レッツ・タイムマシーン
オットロが自社の説明をする最中、しびれを切らした殺し屋の女が刀を抜きオットロの首元に刃を当てがった。
「2度は言わない。首を斬り落とされたいか?」
殺し屋の女は豪邸で男を突き殺したときと同じ目をオットロに向けた。
周囲に緊張が走る。刑事のギムは殺し屋の女を諭し始める。
「お、おい君!落ち着きたまえ!」
「黙れ」
耳を貸す様子の無い殺し屋の女。しかしオットロは怯む様子無く、ゆっくりと刀の腹の部分を指でつまんだ。
すると殺し屋の女は異変に気付く。
「ぐっ、な、なにっ!?」
殺し屋の女が刀を動かそうと力を入れるも、それは完全に固定されており一切刀を動かせなくなっていた。
「乱暴はダメですよぉ~。物騒です、こんなもの人に向けたらぁ~」
そう言った次の瞬間、オットロは指2本で殺し屋の刀を真っ二つにへし折った。
”パキンッ”
「!!?」
他4人が一様に驚きを見せる中、冷静を装っていた殺し屋の女もさすがにこれには驚愕の表情を見せた。
「第7世界の方が第2世界の私には勝てないですよ~。お買い物が終わったらちゃんとそれぞれの場所にお戻しますからもう少しだけお付き合い下さい~」
ニッコリと微笑みながらオットロはそう言い放った。
オットロが只者ではないことを見せ付けられた5人は強制的にオットロに従わなければいけない状況に追い込まれていた。
殺し屋の女も不服そうな表情を浮かべてはいるものの、刀を鞘に収め、腕組みをすることで従いの意思を示した。
「やっぱり信じづらいですよね~。了解です、それでは試しに皆さんにも商品を体験していただきたいと思います~」
「体験?」
「はい、先程リクエストのあった”タイムマシン”なんていかがでしょうか?」
「ほ、本当にあるのか?」
「はい、ございます。それでは皆さん、早速こちらでどうぞ~」
5人はオットロに連れられるがままにその"デパートアトランティス"と呼ばれる建物の中に入って行った。
内装は通常の大型百貨店と呼ばれるものとそう変わりはない造りだった。
入り口付近にある案内図をみると地下1階から2階、そして屋上といった構造であることが記載されている。
多くの人が中を行き交っているが、そこにはおよそ人間とは思えない生物も多く歩いていた。
角を生やした鬼の様な姿をした者やアンテナが伸びている宇宙人の様な生物、低空浮遊している幽霊のような物体に2頭身生物やロボットのような生物等様々だった。
各売り場に立っていたり接客をしている従業員と思われる者達も様々な形体をしている。
「な、なんだこりゃあ…。こいつら人間なのか?」
「ぼ、僕怖いです…」
「ここには第1から第7まで全ての世界のお客様がお買い求めにいらっしゃいます。皆さんだとここの勝手があまりお分かりになられないことも多いと思いますので、私がしっかりと案内させていただきますからご安心を~」
「…周りの話し声が理解できる。その世界とやらで言語やコミュニケーション手段に違いは無いのか?」
「ここではいくつかの空間調整機能が作動しています。中にいらっしゃる皆さんは自動で共通言語で会話します。本人は気付かず自星や自国の言葉を喋ってるのと変わりない感覚で他者とコミュニケーションが取れますよ~。便利でしょ~、うふふふ」
5人は先頭を歩くオットロに付いて行きながら周囲の不思議な風景に目移りをしている。
それぞれの店舗にはパッとみただけでは何が売っているのか分からないような商品も多く陳列されていた。
そしてその商品は大きいものから小さい物まで全てガラスの様な透明なケースで覆われている。
オットロは5人をエレベーターへと誘導し、2階に到着しドアが開くと、やはり目の前には一般的なショッピングモールの様な光景が広がっていた。
2階に到着し少し歩いた先でオットロは立ち止まり、5人の方向を振り向いた。
「はーい、着きましたー。こちらが"時空売り場"となります。タイムマシンはもちろんのこと、"寿命5年分"なんかもお勧め商品ですよぉ~」
5人が目にしたのは一見家具や日用品など様々な商品を取り扱うマルチショップの様な場所。
広いスペースに所狭しと様々な商品の様な物が陳列されているが、そのひとつひとつはやはり全てガラス製のカプセルの様な物で覆われていた。
(”寿命5年パック”、”亜空間1km2”、”神隠しライト”、一体何なんだ…?)
(”インスタント5次元装置”!?マンガで読んだけど並行世界のこと?)
(んー、なんか食べ物は置いてなさそう…)
(…ったく、何だかうさんくせぇ物ばかり置いてやがるな、おもちゃか?)
(…)
5人はぞれぞれが陳列されている商品に目移りしながら各々心の中で思いを呟いていた。
「みなさーん、こちらですー。こちらの商品がご存知タイムマシンでーす!」
5人はオットロが指し示す方向を見た、するとそこには高さ3m程の巨大な壁掛け時計の様な物が置かれていた。
「なんだぁ、この馬鹿でかい時計は?」
「それでは早速~」
オットロはドレッド頭男の問いに反応することなくそのガラスケースのような物に手を当てると、そのガラスケースは音も無く消失した。
露わになった巨大な時計はどうやら人が入れるカプセル状に設計されており、短針と見えていた物はドアノブの取っ手の役割をしていた。
オットロがその短針を握りカプセルの蓋を開け、5人を中に入る様促す。
中に入るとそこにはコンピューターの様な物があり、オットロはそれを慣れた手つきで操作し始めた。
「さてさて皆さん、これから時間移動の旅へ出発となります。どこかご希望の時代や場所などはございますか~?」
「うーむ、急に言われても難しいな」
「そうですねぇ~、それでは第7世界の中で特に有名な歴史上の出来事を適当に探してみましょう~」
オットロは再度コンピューターの様な物を操作し始める。
すると突然カプセルが大きな音と共に振動し始めた。
「お、おい、一体なんだ?何が起こっているんだ??」
5人はそれぞれバランスを取りながら振動に耐え、やがて振動は収まった。
「はーい、着きましたよ。それでは早速行きましょう~」
オットロがカプセルを開けると、そこにはどこかのアトリエの様な空間が広がっていた。
「皆さんそれではお静かに、私について来て下さい~」
5人は言われるがままに画材や家具などに身を隠しながら部屋の奥へ進んで行く。
すると部屋の一番奥で1人の男性が正面に座っている女性の肖像画を描いている光景があった。
2人の話し声が聞こえてくる。
「レオ、疲れちゃったわ。少し休憩してもよろしいかしら?」
「んー、あぁ、もう少し、あと5分辛抱してくれ」
「5分前にもそう言ったわよ、レオ」
「頼むよリザ、君の美しさを完璧に表現したい。世界中に、そして後世に伝えるためなんだ」
オットロを含む6人は2人の会話を物陰から静かに静観していた。
「…おい姉ちゃん、これが有名な出来事なのかよ?」
「…信じられない、モナ・リザだ!」
「あぁ?」
ドレッド頭男がオットロに投げかけた質問に刑事の男が割って入り口を挟む。
「さっき通った時に本棚を見た。恐らくここは中世のイタリア、彼女は肖像画のモデルだったとされるリザ・デル・ジョコンド。つまり本物のモナ・リザだ…」
「あぁ!?ってことはあのレオって呼ばれてるおっさんは…」
「あぁ、恐らくはレオナルド・ダ・ヴィンチだろう…」
「ま、マジかよ…?」
「はい~、これなら皆さんご存知かなーと思いまして~」
「ちょ、ちょうどこの前美術の授業で…」
「私は知らない。学校行った事ないから」
「…私も詳しくは知らん」
「あらら~、ご存知でない方もいらっしゃいましたか~」
オットロは少し困り考えた表情を見せた後、何かを閃いた様な表情を見せ再び5人をタイムマシンに乗せどこかの時代にタイムスリップした。
室内の振動が止まりオットロ誘導の元、外に出た5人はすぐさま辺りの風景を確認する。
「何だぁ?ここは?」
「あ、あそこにジェットあります!」
「…どこかの軍事基地の様だが」
「広ーい」
ドレッド頭の男、自殺志願者の少年、殺し屋の女、難民少女がそれぞれ一定のリアクションを取る中、刑事の男はただ一人、驚愕した表情を見せていた。
「こ、ここは…アッカエ駐屯基地!?」
「あぁ?何だって?」
すると突然、左の方向から勇ましい掛け声が聞こえてきた。
一同が声のする方向を振り向くと、そこには軍人の団体が息を合わせながらランニングをしている光景があった。
「や、やはり!!」
刑事の表情が更に強みを増した。
そして軍人の団体が一同の横を走り過ぎようとした時、一人の青年軍人が地面に躓き大きな音を立てて倒れ込んだ。
「うわぁっ!!」
倒れた青年は列の最後尾を走っていたこともあって、他の軍人達はその青年に気付くことなく遠方まで走り去って行く。
倒れた青年は大きく息を切らしながら必死に立ち上がろうとしている。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、だ、大丈夫であります!!!」
難民少女の問い掛けに辛うじて反応を見せた青年軍人。
立ち上がった彼は丸坊主頭で体の線はとても細く頼りなさそうであったものの、その精悍な顔つきに宿る眼差しは勇ましくも真っ直ぐなものだった。
「ま、まさか…ほ、本当に…?」
「…どうした?」
額から汗を流しながら瞬きひとつしない刑事の男に対し殺し屋の女が問い掛けると、刑事の口から驚愕の一言が飛び出した。
「…私だ。20年前の…」
「はぁ!?何だって?」
「えぇ!?こ、このヒョロヒョロな人が、昔の刑事さん???」
「この場所、先程の面子、間違いない。君、名前は?」
刑事の男が恐る恐る軍人の青年に問い掛けると、その青年はやはり真っ直ぐな瞳で答えた。
「は!自分はギム!ギム・カファン一兵卒であります!」
「!!!」
刑事の額に滴っていた汗が大粒となり頬を流れ落ちる。
それは間違いなく目の前の青年が20年前の刑事本人の姿だということを物語っていた。
他の4人もそんな刑事の姿を見て事態を把握している様子だった。
「マ、マジなのかよ…」
「先程のデッサンのことといい、トリックの類だとしても遥かに地球の科学力は超えているな」
「へー!このお兄ちゃんが昔の刑事さんなのー?なんか今と違って弱っちそうー!」
そんな5人のやり取りを見て状況を把握出来ない様子の青年。
「あ、あの…一体何のことでありましょうか?自分は訓練中であります故、そろそろ失礼しても宜しいでしょうか?」
「あ、は~い!ごめんなさいねぇ~。頑張ってくださ~い」
オットロがその青年を送り出す言葉を発し、青年は不可思議な表情を見せながらもその場を走り出そうとした。
すると突然、刑事の男がその青年、つまり20年前の自分に向かって声を掛けた。
「あ、き、君!!」
「?」
振り返った青年に対し、刑事の男は少しためらった様子を見せながらも声を振り絞った。
「…君の座右の銘を教えてくれないか?」
「はぁ?」
「あるはずだ。いつも心で唱え、心に誓っている言葉が」
「…」
突然の質問に戸惑うも、刑事の男から浴びせられる真っ直ぐで真剣な眼差しを受け、青年は体をこちらに向け真っ直ぐ背筋を伸ばし、勇ましく言い放った。
「”賢く、果敢に、聡明に。全ては誇りある正義のために”です」
「…私しか知らないはずの言葉だ」
再び言葉を失う刑事の男。
「それでは、失礼致します」
そう言い残し青年は走り去って行った。
直立不動のまま開いた口を塞げない刑事の男。他の者達が声を掛ける。
「…貴様、元軍人だったのか」
「青臭ぇ時から息の詰まる様なことほざいてやがったんだな。ったく天然記念物もんだぜ」
「…若気の至りだ。これでも幼い頃は戦車や飛行機に憧れる無垢な少年でね」
「何か、軍人さんには見えませんでしたね。失礼かもしれないけど、何かこう、ガリガリだし…」
「あぁ。お陰で根性と共に肉体も叩き直されたよ」
そしてオットロがその場に似つかわしくないトーンで5人に声を掛ける。
「は~い、それでは皆さん~。これで文句無く信じていただけましたね~?それでは今回のお試し時空旅行はここまでですぅ~。懐かしの我が家へ帰りましょう~」
オットロは5人をその場からタイムマシンで元の場所デパートアトランティスまで帰還させた。




