「夢の様な商品はいかがですか?ここは”デパートアトランティス”です」
消えたオットロとドレッド頭の男が次に目にしたのはとある大型ショッピングモールのような巨大な建物だった。
そしてそこにはギムと呼ばれていた刑事の男、自殺を図った小柄な学生、難民の少女、殺し屋の女が不可解な表情で出迎えた。
「また1人増えたか、一体何なんだ…?」
「お前は何者だ?一体何が起こっている?」
刑事の男と殺し屋の女が最後に現れたドレッド頭の男に問い掛ける。
「あぁ?はぁ?な、なんだここは?どうなってんだ?」
「…どうやらこの男も我々と同じ状況の様だな」
刑事の男が溜め息交じりで後頭部をかきむしりガッカリした表情を見せた。
「オイッ、誰だテメェら?ここはどこだ?一体何がどうなってんだ?」
「落ち着きたまえ。我々にも分からんのだ。気が付いたらこの場に居た、それ以外のことは何も分からん」
「はあぁ?な、何なんだよそれ?」
「あ、あの、ぼ、僕、自殺しようと思ってて、気が付いたらここに居て、だから、その、もしかしてここって天国とかじゃないんですかね…?」
「天国って、こんなところなの…?」
「はあぁ?ざけんなチビ。俺ぁ死んでなんかねぇ!!」
「ひぃっ!!」
ドレッド頭男の迫力に肩をすくめる小柄な男子学生。
「でももしかしたらそうかも、私お腹空きすぎて死んじゃったのかなぁ…」
難民少女もどこか悲しげな表情を浮かべながら小さく呟いた。
「おいおい冗談だろ?マジなのか?おい、なんだよ、誰か事情の分わかる奴いねぇのかよ??」
「ここには我々以外は誰も居ない様だ。あの建物の中はまだ調べていないが…」
「おいおいなんだんだよ、クソ。マジなのか?本当に俺死んじまったのか?ブツ取り引きした後、まさか、あいつ後ろから俺を撃ちやがったのか…?」
「ブツ?」
ドレッド頭の男が取り乱しながら呟く独り言に怪訝な反応を見せる刑事の男だったが、次の瞬間陽気な女性の声がその場に響いた。
「はいはーい、みなさーん、お集まりいただきありがとうございます~!ここにもう1人いますよ~!」
5人全員が声のする方向を振り向くも、そこには誰の姿も見えなかった。
「…確かに声がした。人の気配もあるが…」
口数の少なかった殺し屋の女は声がした瞬間、反射的に腰元にある刀に手をかけていた。
「ああぁぁ!そっか、まだドリンクの効果続いてましたね。失敬、失敬~」
「ま、また声がした。お化け、お化けさんなんですか??」
小柄な男子学生はビクビク震えながら怯え後ずさりしている。
「もー少しで効き目切れるはずなので、皆さん、しばしご歓談を~」
「な、何なんだい、一体…」
刑事の男も腰にある拳銃に手を当てたままその場を静観していた。
間も無くしてオットロの姿は5人の目に映し出されていった。
オットロ自身も5人の表情を見て透明ドリンクの効果が切れたことを確信した。
「お!皆さん見えました?はじめまして、私、第2世界のオットロという者です!宜しくお願いいたします~」
突然目の前に姿を現した女性が自己紹介を告げた現実を5人は瞬時には飲み込むことが出来なかったが、数秒して5人はすぐに我に返った。
刑事の男は慌ててオットロに背を向け、小柄な男子学生は両手で顔を隠すも指の間からしっかりとオットロを見ていた。
難民の少女はぽかんとした表情のまま固まっており、殺し屋の女は刀から手を離しゆっくりと腕を組んでオットロを静観している。ドレッド頭の男はニヤニヤしながらオットロを見つめ、声を掛けた。
「あぁ、よく見えてるぜ、姉ちゃん。で、何か?俺たちにストリップを見せる為に出て来たのか?」
「へ??」
オットロは一瞬停止したものの、すぐさまことの重大さに気付いた。
透明人間ドリンクを飲んだ際、自身の衣類を全て脱ぎ捨て、刑事の男を見つけた料亭の入り口に放置したままだったことをすっかりと忘れていた。
「きゃああああぁぁぁぁぁっっ!!!す、すみませーーーん!!!」
オットロは豪快な叫び声を上げながらカードを拾い上げ、テレポートを叫びながらその場から姿を消した。
そんな光景をを目の当たりにした5人は再び驚きの表情を見せ合った。
そんな頃オットロは料亭の前にて大慌てで衣服を身に着けていた。
「もー、何で私ってこんなにドジで馬鹿で間抜けなんだろぉぉっ!!」
そう言い終わると同時にオットロは再びカードを掲げ、テレポートの言葉と共に5人がいる空間に舞い戻った。
「はぁ、はぁ、はぁ、た、た、大変失礼致しました、はぁ、はぁ…」
肩で息をしながら現れたオットロに再び驚く5人、そんな中、殺し屋の女が鋭い目線で口を開いた。
「…私があの時感じた気配と同じだ。どうやら首謀者はお前の様だな」
「あれぇ、やっぱり貴方は気付いていたんですか?すごいなー、私透明人間になってたのに~」
「と、透明人間だぁ?おい姉ちゃん、一体何言ってんだ?」
「訳が分からない。一体どういうことなのか説明してくれ!」
オットロは呼吸を整え背筋を伸ばし、グーの手を口元に置き咳払いをした後、ゆっくりと語りはじめた。
「コホン、えーそれでは皆様お待たせ致しました。改めまして、私は第2世界で"デパートアトランティス"という総合百貨店を運営する"次元式会社デム"で営業部に所属していますオットロと申します。以後お見知りおきを~」
「第2世界?アトランティス?一体何のこと言ってやがる?」
「すまないお嬢さん、もう少し分かり安く説明してもらえないかな?」
「まぁまぁ慌てないで下さい~、皆さんの混乱状態は察しております~、少しずつ説明致しますから~」
オットロの前置きに5人は固唾を飲み静聴の姿勢を見せた。
「はい、皆さんがいらっしゃるこの空間は第2世界と呼ばれておりまして、皆さんがいる第7世界より何段階か文明や科学技術などが進化した世界です。皆さんにとっては信じられないような技術も多数生まれております~」
「SF映画みたいなことですか…?」
「まぁ簡単に言えばそういうことですね~。皆さんがいらっしゃる第7世界のサイエンスフィクションで描かれているのは恐らく第5世界程度のレベルでしょうから、この第2世界にはもっと皆さんの想像を遥かに絶する商品も取り揃えております~」
「お前の目的は何だ?何故私達をここに連れて来た?」
「はい、"お買い物"をしていただくためです。この"デパートアトランティス"で!」
「"お買い物"?デパートアトランティスとはこの建物のことかい?」
「はい、左様でございます。このデパートアトランティスでは皆さんの世界では手に入らない夢の様な商品を多数取り揃えております~」
「夢のような商品だぁ?タイムマシンでも売ってるってのかよ?」
「はい、ございます!」
「はぁ!?」
「しかしタイムマシンは非常に高額な商品なので、失礼ながら皆さんではお買い求めにはなられないかと存じます~」
「おいおい、お嬢さん、タイムマシンが売ってるデパートだって?そんな話を信じろっていうのかい?」
「にわかには信じ難い話かもしれませんので、後ほど実演を踏まえてご説明させていただきます~。あぁ因みに今回皆さんをこの世界にご招待したのはこちらの商品です~」
オットロはポケットから例のカードを取り出し5人に見せた。
「こちらは"テレポートカード"というものです。従業員専用のため非売品で商品Noはございませんが、このカードに触れて"テレポート"と唱えると唱えた人が目的としている場所へ瞬間移動してくれます~」
「…そのカードで我々5人をここに集めたというのか?」
「はい、左様でございます。ちなみに皆さんに近づくために"透明人間ドリンク"を飲んでおりました。このドリンクは皆さんでもご購入出来ますよ~」
「ほ、本当ですか?それ、欲しいな…」
自殺志願者の小柄な男子学生が少しニヤニヤした表情で呟いた。
「…君、いかがわしいことに使うつもりだろ?刑事としてそれは見過ごせんな」
「ギクッ…」
「刑事!?」
「…」
いかがわしい笑みを浮かべる小柄な男子学生に警告をする刑事の男、そして刑事というワードに敏感な反応を見せるドレッド頭の男と殺し屋の女。
「皆さんはどんな商品をご購入いただいても自由ですし、それを自由に使う権利もございます。しかし他の方がご購入された商品を使ったり横取りしたりすることは出来ませんのでご注意くださ~い」
「ねーねー、お姉さん、でも私お金持ってないよ。お腹すいてるけど何も買えないよ…」
「ご安心下さい。このデパートアトランティスではいわゆる皆さんが普段通貨としてご利用になられている"お金"で商品を購入するわけではございません~」
「え?じゃあ何で買うの?」
「"運"でございます~」
「"運"?ってあの"運がいい"とかのやつ?」
「左様でございます。皆さんは多くの"運"を貯めておいででいらっしゃいます。なので今回弊社のデパートアトランティスに招待させていただきました~」
「ますます訳分かんねぇ…。おい姉ちゃん、あんまりおちょくってるとぶっ殺すぞ?」
「いえいえ、そんなとんでもございません。本当のことですし私は大真面目です!皆さんにお買い物していただかないと私の成績が…」
「あ、あの、"運で商品を買う"って、よく分からないんですけど…」
「えーっとですね、"運がいい人"とか"運が悪い人"とか言いますよね?皆さんの様な人型生物の場合は実際に目には見えない"運"という要素が存在します。生まれつき運が多い人、人生の中で運を創る人、普段から運を使ってる人、使わずに貯めている人 など様々です。このデパートアトランティスではその人が持っている"運"を数値化出来ます。そしてその数値に応じて色々な商品が購入出来るシステムとなっております~」
「はっ、マンガみてぇな話しだな、おい」
「実際に"運"と呼ばれるものがどの様な因果関係で増えたり減ったりするかは神のみぞ知るところですが、"頑張ってる人がきちんと報われる世の中にしたい"という創業者の想いから弊社は誕生したのです~」
「もういい、御伽噺はたくさんだ。これ以上下らない話に付き合うつもりは無い。私を元の場所へ戻せ。今すぐそうすれば命だけは助けてやる」
オットロの説明に割ってはいる殺し屋の女。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい~。まだ話は終わってませんからぁ~」
次の瞬間、殺し屋の女は瞬時に刀を抜きオットロの首元に刃を当てがった。