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ワルキューレ

「ありがとうございます。ところでつかぬ事をお伺いしますが、伯爵が領民から少女を買っているという話を耳にしました。それは事実なのでしょうか?」


 セネトは別段気にしていなかったが、セリカは気になるのだろう。その真意を直接問い質す。伯爵は僅かに考える素振りを見せるものの、すぐにその質問に応じた。


「はい事実です。ここアルダビラが周辺の土地と比べて豊かなのは確かなのですが、それでも貧困にあえぐ人たちは存在します。そのような家庭では口減らしをする時、女児が優先的に殺される傾向にあります。小生が救えた命などほんの一部に過ぎないのですが……」


 伯爵がどれくらいの額で買っているのかは不明だが、元から税収と上納金の額が釣り合っていないのだ。その上で全ての女児を買うお金まで捻出しろというのも無理話である。


「いえ、伯爵は立派だと思います。たとえどのような理由があろうと、親が子を殺めるような国は間違っていると思います。一刻も早く帝国を打倒し一人でも多くの子供たちを救ってあげたい」

「……そうですね、そのような理想国家に住んでみたいものです」

「理想国家……」



「お帰り、どうだった?」


 面会を終えた二人はその後屋敷の外でアイシャと合流する。曲がりなりにも領主の屋敷であったため武器の持ち込みを許されておらず、仕方なくアイシャに預けて外に待機させていたのである。


「うん、上々だったよ。全面的な協力は無理だったけど、敵に回る可能性は低そう。そもそも領民第一の人みたいだしね」


 さっきまで王女然としてたのに屋敷を一歩出たとたんに年齢相応の少女へと変わるセリカ。屋敷の人間が見ていたら狐につままれたような感覚になるであろう事は想像に難くない。


「あ、それあたしも思った。待っている間に使用人さんと色々話をしてたんだ。その人に限らずお屋敷の使用人さんはみんな幼い時に親に捨てられた人たちなんだって。だからみんな伯爵様を慕っているんだってさ」


 つまりこの屋敷の使用人が買われてきた女の子たちの就職先という訳だ。全員がそうという訳ではないだろうが……。


「伯爵様と話してて思った、ガルミキュラって凄い国あったのね……。子供が捨てられない、殺されない国なんて当たり前だと思ってた。でもそうじゃないんだね」


 その意味を噛み締めるように、セリカが語る。


「その政策は知ってる。ガルミキュラの政策で特殊なのは赤ちゃんを他人に譲ることが簡単だという点だ。孕んだはいいけど育てる余裕がないとか、そもそも望んでいなかった場合、民間のネットワークを通じて簡単に里親を探す事が出来る。それでも見つからなかったときは知人友人親類に渡したり、それもダメなら国が僅かなお金を『払って』赤ちゃんを引き取ったり、それも難しい場合は乗り気ではないけど余裕のありそうな家庭を説得して里親になってもらったケースもあったみたい。ちなみに複合型の一夫多妻、一妻多夫性が導入されたのはベビーブームよりもまだ後、出生率や食糧事情がある程度落ち着いてからの話らしい。これには格差を埋める意図もあったとか。国がお金を払って引き取っているのもちゃんと意味があって、少しでも子供の生存率を上げるためなんだとか」

「え、ええと……」


 ガルミキュラの政治政策を捲くし立てるセネトに、戸惑うアイシャ。


「ごめんねアイシャ、兄さんはいわゆる知識オタクで語らずにはいられない性格なの」

「そうなの? 大変ね……」


 二人にとっては割とどうでもいい知識なのだろう。セネトは消沈する。


「僕らはベビーブームの中期世代だけど、アイシャは初期くらいだよね? この頃の政策の影響は何も受けなかったの?」

「いえもちろん影響はあったけど……って、あれっ?」


 そこでようやくアイシャは違和感に気付いたのだろう。はたと言葉を詰まらせる。


「……もしかして、気付いてた?」

「怪しいなとは思ってたよ。確信を持ったのは今だけど」


 セリカも一枚噛んでいたのだろう。呆れたように目を逸らした。


「お願い! あたしの正体がバレた事、ゼアル様には……!」

「……まあいいけど、その代わり質問には全部答えて貰うよ」

「……うん」


 アイシャの事が苦手だったセネトだが、正体がばれて落ち込む彼女を見ると何だか可愛らしく思えてくるから不思議なモノである。


「まず最初に、君はワルキューレの一人と考えてしまっていいのかな? そして父さんの命令で僕たちを監視しつつ、それとなく行動を誘導していた?」

「……うん。でも誘導っていうのは少し違うかな。基本は二人任せで何か困っていたらそれとなく助け船を出す感じ。だからあたしが助力したのはレジスタンスに誘った時だけ」


 確かにアイシャに行動を誘導された記憶などその時くらいしかない。……まあその一回が大きいのだが。


「じゃあ次、今はレンとは別行動してるけど、レンの監視はどうなってるの?」

「それは別の子が付いてるはずだよ。レンちゃんが別行動を取るのはゼアル様も予想してたしね」

「そ、そうか……」


 レンの性格はセネトたちも知っている。そのセネトたちがレンの行動を予測していたのであれば分かる。だが肝心の国王はそれほど密にレンと接していた訳ではないのだ。

 セネトは改めて父親に対する憧れを強めるのであった。


「じゃあ最後。もうすぐ……いや、もう始まってるのかも知れないけど、イシュメア帝国との戦いに僕らは参加しなくてもいいの? 特にレンは必要だと思うんだけど……?」

「セネト様たちの能力はゼアル様も認めています。でも現状危なっかしくてアテには出来ないと考えているようです。だから今はハーノインで好き勝手やらせつつ成長を促すつもりだと仰っていました」

「好き勝手って……、まあそう言えなくもないのか……。まあいいや、君のお陰で今後の選択肢も増えた。これから役に立ってもらうよアイシャ」


 セネトの無垢なようで邪悪さも感じられる微笑みに、アイシャはたたらを踏む。


「あの……、正直に話せば何もしないって……」

「父さんに報告はしないと言っただけで、何もしないとは言ってないよ」

「そんな……」


 アイシャはワルキューレの一人だが、潜入捜査が主な仕事で特別戦闘に秀でている訳ではない。そんな彼女を捕まえて一体何をさせるつもりなのか。アイシャは思わず顔を(しか)めるのであった。

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