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黒装束たちの実力


「状況はどうなってる?」


「たぶん雷の言っていた連中が、ダンジョンの偵察に来たってところかしら」


 間引きが終わりスミギナと地上に戻った後、俺はダンジョンの最下層に転移した。

 モニターには侵入者と思われる二人組の黒装束の人影が映っており、無駄のない足取りでダンジョンの探索を進めている。


「前に襲ってきた奴もそうだが、この世界のこういった奴らは黒マントとか着るのが常識みたいになってんのか?」


「さあ? 最初の王城を除けば、未だにこのダンジョンの外に出てない私に聞く?」


「それもそうだな」


 このまま何もしないわけにはいかないので、取りあえずゴブリンを二人組に差し向けてみる。俺が指示を飛ばしてから程なく、二人組の前に魔物たちが立ちはだかる。


「お? ようやく魔物さんのおでましか」


「分かっているとは思いますが、程々にお願いしますよ。現段階で、あまり我々がいた痕跡は残したくないので」


「分かってるわい」


 黒装束のうち、大柄な男が魔物たちの前に出る。

 二メートルを優に超えるその巨躯に加え、その膂力を十分に生かせそうな金槌を携えている。さぞステータスも高いだろう。


 俺はその人物を鑑定しようとしたが、偽装を持っているのかステータスを見ることができない。


 しかしここはダンジョンの中だ。

 その中ならば、俺のスキル『ダンジョンマスター』の能力により、最上位鑑定を行うことが可能である。俺はそちらの方の鑑定を、二人の黒装束に行った。


 =========


 種族:鬼人

 名前:グラン・オーズ

 性別:男性

 Lv:68

 HP:2984

 MP:211

 STR:435

 GRD:413

 AGI:251

 DEX:157

 INT:109

 MPR:234


 スキル


 戦闘術

 棒術

 気配察知

 威圧

 剛の一撃

 土魔法

 鑑定

 偽装


 称号


 戦士

 荒くれ者


 =========


 種族:人間

 名前:メリース・ローン

 性別:女性

 Lv:60

 HP:1400

 MP:501

 STR:204

 GRD:201

 AGI:226

 DEX:232

 INT:210

 MPR:209


 スキル


 戦闘術

 暗殺術

 短刀術

 水魔法

 空間魔法

 鑑定

 偽装


 称号


 暗殺者


 =========


「やっぱり、かなり強いな」


 スミギナと互角に戦った、あの黒マントで敵の強さの大体の予測はできていたが、これほどとは。グランって方だと、スミギナでも負けるかもしれないな。


 グランの目の前には、ゴブリンが四体。

 ゴブリンたちも、両者に存在する力の差を理解しているのか、一定以上距離を詰めようとはしない。そんなゴブリンたちをみて、グランは笑った。


「どれ。貴様らの力を見定めてやろう」


 そう呟いたと同時、俺はその場にいないのにも関わらず、全身の毛が逆立つのを感じた。


 ――殺気


 魔力と、実力者の気が籠ったそれは、雑兵であるゴブリンたちにとって、耐えられるものではなかった。


 ダンジョンの魔物であり、マスターである俺の言うことを忠実に聞く者でさえも、目の前の恐怖には抗えず、腰を抜かしてその場に座り込んでしまう。なまじ戦闘術小といったスキルもあるため、余計に力の差を感じたのかもしれない。


 恐らくだが、これはスキルの威圧を使ったのだろう。

 これだけステータスが離れていると、ここまでの効力を発揮するようだ。


 そんなゴブリンたちの様子を見て、グランは呆気に取られた表情を浮かべる。


「む? この程度の殺気で怯んでしまうのか」


「あのゴブリンのステータスでは、当然の結果でしょう。むしろ、何故耐えられると思ったのですか」


 メリースが呆れたようにそう零す。

 そして左手に魔力を込め、その目をゴブリンたちへと向けた。


「もうこのくらいでいいでしょう。とっとと終わらせて次に行きますよ。《アクア・スパーダⅢ》」


 無詠唱で放たれた水の刃は、腰を抜かしているゴブリンたちの急所に正確に命中し、容易くその命を奪った。


 その様子をつまらなそうに見届けたグランと共に、二人は先へ進む。


 やはりというべきか、レベル10の魔物など相手になるわけもなく、簡単に倒されてしまった。


 今のこのダンジョンで、この二人とまともに戦える奴は限られてくるだろう。最低でもコマンダーくらいのステータスがなければ、勝負にすらならない。


 それに加え、この二人以外にもまだ暗殺者はいると考えられる。

 何故ならこの二人ではない、俺たちの監視を行っている人間が別にいるはずだからだ。メリースは暗殺者のスキルを持っていることもあり、その任を担っているかもしれないが、それならば標的と思われるミュディガから目を離すとは考えにくい。


 またグランも強いが、それでもミュディガに勝てる程ではないだろう。

 人数を集めてミュディガを叩くとしても、確実に殺すのならば、やはり一対一でミュディガを抑えるほどの実力者が欲しい。


 できれば、そういった情報をここで話してくれると嬉しい。

 まさか狙っている標的に近い者が、ダンジョンマスターだとは夢にも思わないだろう。ここで吐き出してくれ。


 そんな俺の願いが通じたのかどうなのか、再びグランが口を開く。


「それにしても、やはり新規のダンジョンは魔物のレベルが低いのぅ。こんなんじゃ楽しめないわ」


「あくまでも今回は、ダンジョンの地形や罠の把握、魔物の把握が目的ということを忘れないようにしてください」


 退屈そうに呟くグランに、メリースが秘書のように注意する。

 グランは罰の悪そうな顔を浮かべメリースを見るが、その表情は変わることがない。


「じゃが、探れるならできるだけ探った方がよいじゃろう? ならば余裕がある限り、先に進んでみるのもまた一興ではないか」


「今は我慢してください。……べラルド様から、仕事が終わりその後に支障をきたさない範囲であるならば、好きにして構わない、と言付けを得ていますので」


 メリースの後の言葉を聞くにつれ、グランは喜色を露わにする。そして、ご機嫌そうに金槌を見つめた。


「ほほう。やはりリーダーは一味違うわい。それならば、早く仕事を終わらせるとするかの」


「といっても、マッピングや魔物の鑑定など、ほとんど私がやるのですけどね……」


「それだけ、リーダーに信頼されとるっちゅうことじゃ。まあ、万が一不足の事態があったときには、儂がなんとかするから安心せい」


「せいぜい頼らせてもらいますよ。まあ、いらぬ心配だとは思いますが」


 その言葉が最後となり、二人はダンジョンの奥に進んで行く。

 俺はモニターから目を離し、玲奈の方に目を向けた。


「どうする? こいつら、そう簡単に帰ってくれそうじゃないぞ。特にグランってやつは、コマンダー倒すくらいの戦闘をしないと、絶対地上に戻らないだろう」


 あいつらもそれなりにDPを使用して出しているので、むざむざ負けると分かっている戦いに投入したくはないのだが。


「うーん。六階層以降にご招待するとか? コマンダーたちをどけて」


「それもありだが、今それをやってもこちらへの被害が大きいからなぁ」


 今このダンジョンは、正式にダンジョンとして開くなら、やはりDPが足りない。DPの無駄遣いを避けるためにも、できれば五階層まででこの二人を止めたいところだ。ゴブリンやスライムならば、渦があるので簡単に増殖は可能だし。


「俺たちが出るってのもありだが、いかんせんそれもリスクが付く。どうにかならないもんか」


 うーん、と俺たちは頭を悩ませるが、効果的な解決案は出てこない。

 そんな時、俺たちが予想だにしなかったことが起きる。


 ――ミュディガ・ジークリンスが、ダンジョンに侵入しました


「え? 何でミュディガが?」


 思わず玲奈が疑問を零す。

 だが当のミュディガはダンジョンに侵入すると、俺たちにとって望まぬ侵入者である、グランとメリースの方へと、最短距離で突っ走っていく。まるで、二人がそこにいることを知っているかのように。


「二人の侵入に気づいたってことか?」


 しかし、それだけならばたくさんの道が存在する中、二人への最短距離を躊躇なく進めるのかに説明がつかない。


 ここで、今ならばミュディガのステータスを知ることができるのではないか、ということに気づく。この前はミュディガの偽装に鑑定を阻まれたが、ダンジョンにいる今ならば、最上位鑑定を行うことができるため、ミュディガの正確な能力を知ることができるだろう。


「さて、どんな能力なんだか」


 =========


 種族:人間

 名前:ミュディガ・ジークリンス

 性別:男性

 Lv:88

 HP:2643

 MP:791

 STR:403

 GRD:388

 AGI:503

 DEX:411

 INT:375

 MPR:411


 スキル


 魔法剣術

 魔法付与

 達人

 狂戦士化

 超越者の勘

 雷魔法

 土魔法

 上位鑑定

 偽装


 称号


 狂戦士

 元冒険者

 ギルド職員


 =========


 狂戦士化


 理性を失い、本能で動くようになる。

 周囲の敵を倒すか、力尽きるまで止まることはない。狂戦士となっている間は、STR、AGI、INTが1.5倍となる。


 =========


 超越者の勘


 非常に優れた勘。

 その勘の的中率はほぼ100%といっても過言ではない。


 =========


「こんなやばいのが、ギルドで普通に職員やってるのね」


「まあ、恐らくミュディガが特殊なんだろう」


 そうでなきゃやってられない。

 それにしても、超越の勘とか、こんなふざけたスキルのおかげで、ミュディガは二人の侵入に気づいたのだろうか。


 そういえばダンジョンへ向かっている中、黒マントに尾行されていた時も、最初に気づいたのはミュディガだった。今思うと、あれもこのスキルで気づいたのかもしれない。


 それにしても、ミュディガの実力は想定以上だ。

 もし俺たちがこの化け物を倒すならば、このダンジョンの総力をかけて挑まなければならない相手となるだろう。


 そんな相手を、この黒装束の連中は殺そうとしているのだ。

 頼むから俺たちに関係のないところでやってほしい、と願わずにはいられなかった。

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