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閑話 二人が去った王城


「ほ、炎が、……消えた」


 炎が消えた直後、力の無い声で工藤がそう呟いた。

 他のクラスメイトも、「あれっ? 何で急に?」「も、燃えてない。何で?」等と各々が呟いている。


 雷が放った炎の幻は、雷が「んなっ!」と声が聞こえた数秒後に消滅した。だが、もうここにはもう雷の姿はなく、そして片桐さんの姿も無くなっていた。


「デフリー、これは?」


 マリア王女はさっきまで幻惑とはいえ炎があったのにも関わらず、周りの女子生徒と違い、あまり混乱せずに騎士団長に訊ねる。肝が据わっているというかなんというか。

 やっぱり王族なんだなぁ、と思わされてしまう。


「恐らく、勇者ライのスキル、幻惑の力でしょう。素晴らしい効力ですね。私もスキルを知っていたのに一瞬本物だと思いましたよ」


 確かに、と俺もその言葉には共感する。間違いなく幻惑だと、頭では分かっていたのだが、いざ前にしてみると本物としか思えなかった。それほどのリアリティだった。


「勇者ライはどこに?」


「分かりません、恐らく、炎に乗じてこの場から脱出したのだと思われます」


「急いで、騎士たちを捜索に向かわせて」


「御意」


 そう言った騎士団長は急部下の何人かに指示を出し、それを聞いた部下と思われる人物たちも、急いで行動に移していた。


「勇者様方、申し訳ありませんが、この話の続きはまた後程。今すぐ個室にご案内致しますので、しばらくお待ちください」


 マリア王女はそう言って、お辞儀をする。

 そして、マリア王女や、その他の人達もあわただしく行動し始めた。


 その様子を俺、斉藤茂信は見ていたが、やがてクラスメイトの誰かが言った。


「お、おい、片桐さんはどこにいったんだ?」


 それを聞くと他のクラスメイトも「そういえばいないな」、「さっきまではここに」、など各々片桐さんのことを口に出す。


 恐らく、もう無駄だと思った。

 既に雷と共に、ここではないどこかにいるのだろう。


 取りあえず状況を整理しようかな、と思うと、ポケットに何か入っていることに気付いた。

 気になって取り出してみると、それは一枚の何かが書かれたメモ用紙だった。


 俺はそのメモの内容を見る。


『 我が友 茂信君へ


 やっほー、元気にしているかい?


 さてさて、まあいきなり本題に入るが、お前がこのメモを読んでいるってことは俺は既にこの場にいないってことだ。

 一応言うがもうここではないどこか遠くの場所にいると思う。だから探しても無駄だぞ。

 まあそこで俺は安住の地を築こうと思う。お前ならこの世界でも生きていけるだろ。それじゃあまた会う日まで。お大事に。

 あ、後片桐とも仲良くやれよ。


 雷より 』


 俺はそれを読み終わると、メモをポケットに戻す。

 やはりというべきか、雷も片桐さんを連れていく気はなかったようだ。だが、この場にいないということは一緒にいるのだろう。


 そんなことをしていると、クラスメイトがマリア王女の元へ向かっていき、何かを訴えていた。俺もその内容に耳を傾ける。


 まあ、その内容は予想通りというべきか、片桐さんがいなくなったというものだった。

 それを聞いたマリア王女は、急いで片桐さんも捜索の対象に加えるよう、騎士たちに命令を出していた。


 クラスメイト、主に男子からは「何で片桐さんが……」、「風間だ、風間が連れて行ったんだ!」、など声をあげている。


 まああの二大女神と呼ばれている、男子から超人気の片桐さんがいなくなったらこうなるのも納得だよなぁ。


 そんなことを考えていると、騎士がこちらに数人やってきて、俺達に向かってこう言った。


「勇者様方を個室へご案内します。私についてきてください」


 俺たちはそう言った騎士たちについていった。


 =========


 案内された場所で、俺たちには一人一人に個室と、メイドや執事が与えられた。男子生徒にはメイドで、女子生徒には執事だ。


 その個室は超高級のスイートホテル、とまではいかないが、日本にあるビジネスホテルのような部屋だった。シャワーもあるらしいが風呂はなかった。


「初めまして、斉藤様。私はあなたのお世話をすることになったメイドのレーランと申します」


「よろしくな、レーラン。知ってると思うが俺は斉藤茂信だ」


 軽く自己紹介をする。


 レーランは青っぽい紫の髪をボニーテールにしている。日本のアイドルなどにも負けていないレベルの美人だ。正直こんなレベルで容姿のいい人物を俺達全員に派遣したのだろうか。だとしたら凄いなぁ。


 だがレーランの動きをよく見ると、レーランの動きはどれも素人のそれではなかった。

 武術をそこそこ習っていても、普通では分からないと思うが、足運びをとってもあまり無駄がなく無駄な音が出ていない。


 俺はレーランが少し気になり鑑定をした。


 =========


 種族:人間

 名前:レーラン

 性別:女性

 Lv:7

 HP:81

 MP:49

 STR:14

 GRD:15

 AGI:15

 DEX:18

 INT:15

 MPR:14


 スキル


 メイドの心得

 下位鑑定


 称号


 メイド


 =========


 ん?思ったより普通だな。俺の勘違いか?


「どうしたのですか?斉藤様」


 こちらを伺うような声音でレーランが訊ねてくる。

 俺は「何でもないよ」と言おうとして、その言葉を飲み込んだ。レーランのこっちを値踏みするような眼を見たからだ。

 そしてその眼には、こちらを訝しむ色と俺を値踏みするような色、そして少しばかりの焦りが見られた。


 そこで俺は意を決してレーランに話しかけた。


「レーランってさ、偽装のスキル、持ってるでしょ」


「っ!」


 当たり。

 鎌をかけただけだったが、レーランの一瞬だが動揺した顔を見て、俺は確信に変えた。


「なぜ、そのようなことを?」


「何でだろうね」


「答える気はないんですね。……あなたの予想通り、私は上位偽装を持っています。それが何か?」


 うわぁ、開き直ったよ。

 表情も微笑んではいるが、少し圧力を感じるのは気のせいじゃないだろう。


「何で偽装してるんだろうな、って思って」


「……聞かないでもらえますか?」


「嫌だね、ぜひぜひ教えてよ」


 これが俺が嫌われている理由その1だ。

 色んなことに対して、何で何でと追及したりするので、「しつこい」とか「空気読め」とかよく言われる。

 まあそれだけじゃないんだけどね。


「………私には少しばかり厄介な事情があるんですよ」


「それを聞いてんだけど」


「……よくデリカシーないとか言われませんか?」


「言われるねぇ」


「……そうですか。………まああなたならいいでしょう。偽装を外すので鑑定してみてください」


 レーランがそう言ったので再び鑑定を行う。


 =========


 種族:エルフ

 名前:レーラン

 性別:女性

 Lv:71

 HP:2893

 MP:1401

 STR:431

 GRD:343

 AGI:432

 DEX:411

 INT:523

 MPR:451


 スキル


 メイドの心得

 魔法剣術

 魔法付与

 精霊のベール

 上位鑑定

 上位偽装

 達人

 炎魔法

 水魔法

 風魔法

 雷魔法

 土魔法


 称号


 魔法剣士


 =========


 魔法剣術


 剣術、並行詠唱、の統合スキル。


 =========


 魔法付与


 物質に魔法を付与することの出来るスキル。


 =========


 精霊のベール


 上位鑑定までの鑑定スキルを無効化。

 体の一部を擬態することが出来る。


 =========


「強いなぁ、あの騎士団長ほどじゃあないが」


「あのローレンスは、はっきりいって異常のレベルです。彼は単独で竜をも殺してしまえるほどの人間なんですよ」


「よく、今までその化け物に気付かれなかったな?」


 俺が関心したようにそう言うと、レーランはこう答える。


「普通は気づかないんですよ。それに私とローレンスは面識がないので気づかれる要素がありません。強いていうなら、遠目で見る程度ですね」


「っていうか、レーランってエルフだったんだな」


「はい、驚きました? それとも軽蔑しますか?」


「驚きはしたけど軽蔑はしないだろ」


 何でエルフってだけで軽蔑せにゃならんのだ。


「あなたは知らないかもしれませんが、この国は所謂人類至上主義というやつです。国王曰く、人間様が一番偉いんだから従え、っていってますね」


「何で人間が一番偉くなってんのかねぇ」


「あの人達に聞いてくれませんか? おかげでこっちは常に精霊のベールを使わないといけないんですから」


 エルフってだけで大変そうだな、と思いつつ、俺は質問を続けた。


「ところで、何で俺にエルフってことや本当のステータスを教えたんだ? ステータスだけ教えてエルフのことは隠すことも、いっそ白を切ることも出来たろうに」


「んー、強いて言うなら自暴自棄になっていたのと、後は驕りですかね?」


「驕り?」


「どうせばれても、逃げることは出来るし、そうなる前にあなたを殺すことも出来るという驕りです」


 俺はそれを聞くと、背筋に寒気が走った。

 レーランの選択次第では、俺は殺されていたかもしれない、と思ったからだ。


「レーランは何で俺達が召喚されたのか分かるか?」


「さぁ、でもあの国王のことだから魔に対する対策もあると思いますが、獣人や私達エルフ、その他にもドワーフ達との戦争のための戦力にするためやダンジョンとかを攻略させるためでは。あなた達勇者は、言ってしまえばそこそこいい待遇をさせれば、従ってくれるいい戦力ですので」


 俺はそれを聞いて、この国はちょっとやばいかもな、と思った。

 人類至上主義で戦争を挑みまくり、勇者を戦力として扱う。


 俺達、勇者を手に入れてからさらに暴走すれば、この国は近々滅びるんじゃないか、と思えてくる。

 それから逃げるには国外に逃亡するしかない。だがこの国が勇者を逃がしてくれるわけがない。


 それならば雷がやったように無断で不意をついてこの城から脱出するしかないだろう。やるならば早ければ早い方がいい。


 城を出ることを決めた俺は、レーランに向けてこういった。


「なぁレーラン、俺と一緒に国外に行かないか?」


「はぁ? 何言ってるの? 急に」


 レーランは驚いたせいか今までの丁寧語も抜かしてそう言ってきた。まあ自分でも急すぎることをいっているのは自覚しているので文句はないが。


「いやさ、この国勇者手に入れたことで暴走しそうだし、片桐さんも雷もいないクラスなんてつまんないし、それにレーランだってこの国にいい印象持ってないだろ?」


「まあ、それはそうだけど……でも、私にはここ以外に行くところがないのよ。エルフだと、色んなところで煙たがれるし。それに私は……」


「別に俺、気にしないし。それなら、俺と一緒にお前を煙たがらないようなところまで行こうぜ」


 俺は笑みを浮かべてそう言った。


「っ……ああ、もうっ! 分かったわよ! しょうがないから、あなたと一緒に行ってあげるわ。どうせあなたは、この世界のことほとんど知らないんだろうし」


「おう、その辺は頼むぜ。後、俺のことは茂信でいいよ、レーラン」


「……分かったわ、よろしくね、シゲノブ」


 勇者召喚が行われたその日、三人の勇者と一人のメイドが王城からは失踪したのであった。

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