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イハサとラクリエの里帰りその4

「これがガリュウさん宛て、もう一通は王様宛てです。わしたちは理由があってハーノインに戻る事はできません。なので王様宛ての手紙は必ずわしらが国境を越えた後に渡してください。貴方以外の人の手に渡るのもダメです」

「うむ、確かに承った」


 それから二日後、再びイハサらの元を訪れたガリュウに、イハサは二通の手紙を渡した。一通はイハサがガリュウに宛てたもの、もう一通はラクリエがハーノイン王に宛てたものである。内容と筆跡を調べれば、本人が書いたものである事はすぐに確認できるだろう。

 二人の存命が分かったからと言って今更戦争が止まる訳でもないが、国王の心労の軽減や事前に内通者がいる事を知れたことで、絶望的だった状況を対等くらいにまで戻す事が出来るはずなのである。


「こちらでもできる限りの事はします。だからどうか、ハーノインを守ってください」

「……承知した」


 必要な事はすべて手紙に記した。故にこれ以上の言葉は不要。それは他者から見るとあまりにも素気ない、再開と、そして別れの言葉であった。



 ユートリア候国との国境付近にある町、ザイート。ハーノイン西部で最も発展しているこの町は利便性に優れ、今回の外遊でも中継場所として利用された。

 王都での四泊五日の滞在を終えたゼアル達は、来た時と同様にこの町に立ち寄った。


「次に王都に行く時は、戦争も終わって内通者も特定して、私たちも私たちとして行けたらいいですね」


 ザイートの酒場の一角。もはや正体を隠す必要もなくなったラクリエとイハサは、そこにゼアルも交えて堂々と卓に着いていた。

 ラクリエの言葉にイハサは、


「……そうですね」


 と消極的に賛同するも、ゼアルだけは神妙な面持ちで話を聞いていた。


「……残念だがラクリエ、仮にそれらの問題が全て片付いたとしても、お前が我の眷族であるという事実は変わらん。全てが上手くいっても全て元通りになるとは思わない事だ」

「あっ……」


 魔王と眷族の結び付きは強い。たとえ本人にその気がなかったとしても、ラクリエを王女、もしくは王妃として迎え入れる事は、国内に爆弾を抱え込むことに等しい。ハーノインに限らず、まともな国がそんな事を受け入れるはずはなく……。


「ゼアル! それは今言うようなことではないです!」


 シュンとなるラクリエを見て、慌ててイハサが叱責する。


「そ、そうか、すまない。だが元の生活に戻れないだけで、定期的に王都に戻るくらいは問題ないはずだ」

「定期的に……? それだと本当に姫様がゼアルに嫁いだみたいです」

「私がゼアル様に……?」


 その言葉に、ラクリエはふとゼアルに視線を合わせた。そしてそれに気付いたゼアルと目が合ってしまい、慌てて目を逸らす。

 なるほどハーノインに戻る事も、他国に嫁ぐ事も難しいとなれば、ラクリエの相手はゼアルか最低でも連合の人間でなければならない事になる。しかし……、


「心配しなくとも眷族の恋愛事情にまで口を挟む気はない。代わりに余程のことでもない限り手助けもしないからそのつもりでいろ」


 ラクリエの視線を何か別な意味に受け取ったのか、ゼアルが的外れな事を言う。


「……えっ?」

「えっ?」


 そして流れる沈黙と微妙な空気。少ししてイハサが口を開く。


「……そういえば聞いたことがあります。魔族には結婚というシステムが存在しないと」


 結婚というシステムがない。つまりそれは、同じく責任を取るだとか面倒を見るという発想そのものが存在しない事を意味していた。


「イハサ、それは一体どういう……?」


 一人状況の飲み込めないゼアルが問いかけるが、イハサはやれやれと肩をすくめ、ラクリエはただ苦笑する。共にその問いに答える事はしなかった。

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