振舞ってあげてちょうだい。昨夜心配かけたお詫びにね! 」


 お腹がペコペコだった私は美味しいスコーンを頬張りながら、もぐもぐとイオナに話しかけた。おかげでのどに詰まらせそうになり、慌ててお茶で飲み下す。

 あら… これって淑女としては失格かしら? まあ、今日ぐらいは許してくれるわよね?


「お嬢さまったら…! でもいつものお元気なアメリア様に戻ってくれてイオナは嬉しいです。余ったスコーンはお屋敷の皆さんにも食べていただくようにしますね」


 イオナは嬉しそうに笑うと『でも、お口いっぱいに頬張りながらおしゃべりするのは淑女のすることではありませんよ』とクギを刺すのも忘れなかった。

 屋敷のみんなから心配してもらえて、私は本当に幸せ者だ。

 中でも鬱陶し…一番心配してくれたのはお父様で、美しい顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながら抱き着いてきたのには閉口した。


「アメリアー! 君が病で苦しんでいた時に仕事で帰れなくて悲しい思いをさせて本当にごめんよ!苦しかっただろう!不甲斐ないお父様を許しておくれー!」


 …うん、相変わらず鬱陶し…愛嬢深いお父様だわ。


「お父様、私はもう何ともありませんわ。お医者様にも病は完治したと言われましたの」


 ギュウギュウと抱き着いてくるお父様のお顔をハンカチで拭きながらにっこり微笑むとお父様はさらに感極まったように泣き出した。


「ああ… 昔から天使のような娘だと思っていたが、シルクのような髪に、神々しい金の瞳… 。中身だけではなく外見も精霊の様で美しさに磨きがかかってしまった。これではいつ強欲な貴族に目を付けられてしまうかもしれない… 」


 お父様は親バカに磨きがかかっていらっしゃいませんこと?

 手に負えない… としつこく抱き着いてくるままにしていると、お母様が笑いながら部屋に入ってきた。


「まあ、ルーカスったら。アメリアが困っているじゃないの」


 そう言いながらベッド脇の椅子に腰かけ、お母様は優雅に笑った。


「ねえ、アメリア。昨日はあなた王宮で何があったの? いきなりあなたが倒れたとセオドア様直属の騎士団があなたを送ってきてくれたのよ」


 そうしてセオドア王子が王宮専属のお医者様を連れてきてくれたこと、私の体調を心配して何度も王宮から必要なものを届けてくださっていたこと等を聞かされた。


 「ねえアメリア、あなた王子様と何かあったの? 」


 …目が怖いです、お母様…。

 優し気に見えるが、こういう時のお母様の笑顔は怖い。全部聞き出すまで追求の手を緩めないのだ。

 そうは言っても、私にも何が何だか分からないまま王宮で倒れたのだ。王宮図書館で倒れたことと、その直前のセオドア王子様の様子がおかしかったことぐらいしか覚えていない。その後に起こった精霊エインセルの方がずっと大きな事件だったし。

 私は『信じてもらえないかもしれないけれど… 』と精霊との一部始終を両親に話した。

     

 「そうだったの。…精霊があなたを救ってくれたのね… 」


 お母様は懐かしそうな瞳でどこか遠くを見つめながらそうつぶやいた。


 「あなたも知っているとおり、お母様は隣の国インマヌエルの第三皇女だったの」


 もちろん知っている。インマヌエル公国は精霊と共存している国で、非常に豊かな自然の中で精霊の力を借り、共に暮らしている…と本で読んだことがある。

 私たちの暮らすオールヴァンズ王国は魔術が発達した国で、文明も魔術に頼り発達してきた。そのため、他国とは一線を画した交流しかしていない。

 言うなれば技術の流失を防ぐために、鎖国しているようなものだ。

 だから人の流れも非常に厳しくチェックされるし、王族といえども簡単に国外に出て留学することはできない。

 …私の【他国で幸せに暮らしちゃおう計画】はこの点でも難度が高いのだ。

 そのお母様がなぜこの国に嫁いだのか。…答えは簡単【人質】なのだ。

 オールヴァンズ王国の魔術は強大で、特に戦術に特化している。

 そのため、インマヌエル公国のように精霊と共存している国では自然破壊や、精霊の住処を奪われることを恐れている訳だ。

 だから戦争の意思は無い… と大国であるオールヴァンズ王国に皇女を差し出すわけだ。

 お母様も 自分の身がどうなるか分からずこの国に来たのだからどれほどの恐怖だったのだろうか。

 そして、王宮で私のお父様 ルーカス・へヴェル・グレイソンに一目ぼれされた。

 …この辺りは本人たちの惚気がすごいので大分脚色されている可能性があるが、まあ、お母様 エステル・マリア・インマヌエルの美しさに一目ぼれして、即王家に下賜を賜るよう懇願したお父様の行動力が凄いと思う。

 それで見事にお母様と結婚できたんだから、すごい人なのだろう。

 …娘の前ではグダグダだけれど。

 話は逸れたが、そのようなわけで、皇女であるお母様がこの国に来る前に精霊と交流があっても不思議はない。


「インマヌエル公国では、精霊は自分の半身と呼ばれるほど近しい存在なの」


 懐かしそうに笑みを浮かべるお母様の話は、これまでオールヴァンズ王国では知ることのできないことばかりだった。

 インマヌエル公国の赤子は生まれると精霊の泉で洗礼を受けること、その時に赤子を見て気に入った精霊がその赤子を祝福し、生涯半身として寄り添って生きること。

 …その子が亡くなるときに、精霊が現れ一つだけ願いを叶えてくれること等…全く知らない異文化には驚くしかない。

 でも、私はインマヌエル公国に行ったことなんて一度もない。なぜ、私のところに精霊が現れたのだろう?

 疑問を口にすると、お母様はにっこり微笑んでこう言った。


「私が皇女だった時、精霊王様から私の大切な存在に加護を与えると言われていたから」


はぁ…?


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