冒険者ギルドへ 3
「迷宮都市領主代行権……ですか? それは一体どこの?」
ナザイは困惑した様子で俺にそう聞いてきた。
まあいきなりそんなことを言われたら困惑するのも無理はないか、と思いつつ補足を加える。
「少し内容が不十分だったな。実は少し前この国で新たなダンジョンを見つけたのだ。そこの領主代行権を貰おうと思ったのだが」
「……そうですか。それでは担当の者を寄越しますのでしばらくお待ちください」
そう言うとナザイは裏の方に引っ込んでいく。
それからしばらくすると新たな人物が出てきた。
髭を生やした50代ほどの男だが、纏っているオーラというか、威圧感が凄い。体の方もかなり鍛えているといった感じで、相当の実力者だと思われる。
その人物は俺の方を見ると、値踏みするような視線を浴びせてから俺に声をかけた。
「儂はガニム・ゲンドリフィという、この冒険者ギルドのギルドマスターじゃ。お前がオブザだな?」
「ああ」
「立ち話では済まなかろう。奥の個室に案内するから付いてこい」
ガニムと名乗ったおっさんはそう言うと、別の場所へ歩いていく。
俺はそれに付いて行き、やがて応接室のような場所に入ると、ガニムはその部屋にある椅子に堂々と座ったので、俺もそれに向かい合う形で座る。
一応ガニムを鑑定してみる。
=========
種族:??
名前:ガニム・ゲンドリフィ
性別:男性
Lv:??
HP:??
MP:??
STR:??
GRD:??
AGI:??
DEX:??
INT:??
MPR:??
スキル
??
称号
ギルドマスター
=========
俺の鑑定スキルが弾かれるということは、こいつは偽装のスキルを持っているということなのだろう。
俺が鑑定をしたのが分かったのかガニムは「儂には上位偽装のスキルがあるから最上位鑑定をしなけりゃ儂のステータスは分からんぞ」と言った。
このやりとりをしたすぐ後に「失礼します」と言って部屋に誰かが入室してきた。
その人物は30代から40代ほどの女性と思われる人物だが、その動作は洗練されており、実力は間違いなく備わっていそうだ。
俺がその人物の方へ目を向けると、相手も俺の目を見て自己紹介をする。
「私はギルドマスターの秘書を務めています、ヴァネッサという者です。以後お見知りおきを」
「さて、自己紹介も終わったしそろそろ本題に入らせてもらうぞ。まずは新しいダンジョンというものからだな」
「ああ」
俺は事前に決めていた通りの内容をガニムに話した。
ダンジョンを見つけたのはここに来る五日ほど前ということ。
そのダンジョンにはほとんど人の痕跡がなかったこと。
ダンジョンにはゴブリンとスライムしかいなかったが、全てレベルが10ほどあり罠もそこそこあったということ。
4層へ向かう階段を見つけたところで引き返したこと。
そのダンジョンでの宝箱で、香辛料という他のダンジョンでは見えない画期的なアイテムがあったこと。
魔剣を手に入れて金が物凄く手に入るので、これを機にそのダンジョンで迷宮都市を創りたいということ。
それをするためには領主代行権が必要なため、魔剣の売却も兼ね冒険者ギルド本部に来たということ。
ここまでを説明し終わるとガニムが口を開いた。
「なるほどな。確かにそのダンジョンには可能性を感じてもおかしくない。魔剣の金があるならば迷宮都市を創ることもできるだろう。だがなぜ領主代行になりたいんだ? お前はCランク冒険者。50の壁も近いじゃろう。そんなお前がなぜ?」
この問いの答えも事前に決めているので、その通りに答える。
「最近冒険者の方にも行き詰まりを感じてきてな。それにCとBでは依頼内容の難易度も大きく違う。ならばこの位で俺の冒険者としての人生を終わらせて新しいことをしようと思ったんだ」
「……そうか。お主がそういうのならば儂は何も言わんよ。……では領主代行の審査を始めるとするか。といっても実際に見る点はおおよそ3つだ。1つは財力。最低限の施設は作ってもらわんと困るからな。お前に至っては楽々クリアしている。2つ目は実力。お前は都市を運営できるほどの能力があるのか?」
「それに関しては能力のある奴隷をここで揃えようと思う。その為の金なら惜しまないつもりだ」
「ではそれも解決だな。では最後にお前の性格なのだが、会ってすぐの儂には分からん。まあこれも冒険者ギルドに反旗を翻しそうな者を落とすためなのでな。大体これは監視役として冒険者ギルドから人材を派遣して、そこそこの権力を持たせてもらえば解決なのだが……どうだ?」
「構わない。ばれて困るようなことは何一つ無いし、反旗を翻すつもりもないからな」
本当は、ばれて凄く困ることはあるが、如何にもそんなことはないように言う。
それを聞くとガニムは息を吐いて、椅子から立ち上がる。そして視線を下ろして俺にこう言った。
「ならばこれで審査は終わりだな。……といってもまだ発見してすぐのダンジョンの領主代行など、余程問題のある奴以外は落としたりはしないがな。……ヴァネッサ、例の物を」
「はい」
ヴァネッサは懐から一枚の紙を取り出し俺に渡す。
その紙には俺が領主代行になることを認めることと、ギルドマスターのサインが記してある。
こんな簡単でいいのか、と俺が思っているとヴァネッサがこう口を開く。
「……正直ナザイがこのことを報告してからほとんど決まっていたようなことなので。この場を設けたのは単純にギルドマスターがあなたと話してみたかったというだけですよ」
「そういうことは言わなくていい、ヴァネッサ。実際直に話をしてみるのは大事だろうが」
「……まあそうなのですが。言っているのがあなただから説得力ないんですよ」
俺はそれを聞いて、この人は相当の苦労人なんだろうなぁ、と思った。




