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奴隷との初対面

 奴隷商を出た俺は、冒険者ギルドから紹介された宿に到着した。


 その宿は木造の宿で、様々な冒険者がいる。

 広さも十分あり、他の冒険者が多くいるところを見ると、そこそこ儲かっている様だ。


 ちなみに買った奴隷は、俺の後ろを歩かせている。

 奴隷は高価で、中々買うことが出来ないものなので、自然とその主である俺にも注目が集まる。

 あまり居心地は良くないが、しょうがないだろう。


 宿の扉を開けて中に入ると、受付に10代ほどの少女が座っていた。


「いらっしゃいませ! 『迷宮の木陰亭』へようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」


「一泊したい。人数は十人。部屋は五つ。一人部屋が三つと三人部屋が一つ、五人部屋が一つだ」


「了解しました! 宿泊料は二万リエルとなります!」


「そうか」


 俺はそう言って金貨二枚を差し出した。

 受付の女はそれを受け取ると、五つの鍵を取り出して、それを差し出しながらこう言う。


「お客様の部屋は17、18、19、32、51です。32が三人部屋で、51が五人部屋になっています。ちなみに、この宿は食事を付けておりませんので、別の食堂で食べて行ってください。その際にうちの宿屋の鍵を見せれば、値段が一割値引きされます」


「分かった。わざわざ親切にどうも」


「いえ、これも仕事ですので!」


 そう言う元気な受付の女に別れを告げ、俺は奴隷たちを連れて51の部屋に向かった。

 そこは五人部屋と謳っているだけあり、ベッドは一応五つあり、部屋も中々の広さだったが、やはり日本に慣れた俺からすると、ベッドは木の板よりまし、という感想しか出てこなかった。


 俺はその内一つのベッドの上に座ると、俺は床に指をさし奴隷たちにこう命じた。


「座れ」


 奴隷たちはそう言われると逆らわずに座る。

 俺はそれに対して腕を組み、奴隷たちに向かってこう言った。


「一応自己紹介しておく。俺の名前はオブザ。お前らの主人になったもんだ。お前らの名前は?」


「……買う時に聞いてるだろ」


 そう呟いたのは元B級冒険者のスミギナだ。

 俺はそれを聞くと、スミギナの目の前に移動する。そうしてスミギナの頭をつかみ、床に叩きつけた。


「がはっ……」


 そうしてスミギナの顔を俺の目の前にあげると、こう告げた。


「そんなことは聞いてない。素直に聞いたことに答えろ」


 脅しの意味も込めて、スミギナにそう言う。

 スミギナは顔を歪め、こちらの顔を敵意が籠った視線で見る。殺気の滲んだそれは、現代の普通の高校生ならば、視線だけで相手を制することができそうなほど凶悪なものだ。


 だが、裏の世界にいた俺には意味をなさない。

 俺はその反抗的な視線を見て、もう一度思い切り床に顔を叩きつける。


「返事は?」


「……ぷっ」


 返ってきたものは唾だった。

 俺はそれを見て、心の中でため息をついた。


 こうなることは、一応想定はしていた。

 俺は見た目的には強そうではないし、特にスミギナにはB級冒険者としての自尊心などがあるのだろう。C級の俺に素直に従うとは考えにくい。


 だが、こういう上下関係は、初対面の印象が大事だ。

 この人に逆らってはいけない。そう思わせるためには、俺がここでこの行為を不問にするわけにはいかない。


 この奴隷たちはいわば駒なのだ。

 ダンジョンを発展させるための駒。そのためには最低限、こちらが言った仕事くらいやってもらわなければ困る。


 こちらが黙っていたことをどう感じたのか、スミギナは俺にこう言ってきた。


「はっ、主人だからってあんまり調子に乗ってんじゃねぇぞ。主人でも俺の行動を強制させることはできねぇからな。隷属魔法で苦痛を与えることはできるがそれだけだ。高い金払ってまで俺を買ったんだろ? 俺が言うこと聞かなくて困るのはあんたのはずだ。どうなんだ?」


「……言いたい事はそれだけ?」


 俺は呆れた思いも隠しもせずそう言った。

 そして能力を発動させる。


 少し素が出てしまった俺の言葉に「は?」とスミギナは反応したが、その顔は地に落ちることになる。

 俺の手から振るわれたナイフの一閃が、スミギナの首筋を掻っ切ったからだ。


「きゃああああ!」


 スミギナの首筋から流れる血を見たイネアは、目に涙を浮かべながら叫んだ。

 イネアだけではなく、他の奴隷も俺を見る視線に、恐怖が含まれていた。


 印象付けはできたかなと思った俺は、指を鳴らして能力を解除する。

 するとスミギナの首の傷は消え、流れていた血も、霧が晴れるように消えた。


 それを見たイネアを始めとした奴隷たちは困惑の表情を浮かべ、当事者のスミギナも目を丸くしている。


 まあそうだろうな。

 何故ならスミギナ本人も、先ほどまで首を切られた痛み、湧き出る血の温もりを直に感じたのだから。


 ネタ晴らしをすると、これはスキル、幻惑の力だ。

 周りの奴隷たちの視覚を惑わし、俺がスミギナの首筋を切った幻影を見せた。スミギナには視覚だけではなく、触覚も惑わせた。


 魔力をそこそこ使用したが、それに見合った成果はあったようだ。

 俺はスミギナにナイフを突きつけながらこう告げた。


「今のは警告だ。二度目はない。次は本当に殺すぞ」


「……」


 あれだけ強気だったスミギナだが、目に恐怖の色を浮かべて大人しくなった。

 まあ死の恐怖を与えられて、尚且つB級冒険者のスミギナですら理解できないなんらかの技を受けたのだ。当たり前といえば当たり前だが。


「返事は?」


「……分かりました」


「それでいい」


 俺は満足して、スミギナから視線を外す。

 そして奴隷たち全員を一瞥すると、再度俺は奴隷たちにこう言った。


「さてと、お前らの名前を聞こうか」


 今度は、それに反論する声を発する者は、誰一人いなかった。

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