突然の襲撃
「オブザ様、今から行くダンジョンって、どんなところなんだ?」
ラビリンス・タウンを出て二日が経った。
現在俺たちがいる場所は、ちょうどラビリンス・タウンと俺のダンジョンの中間地点あたりの場所だ。
今まで荷馬車の中は終始無言だったのだが、その沈黙が飽きたのか、スミギナが俺にそう聞いてくる。別に何てことない質問だったので、答えることに問題はない。
「レベル10~20辺りの魔物が出てくるダンジョンだな。内容は五階層まであることは確かだ。それより先は確認していない」
「随分ちょろそうなダンジョンだな。俺一人でも攻略できるんじゃねぇのか?」
確かにスミギナの言う通り、五階層までなら余裕だろう。
仮にも元Bランクであり、実力的にはその真ん中近くに位置するスミギナならば、メフォールたちとは違い苦戦を強いられることなどあり得ない。スミギナならば、もしメフォールたちが来た時と同じダンジョンで、尚且つ俺たちがいなければ、攻略も可能だろう。
だがあの時とは違い、今のダンジョンは、前回までとは攻略難度が跳ね上がっている。その理由の後に語ろうと思うが、そのおかげで現時点のダンジョンは並の冒険者には突破ができないだろう。
「それは無理だろう。確かに魔物の種類こそゴブリンやスライムといったものだったが、面倒くさそうなスキルを持っている。それに罠もそこそこいいものがあったし、恐らく奥に行けばもっと魔物のレベルも上がるだろう」
「なるほど。まぁ五階層だけのダンジョンなんてほとんどないしな」
スミギナはそう言って視線を景色に向ける。
それで再び無言の時間が訪れると思ったが、ミュディガが馬をこちらに寄せてきて、こう進言した。
「ねぇ、オブザ~?」
「何だ?」
「気づかない~? さっきからさ~、視られてるよ~?」
「……何?」
その言葉に、場には少し緊張が走った。
特にそれを聞いたスミギナは、獲物に手を伸ばしつつ、ミュディガに厳しい視線を向ける。
「どういうことだ? 今いる場所は障害物なんてない荒地だ。一体どこにそんな奴がいやがる?」
「確かに~。普通にやれば気づかれずになんて無理だけど~、魔法を使えば話は別じゃないのかな~? 例えばさ~、あんな普通の場所に隠れてたりして~」
ミュディガはそう言うと、右手で魔法の構築を始める。
その魔法は徐々に電気を創り出していき、ミュディガはそれを完成したと同時、俺たちから数十メートルほど離れた何もないと思われる場所にそれをとばした。
すると何もなかったはずの場所から、いきなり黒のマントを着た人物が姿を現して、ミュディガの魔法を躱す。
「あいつか!」
スミギナは馬車を動かしている奴隷に、馬を止めろと言うと同時に、現れた人物に接近していき、俺もそれに続く。
それを見た黒マントの人物は、逃走を図ろうとする。
だが、みすみすそれを逃がす手はない。
「待ちやがれ!」
スミギナは魔力を体に纏わせて、それを追う。
だが黒マントも中々AGIがあるのか、スミギナの全速力でも中々追いつくことはできない。
だが、その逃走を遮るものがいた。
「あはは~、《アース・ウォールⅤ》~」
ミュディガの手から放たれた魔法は俺たちの頭を超え、そのまま黒マントの前に発動し、その逃走進路をふさぐ。そうして足を止められると、スミギナがそれに追いついた。
「おい、少し話を聞かせてもらおうか」
それに対する黒マントの答えは、獲物であるダガーの抜刀。つまり、戦闘開始の合図だ。
「上等だ」
スミギナも己の武器である槍を構えつつ、魔法の詠唱を開始する。
勿論黒マントがそれを黙ってやらせるわけがなく、素早く何かを放った。
「ちっ!」
スミギナはそれを避けるが、再び詠唱を開始しようとすると、同じものを放った。恐らく、投げナイフの類のものだろう。毒が塗られている可能性があるそれを、万が一にも食らうわけにはいかない。
「それなら、これでどうだ!」
詠唱はさせて貰えないと思ったスミギナは、素早く無詠唱で魔法を構築して、黒マントに放つ。
ここで説明するが、魔法には大きく分けて二種類の出し方がある。
一つは詠唱構築。
魔法の構築を魔力を乗せた声で行う手法だ。利点としてはまず魔法が安定し、それに加え複雑な式を行うことが可能になることだろうか。
二つ目は無詠唱構築。
こちらは単純に補助なしで魔法の構築を行う手法だ。利点としては詠唱を行わないことで、素早く魔法を放つことができることだろうか。
他にも魔法の構築方法はあるが、基本的にはこの二つだ。
閑話休題
無詠唱で放たれた魔法を見て、黒マントはスミギナとの距離を詰める。
無詠唱魔法は詠唱魔法に比べれば威力は数段落ちる。確かに黒マントのその判断は正しい。
黒マントはスミギナの魔法をガードし、距離を詰める。
スミギナも速さ重視の魔法でダメージを与えることができるとは思っていなかったのだろう。槍に魔力を纏わせ黒マントを見据えた。
「しっ!」
黒マントとスミギナの戦いが始まった。
スミギナが槍を振るい、黒マントが手に握られたダガーと、その身のこなしでそれを捌く。
隙を見て黒マントは飛び道具、魔法を用いて突破口を開こうとするが、スミギナもそれをしのぐ。
スミギナから見れば、槍で中々仕留めれれないが、黒マントから見ればリーチの差で近づけず、尚且つ奇襲を防がれるという状態に陥る。
だが、そんな戦いに先に綻びが生じたのは、黒マントの方だった。
「ぐっ!」
槍が黒マントの頬を掠り、思わず声を漏らす。
スミギナの突きは時間が経つにつれキレが増していき、黒マントは疲労も溜まってきたのか、少しずつスミギナの突きを捌くことが困難になっていった。
「おらおらぁ! どうした? こんなもんかぁ!?」
「ちっ、なめるな!」
黒マントは初めて声を荒げ、獲物のダガーを振るう。
だがそれも長くは続かず、徐々に傷口を増やしていった。
そしてついに、スミギナの槍が黒マントの動きを捉え、その腹を貫いた。
それは急所ではなかったが、勝負はあっただろう。地球で銃弾を胴体にくらった人間がまともに戦えなくなるように、この傷では戦闘の継続はほとんど不可能に近い。
スミギナが槍を引き抜くと同時、黒マントは血を吹いて地に膝をつく。それでも倒れないのは、黒マントの意思の力に寄るものだろう。
そこまで黙って戦いを見ていた俺は、黒マントに近づき質問を開始した。
「お前は何者だ? 何故俺たちを監視した? 何故いきなり戦闘を仕掛けてきた?」
「……何一つ、答える気は……ない」
まぁ、想定通りだ。
いきなり襲った相手に情報を吐く奴は少ないだろう。
「お前が質問に答えるなら、俺たちはお前の命を約束する。それでも、か?」
俺はとりあえず様々な手を用いてゆさぶりをかけようと試みる。だがそれはすぐにできなくなった。
「……あまり私を、なめるなよ」
黒マントの人物はそう言って、何かの魔道具に魔力を込める。
それを見たスミギナは、血相を変えてこう叫んだ。
「オブザ様! 下がれ! そいつ、自爆する気だ!」
「ちっ!」
俺は咄嗟に後ろに跳んだが、恐らく完全な回避は間に合わないだろう。
一応オブザの範囲で込めれれる魔力を体に込める。
爆発
視界は強烈な爆炎に覆われ、その爆発で俺は吹き飛ばされた。




