5 精霊王の加護
「精霊王様って… お母様、会ったことがあるの⁈ そんな普通に会えるものなの? 」
驚愕の事実に驚くも、お母様は平然と頷く。
「ええ、偶然宮殿を抜け出した時に森の中で出会ったの。精霊がケガをしていたようだから、治療してあげていたら突然目の前に美しい男性が現れたから驚いたわ」
…宮殿を抜け出す皇女って…。お母様も相当なおてんば娘だったのね。
「精霊王様はとても神秘的な美しい方でね、不思議なことに私がこの国の皇女であることも、もうすぐ人質としてオールヴァンズ王国に発つこともご存じだったわ」
精霊王様は未来を予見する力を持っていたのかしら? 不思議だわ… それより、うっとりと語るお母様を見ながらお父様がギリギリと歯噛みしているのはなんでかしら? …もしかして嫉妬…?
「そして、治療のお礼にと虹色に輝くイヤリングを頂いたのよ。私の大切な存在に身に着けさせなさいって頂いたの。…身に着けている者へ精霊の加護を与えることができる法具だからと言われたわ。アメリア、あなたの右耳に着けている物がそうよ」
そう言われ、思わず右耳たぶのイヤリングにそっと触れた。金属ではない不思議な物質で、見た目は小さな真珠のようだ。
その石は何年経っても虹色の輝きが褪せることはない。見たことも無い宝石だとは思っていたが…。
「これが… 精霊王様から頂いた物…? 」
初めて知った。でも、このイヤリングは片方失くしてしまっている。
「そんなに大切な物なのに、私… 片方をどこかで失くしてしまったわ」
お母様から幼いころ頂いて大切にしていた。でも幼かった私は、誰かとの約束のために片方をあげてしまったのだ。
しかもその相手が誰であったのかも思い出せない…。
申し訳なさと恥ずかしさに涙を堪えていると、お母様は優しく私を抱きしめてくれた。
「いいのよ。それが、イヤリングの意思だから」
「物には意思なんてないわ! 私を慰めようとして嘘を吐かないで! 」
強く反論するが、お母様の笑みは崩れない。
「精霊王様に言われたのよ。この法具には意思があり、己が守るべき者を自分で選ぶって」
「自分で守る人を決めるっていうこと…?」
そんなことがありえるのだろうか? お母様は大切な品を失くしたバカな娘を庇っているのではないのかしら?
「そうよ。それこそが精霊の法具の在り方だから。だからあなたが生まれて魔力を持たないと分かったとき、このイヤリングはあなたのために精霊王様から託されたんだって思ったわ。そのあなたがイヤリングを片方誰かに渡したことも必ず意味がある行いなのよ」
そう… なのかしら… 誰に渡したかも覚えていないのに…?
「いつか、そのイヤリング同士が出会ったときにその意味が分かるかもしれないわね」
そうお母様が言ったとき、突然お父様が立ち上がって叫んだ。
「エステル! 君は… その精霊王とかいう男性を本当は私よりも大切に思っているのではないかい⁈」
…すでに15年以上前の話に嫉妬するお父様っって…。
「私にとって精霊王様との出会いは素晴らしい思い出ですわ」
「でも、それは尊敬の念を抱いているだけのこと。愛するのはルーカスただ一人です」
「エステル… 私も君だけを愛しているよ」
「ルーカス…」
抱き合う二人とベッドの上で呆れる娘。…二人の愛の世界はどうでもいいけれど、アメリアはまだ聞きたいことがあったため、そこに割り込んで聞いてみた。
「イヤリングに加護があったということは、その中から精霊のエインセルが現れたっていうことなの? エインセルから言われたホワイトコアとか世界樹とかは何?」
二人の世界に入っていたお母様は、慌てて咳ばらいをするとこちらを見て恥ずかしそうに頬を染めた。
お父様がまだ物足りなそうなのが可笑しい。
「エインセルがイヤリングに眠っていて、幼いころから見守ってきたアメリアの半身として願いを叶えにきたのは間違いないと思うわ。でもホワイトコアという言葉はインマヌエル国でも聞いたことが無い。精霊たちの独自の呼び方かもしれないわね」
精霊だけの言葉… どうやったら調べられるかしら…?
「それと、世界樹についてだけれど、これも人間界には存在しないすべての生命をつかさどる樹木としか知らないわ」
人間界に存在しない… でも私、世界樹の種をエインセルに飲まされたわ。どういうこと…?
疑問は膨らむ一方だが、これ以上はお母様にもわからないようだ。精霊と共存している国の皇女であっても全てを知っているわけでは無いのね。
「なんにしても無事で良かったわ。今日はゆっくりとおやすみなさい」
そう言うと二人は仲良く寄り添いながら部屋を出ていった。
急に静かになったベッドの上で目を閉じるとアメリアは暫し考えに耽った。
世界樹の種を飲んだ後、エインセルは自分の命を使って魔力を浄化とか言っていた気がする…。どういう… ことなのかしら…。
昨夜生死の境を彷徨い、精神的にも肉体的にも限界がきていたのだろう。いつしかアメリアは深い眠りに落ちていた。
ベッド脇に置いてあった赤い卵のような物がカタカタと音をたて、小刻みに揺れていることも、このあと起こる予想外のことも知らないまま、今はただ安らかな眠りに身をゆだねているアメリアだった。




