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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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95/95

95話◆マル君と、お友だち。

「アヴニール!」


学舎の門の前でウォルフに声を掛けられ振り返る。


下級貴族の子息であるウォルフは、少し距離のある下級貴族男子の寮から毎朝歩いて登校する。

僕は上級貴族のお坊ちゃんだが馬車を使わずにウォルフ同様に歩いて登校するので、こうやって学舎の前でウォルフと会う事があり、合流したら仲良く一緒に教室に行く。


上級貴族のお嬢様やボンボンがたむろする馬車の停留所には近付きたくないからな。

ピヨコとか、変態王太子とか、脳筋ボンボンとか、裏表激しい司祭とか、煩わしいのが色々居るワケだよ、そこには!

だから面倒クサいのに絡まれる前に、ウォルフとさっさと学舎ん中に入るワケなんだが…。

今日はウォルフの後ろにマル君が居た。

余りにも意外な人物の登場に、僕は思わずフリーズしてしまう。


え…マル君?いつも必ず馬車を利用し「ハッハッハ下民どもめ」みたいな態度で、馬車の中から歩いて登校している生徒達を「底辺のクズが」と見下していたマル君がウォルフと共に歩いて登校?


「…オレはそこまでヒドい見下し方をしていない…。」


おっと、心に思っただけのつもりが、まるっと声に出しちゃっていたよ。

マル君だけでなく、ウォルフまで引き気味になっちゃったじゃん。

それにしてもマル君…えらく消極的な否定の仕方だな。


今までだったら「お前!オレ様をバカにする気か!パパに言いつけて、お前んちなんか潰してやる!」とか言ってそうなもんなんだけど。

まぁ、そう言われたら「黙れブタ!お前んチこそ潰してくれるわ!物理的な破壊ってカタチでな!」って返すだけなんだけどな。


「アヴニール…心に思ってる風なセリフを、わざわざ声に出して言わないでくれ…。

物凄く心臓に悪い。」


マル君が泣きそうな顔をして俯いており、顔面蒼白状態のウォルフが胃のあたりを押さえて呟いた。

お父さん同様に苦労人気質だよなー、ウォルフは。

自分が僕たちの仲を取り持たなきゃとか思ってんのかな。

ケンカなんか当人同士で勝手にやらせときゃいいのに。

いや、これは…容赦無い僕の口撃からマル君を庇ってるのかも知れない。


ただ…なるべく関わりたくないとマル君から距離を置いていたウォルフがマル君を連れて僕の所に来た。

そして、今までの横柄な態度が一切無くなったマル君。

それどころか、何かに怯えているようにも見える。

ウォルフも、そんなマル君の様子を見て放っておけなかったんだろう。


今までを反省して態度を改めたなんて易しい話しでないのも分かる。

彼のこの変化にデュマスが関わっているのは想像に難くない。


「……いや、あまりにも珍しい組み合わせでさ。

ウォルフがマル君と連れだって歩いてるなんて。

なんか色々勘繰っちゃうと言うかさぁ。」


「……マルセリーニョ様は、アヴニールと友達になりたいそうなんだ…。」


そう言いながらも困惑気味なウォルフの後ろに居るマル君は、ぽってりした大きな身体が小さく見えるほど萎縮して俯いている。

昨日、学食前で僕に「友だちになれ」と言って来た時とは態度にえらく差があるけど、僕と友だちになりたいという主旨は変わっていない。

これは………デュマスの指示によるものなのか。


よくよくマル君を観察して見ると、ウォルフの背後で背を丸めて俯いたマル君は、何かに耐えるように自身のズボンの腿部分を強く握っている。


「ねぇマル君…昨日、もう友だちになりたいなんて話し掛けてこないでって僕、そう言ったよね。」


僕の言葉に反応したマル君は、ビクッと身体を強張らせてから「ごめんなさい、ごめんなさい」と壊れたオモチャのように謝罪の言葉を繰り返し言い続け出した。

これは僕に謝っているのではなく、「僕と友だちになる」事をマル君に強要している人物に対する謝罪だ。


なんて分かりやすいんだろう……マル君はデュマスにとてつもない恐怖心を抱いている。

だから友だち計画が失敗しそうな今、怯えから謝罪の言葉が口をついて出る。

昨日の今日、たった一日でここまでになるとは、どれ程の恐怖を植え付けられたのだか。


━━子どもに対する容赦ない暴力が原因か?━━


ああ…ムカつくなぁ…デュマスさぁ………

僕が本気で殺そうとしたデュマスとは中身が違うんだけど…

本物を殺してデュマスに成りすましている今のお前の方が大概だわ…胸くそ悪い。


━━━━━━死ねよ。


「ッ…」


怒りで思考が短絡的になりかけ、殺意が湧いた。

昨日湧いた殺意ほど強くは無かったから、すぐ我に返る事が出来たけど。

ムカつく、腹が立つ、けど怒りを抑えて考えてみよう。

生意気とは言え、無抵抗の子どもに大人が暴力を振るうなんて許せない…が、そこまでしてマル君に僕と友だちになる事を強要する理由が奴らにはある。

僕とマル君が友だちになった、もっと先に奴らの本当の目的がある筈だ。

それを探る、またとない機会かも知れない。


「いいよマル君。

ウォルフの顔を立てて友だちになろう。」


「ほ…本当に?本当にいいのか…?」


僕が友だちになる事を了承すると、マル君がウォルフの背後からヨロヨロと出て来た。

声は震えて目はうるうるで、今にもわんわん大声で泣き出しそうな雰囲気だ。


「いいよ、そこまでして僕と友だちになりたいって言うのなら。

でも!君の方が年上だからって敬ったりしないから!

僕たち同級生なんだからさ!」


デュマスに僕に対する不信感を抱かせてはいけない。

僕は魔法や剣の腕前は優秀だが、あくまで子ども。

優秀でも幼い子ども━━そう舐めてもらわないと。

僕の本心がデュマスを探ろうとしているって事を気付かれないようにしとかなきゃ。


「アヴニール!!ありがとう!ありがとう!」


マル君に思い切り抱き着かれた。

僕に抱き着いたマル君は、そのまま大声で泣き始めた。

恐怖から解放された喜びと感謝と、大きな安堵からの大泣きだったのだろうけど、学舎の前でのそれは余りにも目立ってしまった。


「聞き覚えのある声がしたから来てみれば…

あんた、何やってんのよ!!」


馬車の停留場所方面からアフォンデル伯爵令嬢がやって来た。

いつも周りに対してふてぶてしい態度を取る弟が、大号泣で「ありがとう」を連呼している。

しかもその相手が憎っくきローズウッド家の僕だ。


「あ、姉上…」


「みっともない!

アフォンデル伯爵家の子息がローズウッドの子息なんかに礼を言い続けるなんて!やめなさいよ!」


アフォンデル伯爵令嬢は、眉間にシワを寄せ憎々しげに僕を睨みつけるとマル君の腕を掴んで引っ張った。

マル君の顔がサァッと一瞬で青ざめる。

マル君は剥がされないよう僕に思い切りしがみついてきた。


「えっ…!ちょ…!マル君!引っ張られ…!」


鬼の様なバリ強な体幹を持ってる僕だが今は普通の子どもらしくを心掛けており、口半開きでヨダレを垂れ流すほど力を抜いているので、抱き着いたマル君ごとアフォンデル令嬢の方に身体が強く引っ張られ、フラっと足元をよろけさせた。


こんな状態でマル君に抱き着かれててもルイは嫉妬してくれるのかな?


じゃなくて!

マル君は姉さんのせいで僕が友だちになる事をやめるのではないかと僕を引き止めるのに必死だ。

姉さんを説得するという選択肢は頭から抜け落ち、とりあえず僕から離れまいとする。


「マルセリーニョ!そんな奴なんかと仲良くなんかするんじゃないわよ!」


「駄目だ!オレはアヴニールと友だちになるんだ!

でないと次は姉上が!!」


アフォンデル令嬢はマル君の言葉を理解していないっぽいが、僕は一瞬でマル君の心情を理解した。 

彼は姉を守るために必死なんだ。

そう、彼も僕と同じく姉を慕う可愛い弟なのだ。

いや、可愛さも姉様愛も僕の方が格段に上だがな!


マル君はアフォンデル令嬢が自分と同じ目に遭わないように守ろうとしている。

そして、僕をマル君から遠ざけようとする今の令嬢を見る限りでは、彼女はまだデュマス一味の影響を受けてない。

だが、いつか彼女にもデュマス一味の魔の手が掛かるかも知れない。


僕はブレスレットに変化しているイワンに、マル君とアフォンデル令嬢2人の監視をするようひそかに命じた。

イワンは髪の毛より細い糸に変化した分身を2人の衣服の糸に紛れ込ませる。

今のイワンは分体をあちこちに出してるし、その分感度も鈍く、分身に細かな指示を出す事は出来ない。

だから全ての苦痛から完全に守ってあげる事は出来ないけど…せめて命が脅かされるような事だけは無いように…


「私が何だって言うのよ!

こんな奴と友だちですって!?許さないわよ!」


あー…あー…!あああッッ!

たった今、イワンを寄越して「せめて命だけは」と弟共々守ってやろうと思ったんだけど!

キーキーうるさい!

めちゃくちゃイラっとするわ!このクソアマァ!

弟が何で、こんなに必死になってるかとか少しは頭を働かせろよ!それに!

あんたが弟のマル君を引っ張るせいで、それに抵抗するマル君が僕にしがみつくから、僕の身体がガクガク揺さぶられて髪も衣服もシワクチャのボッサボサなんだけど!

ルイが朝からブラシ片手に愛と丹精を込めて整えてくれた、愛らしい僕がボロ雑巾のように!

ムカついた僕が暴れ出す前に誰か何とかしてくれ!


「まぁアフォンデル様、淑女がそのような乱暴な行いをなさってはいけませんわ。」


小鳥のさえずるような、清らかな鈴の音のような声が聞こえ、アフォンデル令嬢の動きがピタリと止まる。

ガクガクしていた僕とマル君もピタリと止まった。


声のした方を向くと、そこにはたおやかに微笑む姉様の姿があった。


ああ…シャルロットという名の女神降臨……!!

姉様!姉様!姉様!マジ姉様!神タイミング!

美しい!姿カタチは元より声も魂も現れたタイミングも全てが美し過ぎて…どうする!?どうしたらいい?

なんかもう色々たまらんのだけど。

姉様、僕の嫁にならんか?


「なによ!貴女には関係ないでしょ!

引っ込んでなさ……」


姉様が連れて来たのか、姉様の背後にはクリス変態王太子と脳筋グラハムが居た。

姉様、よく分かってらっしゃる!


クリス義兄様の王太子妃の座を狙ってるアフォンデル令嬢は、義兄様の前では可愛い女の猫をかぶってるから本性を晒す事が出来ない。


「おはよう、アフォンデル伯爵令嬢。

大きな声を出していたが何かあったのかい?」


「い、いえ…殿下、何でもございませんわ…ほほほ…」


しれっとすっとぼけた質問をするクリス義兄様に、アフォンデル伯爵令嬢はマル君から手を離して誤魔化すような苦笑いを浮かべて一礼し、そそくさと逃げるようにその場を離れ学舎へと入って行った。

令嬢が居なくなって、僕はマル君をくっつけたまま姉様たちに向けパァっと明るい笑顔を見せた。


「姉様、ありがとうございます!

ついでにクリス義兄様とグラハム様も!」


「俺たちは、ついでかよ!」


「ついででも構わないさ…乱れた衣服を整えてあげよう…さ、アヴニール…ぐ!」


とグラハムは楽しげに僕にツッコミを入れ、礼を言われて感極まったのか、両腕を広げさりげに僕にハグしようとしたクリス義兄様の首に腕を掛けるとグイグイと引っ張って「ハイハイ」と言いながら学舎に向かって行った。

マブダチとは言え王太子に不敬極まりないな。グラハム。

助かったけど。


「アヴニール、また後でね。」


姉様が微笑みながら先に行ったグラハムと、引っ張って行かれたクリス義兄様について行った。


いつの間にか集まっていた野次馬も、散るようにその場から離れて学舎に入って行った。


で、その場に取り残された僕たち3人なんだが、マル君は僕にしがみついたままだ。

もし、あのままクリス義兄様にハグされていたら、マル君ごとハグされてたのだろうか。

男3人が団子みたいに固まるって……何かヤだな。


ウォルフは学舎の入り口を見たまま、茫然としている。


「ウォルフ、どうしたの?」


「いや、改めて…アヴニールは王太子殿下と仲がいいんだなと…

俺なんかが、そんなアヴニールと友だちで良いのだろうかと思って…。」


「ナニ言ってんだよ、いいに決まってるじゃんか!」


またそんな、卑屈な考え方をする!


「オレも…アヴニールと友だちになりたいって言ったけど、姉上を怒らせたから…

アヴニールには何だか悪くて…。」


そんなウォルフにつられたのか、マル君まで卑屈な感じになった。


「マル君のキャラ、そんなんじゃないだろ!

いつもの横柄で、ふてぶてしい態度はどうした!

それに姉上を怒らせたからって何かある!?」


そんなモン勝手に怒らせときゃいいだろう!


と思っていたのだが、それは分かりやすいカタチで僕に影響を及ぼす事になった。


本人は直接手を出さず、人を使って行う僕に対する嫌がらせだ。

それが学舎に入り、教室の違うマル君と別れた所から始まった。


上級生の男子が不自然に僕に近付き、体当たりをかまして僕をよろめかせた。

隣に居たウォルフが倒れないように僕を支える。


「アヴニール!大丈夫か!?」


ちょっと大げさによろけたけど、体幹バリ強な僕には全然ヘーキ。

なんだったら、ぶつかった本人がぶっ飛んで倒れる位の防御力を誇る。

でも僕はちょっと優秀なだけの幼い子どもなんで……


「あ、ワリィワリィ、ちっさいから見えなかったぜ。」


うーん…そう来るかー…

弟が必死こいて僕と友だちになった事を知らないアホンダラ令嬢…

これ、デュマスに知られたら令嬢がヤバくないか?



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