運命が交差する時
「シッ!」
スミギナの高速の刺突が、ゴブリンの脳天を貫いた。
元Bランク冒険者の槍をまともに受けたゴブリンは、断末魔を上げることすら許されず、その場に突っ伏す。槍を引き抜きながら、スミギナは身体に溜まった疲れを逃がすように、大きく息を吐いた。
場所は『惑わしの魔宮』の一階層。
そんなところで俺たちが一体何をしているのかというと、その答えは簡単だ。
「全く、何で俺がこんな雑魚をひたすら相手にしなけりゃならねぇんだ」
「我慢しろ。調査の冒険者が来て、ダンジョンの評価が制定されるまでの辛抱だ」
「週に一回はこうやって連れてこられて、こんな雑魚ゴブリンやスライムをひたすら狩るだけじゃ、モチベーションが下がっても仕方ねぇだろ」
「お前にとっては雑魚でも、一般人にしてみたら十分脅威だ」
「そんなことは分かってる。だから文句言わずにやってんだろ。こんな面倒くさい間引きもな」
ダンジョンは定期的に魔物を狩らなければ、ダンジョン内の魔物が外に溢れてくるといわれている。その現象を魔物暴走と呼び、それを未然に防ぐためにも、誰かが定期的にダンジョンの魔物を狩らなければならないのだ。
俺がマスターである以上、不必要に目立つ行為をする気はないので、いらぬ心配ではあるのだが、普通の人がそんなことを知っているはずもない。
またこのダンジョンは、まだギルドによる調査が終わってはいないため、一般の冒険者が立ち入ることはできない。
よって、一般の冒険者がダンジョンに潜るようになるまで、迷宮都市領主代行である俺が責任を持って、ダンジョンの魔物を狩っているというわけだ。まあ、戦っているのは俺じゃなくスミギナなのだが。
「ところで、調査の冒険者はいつ到着するんだ?」
「さあ? ミュディガが言うには、あと少しらしいぞ」
こんなに遅れた原因の一つは、前に俺たちがメフォールたちを殺してしまったことが起因している。
近々Cランクに上がると噂されていた、それなりに将来有望な冒険者であったメフォールたちが、調査の段階でダンジョンにやられてしまったとあり、次に送られるのはBランク以上のものとされたのだ。
別にこっちからスミギナを出して調査させてもいいのだが、流石に人様の奴隷、それもこのダンジョンの領主代行の兵にやらせるわけにはいかないらしい。ミュディガも監察官としての都合上、離れるわけにはいかないそうだ。
こちらとしてもミュディガ本人が来ないのは非常にありがたいことだが、もしミュディガ以上の化け物が来たと考えたら、ぞっとする。そんな化け物がそう何人もいてたまるかという話ではあるのだが。
「どちらにせよ、早く来てほしいもんだな。冒険者が来てくれねぇと、延々と俺がこの間引きをやらなきゃならねぇんだからよ」
「そう腐るな。一応、経験値も入るんだから」
「この程度じゃ、何の足しにもならねぇよ。オブザ様も、そのくらい分かって言ってやがるだろ。嫌味か?」
「悪い悪い」
魔物などを倒して経験値を得る時、その経験値の量は自分と相手のレベルの差によっても左右される。そう考えると、エクスペリエンス・スライムを使える俺たちは、レベル上げにおいてはかなりのアドバンテージがあるといえよう。
まあそのエクスペリエンス・スライムも、レベル100で非常に大きな経験値の壁があるため、万能とはいえない。世の中上手くいかないものだが、その悩みを考えるのは俺たちのレベルが100に近くなってからでもいいだろう。
「ま、仕事なんだから我慢し――」
――未確認の生命体が、ダンジョンに侵入しました
そんな唐突にきた通知に、俺は意識を奪われた。
「ん? どうした? 途中で言葉切って」
「ああ、何でもない」
「けっ、どうせいつもみたいな小言だったんだろ。せいぜい頑張りますよ」
そんなスミギナの言葉に生返事を返すが、それを意識することもない。
その通知は、スキル『ダンジョンマスター』の機能から送られたものだ。
通知のタイミングは、ダンジョンに一定以上の魔力を持った未確認の生物の侵入を検知したとき。
この一定の魔力というのが有能で、ほとんど魔力を持たない生物、魔物ではない普通の虫や鳥などを通知の対象から外してくれるため、一々どうでもいいことで通知がくることを防げる。
だがこのダンジョンには既に、俺やスミギナ、ミュディガといった魔力は既に確認されており、未確認の生物なんて通知はくることはない。
またダンジョンの入り口には、冒険者ギルドが用意した魔力障壁もあるため、小さな魔物の侵入は起こりえない。よって、この通知が意味することは――
「ついに、敵も本腰を入れてきたってことか」
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「そろそろ、目的地に着くわよ」
「ついに、俺もダンジョンに挑戦するのか」
街道を歩きながら、俺はしみじみとそう呟く。
この世界に召喚されてから、二か月近く経過しただろうか。
この世界で冒険者として活動しつつ、レーランに魔術を始めとした様々なことを伝授してもらい、ようやくダンジョンに向かうことになった。
行く先は、レーランの知り合いであるミュディガという少年が依頼してきた、新しく発見されたダンジョンである。名前は『惑わしの魔宮』と呼ぶそうだ。
「なんでも、既に二組の冒険者が犠牲になっているようね。油断せず行きましょう」
「当たり前だよ。俺はまだ慢心できるほど強くなってないから」
レーランに鍛えてもらい多少は強くなったが、未だに騎士団長やフェリスには遠く及ばない。きちんとした下地を整えるためにも、ダンジョンできっちり経験を積まなければならない。
「後、町で妙な噂も耳にしたから、そっちにも注意しなきゃね」
「妙な噂?」
そういった情報収集は、俺が偽装を覚えるまではほとんどレーランがしていた。
しかもそれを覚えたのも最近なので、そういったことはほとんどレーランに丸投げだ。あれ? 冷静に考えたら、俺は中々の屑なのではないだろうか。
少し自分が情けなくなりつつも、その噂の内容に耳を傾ける。
「ええ。何でも、その新しいダンジョンに、あまり良くない者たちが向かったらしいわね。あくまでも噂だから、心に留めておくくらいでいいと思うけど」
「なるほどなぁ」
もうしばらく、おっかない思いはしたくないんだけどなぁ。
でも異世界に来たんだから、そんなことは行っていられない。
そういったのも楽しみと思うことにしておこう。
ところで、雷や片桐さんは元気だろうか。
あの二人のことだから、ロービン王国に捕まってるってのは考えられないが、ここしばらくレーランとしか会話をしていないせいか、あの二人と話したくなってしまう。
しかし、そんなことを口にしては、また雷に笑われてしまうだろう。
きっと生きていれば、この先必ず会うことになるはずだ。
案外、その時は突然来るのかもしれないな、と思いながらも、俺はまだ見ぬダンジョンに思いをはせるのだった。




