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口にはしないが、テオなりにポーレットのことをちゃんと心配していたのだ。そういうわかりにくい優しさこそアディが好きになったところなのかもしれないが、本当に面倒くさい人だ、とアディはため息をついた。そして、笑った。
「……それならそうと、言ってくださればよかったのに」
「ああ、言っていなかったか。それよりも」
テオは、腕の中にあるアディの体を傾けると、細い顎に指をかけて上向かせた。
「お前、わかっているのか?」
「何をです?」
「今夜は俺たちが結婚して初めての夜だぞ」
(あっ!)
もちろんそのことも含めて結婚式では緊張していたアディだが、披露宴のあとはウィンとポーレットのことで頭がいっぱいになってすっかり忘れていた。
婚約して以来何度も抱きしめられたり口づけされたりはしたが、テオはそれ以上のことをアディに求めてこなかった。今までは。
けれど今夜は。
「せっかくの初夜だというのに、その頭の中は別の人間のことでいっぱいのようだな。ん?」
ちゅ、と軽い口づけを受けて、アディの全身が赤く染まる。そのことを思い出してしまうと、今までの緊張も一気に戻ってきた。
「お前が今考えるべきなのは、俺の事だけだろう?」
「も、もちろん、殿下のことも考えておりますわよ?」
「『も』?」
「あ、いえ、その……」
言葉遣いに失敗したことに気づいて焦るアディに、テオが眉をひそめる。
「気に食わないな」
「殿下?」
「その呼び方も」
間近で見つめるテオの瞳が、いつもよりも熱を帯びていた。その様子に、アディは、少しだけ恐怖を感じる。この後一体自分がどうなるのか、アディはまだ知らなかった。
「二人だけの時は、ちゃんと俺を呼べ。殿下、ではなく」
「……テオ……」
「それでいい」
テオは、アディの細い体をとさりとベッドへ倒して、頼りなく投げ出されたアディの指に自分のそれを絡める。つないだ指が微かに震えていることに気づいて、テオが目を見張った。
「怖いか?」
「……いえ」
「素直じゃないな」
「怖くなど……!」
反論が思いがけず上ずった声になってしまって、アディは口を閉ざす。それを上から見おろして、テオは笑んだ。
「本当に可愛いな、お前は」
言いながらテオは、アディの白い肌に唇をすべらせた。びく、とアディが体をこわばらせる。瞬間的にきつく握り返された指に、テオは体を起こすとアディの潤んだ目を覗き込んだ。
「安心しろ。この先は、俺のこと以外考えている暇などないからな」
その言葉通り、朝までアディは、テオ以外のことを考えることはできなかった。
「は……テオっ……」
「なんだ」
息を乱して白い世界をたゆたいながらアディは、目の前のテオにすがりつくように腕をのばした。なだめるようにその手をとったテオが、細い指の一本一本に愛し気に口づけていく。薄れそうになる意識の中で、アディの唇から甘い吐息が零れ落ちた。
「愛して、います……」
「……俺もだ……」
キリリシア王国に、もう一つの幸せな報告が流れるのは、それほど遠い日のことではないだろう。
fin
はいっ、これにて『イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる』おしまいにございます!
少しでも楽しんでいただけましたでしょうか?
いずれ後日談(あの人とあの人がどーなったとか)など、またあげるかもしれません。
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました!




