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飛べない魔女はただの豚(連載版)  作者: 黒湖クロコ
おまけの魔女の物語
114/114

燃えない魔女はただの婚約豚(2023年暑中見舞い)

暑いので、子豚レベルのホラーを書きました。


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。

「どうしよう……また太った」

 私はもしかしたら測り方で違うのかと、異界からお取り寄せした体重計に片足だけで立ってみる。しかしやっぱり変化はない。

 息を最大限に吐き出してみたけれど、無情にも数字は変わらない。

 ジャンプしたら一瞬だけ変わるかもしれないが、「体重計ぱいせんっ!」と叫び声をあげ、ご冥福をお祈りしなければならない事態になりかねないのでやめた。

 真実を受け入れる時が来たのだ。


 王子が留守にしている間、少しだけとお菓子を食べ、なんか疲れたなとお菓子を食べ、寂しいなとお菓子を食べ……気が付いたら、常に食べていた。

 どうしよう。悩んでいたら、今も無意識にハンバーガーをお取り寄せしようとしていた。

 危ない危ない。

 ポテトは野菜だよねとこの間食べまくったら、王子からコンコンとポテトは野菜ではないという説教が入ったばかりなのだ。ジャガイモは足を生やして動いているわけではないのに野菜じゃないのなぁぜなぁぜ?


「ううう。我慢しないと、王子が帰ってきたら何がおこるか分からない」

 ベッドで痩せるか? それともブートキャンプか?と引くような声を出して、耳元でささやかれてしまう。あの声は怖い。

 色々自分が自分でなくなる悪魔のささやきだ。

 最近こっちの方が私が動くと気が付いた王子は、いい笑顔で仕掛けてくる。


 悪魔の声などに負けるものか。

 私は孤高なる気高き豚として生きるのだ。

 とはいえ、そのためには適度に痩せて成果を出さねばならない。

「今なら、天才的なアイドル様の歌に合わせてオタ芸練習をして痩せるべきか……」

 異世界で流行っているので色々調べてみたけれど、アイドルってすごいな。

 好き好きと嘘でもいうのだ。そしてそれを言われた相手が萌えあがると。


 豚がもしも嘘で好き好きといってみよう。言われた相手は、うっせーわといい、豚は炎上。嫌だ。萌え豚はいいけれど、自分が焼き豚になるのは。

 うん。結論。

 好きだなんて、絶対言ってはいけない。あれは破滅の呪文だ。

 王子にそんな言葉を投げかけた日にはどうなるか。

 ダメだ。恐ろしすぎて想像もできない。


「でも恐怖で痩せるというダイエットもあるのね」

 異世界へ繋がる場所に住んでいる妖精さんにいいダイエットを聞いてみたところ、恐怖でも痩せるという回答が出て来た。

 もちろん地道なる筋トレ、食事制限は当たり前なのだが、その他にというとこで、恐怖というのものは痩せるらしい。あどれなりんがどうとかこうとか書かれているのはよく分からないけれど、とにかく恐怖で痩せる。

 つまり肝試しやホラー映画で痩せるということだ。

 でも実を言うと、私はあまり幽霊が怖くない。むしろ生きた人間の方が怖いと思う。


 というか、王子が一番怖い。

 ……まてよ。だとすると、度胸試しで、王子に好きだと言ってみる。すると彼はうっせーわと言い、私は王子をたぶらかせるものとして炎上。

 そんな想像だけで恐怖を味わえるのではないだろうか。

 よし、物は試しだ。

 

 私は深呼吸をした。

 言葉にしようとするだけでドキドキする。これは痩せる。

 さて、ここでの告白だが、王子というか名前を言うか……。炎上するなら、間違いなく名前だ。王子を名前で呼ぶなど不敬だ。

 ああ。ドキドキが止まらない。これは絶対痩せる!

「クリス……好き」

 どどどどどどどどどど。

 心臓がバクバク言っている。どうしよう。この豚が! おこがましいとののしられるかもしれない。

 兵隊に剣を突きつけられて、不届きものめと言われてしまうかも。

 もしかしたらお前のような魔女に王子は渡さないと言われ、王子に恋した少女に刺されてしまうかも。


 ドサドサドサ。

 

 背後で物音がして、私は心臓が止まりそうなぐらいびっくりする。どうしよう。これは痩せる。

「い、今何と言った?!」

「ひょあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 振り返れば、王子がいた。

 私の恐怖心はマックスだ。

 

 私は一も二もなく家から逃げ出し、走った。

 走って、走って、走って、気が付けば痩せていた。

 恐怖は痩せる。流石だ。

 しかし家に帰って、事と次第を王子の前で話す羽目になった私は再び恐怖で痩せそうになり、この恐怖によるダイエット法は永遠に封印しようと心に決めたのだった。ついでに王子からは、婚約者なのだからたとえ豚が何をほざいても不敬には当たらないと言われ、破滅の呪文を唱えないかと強要された。なんと恐ろしい。


 私は学んだ。ダイエットに近道などない。毎日の積み重ねが大切だ。

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