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冒険の始まり

 スコンッスコンッと木を叩く音があたりに響く。新調した斧の効果音は軽快で、木を伐採する速度も以前より大分早くなった。

 俺は口笛を吹きながらテンポよく斧を振るう。

 ピピピーッピピーピピピー、


「ヘイヘイホー、ヘイヘイホー」


 隣で木を切っているクロウが俺の口笛に合わせて口ずさんでくれる。やっぱり木を切る際のBGMはこれだな。

 比較的気分よく作業をしているものの、正直俺は単純作業というものが嫌いだ。せめて明確な目標があればいいのだが、広い土地を買いすぎたので必要な木材の量が分からない。強いて言うならば途方もない量だ。

 一人だったらすぐに根を上げていただろうが、複数でやれば意外とできるもんだな。パーティー万歳。


 このゲームの公式サイトには、『ファンタジア・ヒスとリア』と称された、各サーバの歴史を閲覧できる特別ページがある。そこにはプレイヤーや運営側で撮影したスクリーンショット等が載せられ、町の発展具合や楽しそうな様子が一目で分かるのだ。

 既にトマッシュのリュックを背負ったシアラの画像が上がっていたが、せっかく家を作るなら俺もそこに載るようなのを目標にするか。


「むむー」


 シアラの唸り声? らしきものが聞こえる。先ほどから少し向こうで杖を作っているが、苦戦しているようだな。

 木材はこういった装備等にも使うからなぁ……。もう文明三段飛ばしでチェーンソーとか欲しい。



「なぁアイザック、俺そろそろ飽きてきたんだが」


 クロウは斧を地面に付け、そこに体重をかけ一息ついていた。


「奇遇だな、俺もだ」


 ナデシコがインしたらみんなで狩りに行こうという話はどれ位前にしたっけか。いやシアラがまだ杖作ってるんだからそんなに経ってないな。


「まぁもう少し頑張ろうぜ。ナデシコが来たら、クロウがすごい頑張ってたって報告してやるから」


 スッと立ち上がりクロウは再び斧を構える。


「さぁて俺の本気を見せてやるかー」


 そして先刻より気合を入れて木を切り始めた。こいつちょろいな……。

 そこに丁度ナデシコがゲームにインしたという通知が入る。


「噂をすれば何とやらだ。ナデシコが来たから迎えに行ってくるな」

「ヘイホー」


 俺はシアラにも一声かけて、ナデシコと落ち合う予定の南部に向かった。

 歩きながら町並みを眺めると、一日で大きく変わるわけではないが、町には少しずつ家が建ち始めていた。


 森に囲まれているためか木造の家が多いが、向こうには藁葺きの屋根を作ろうと頑張っている人が見える。大変そうだが風情があっていいな……。

 さらにその少し奥では畑を耕している人もいる。こういうのって眺めているだけでも楽しいな。

 ウチも敷地だけは広いし、畑を始めるのもいいかもしれないな。ちょっと話を聞いて見るか。


「ねぇリーダー」


 気付いたらすぐ隣にナデシコがいた。


「おおっ、いつからそこに」


 町の南まではまだ少し先なので完全に油断していた。

 どうやら一足早く集合場所に着いた彼女が、先にこちらを見つけたみたいだ。


「呆れたわ。待ち合わせをしてる美少女が隣に来たのに気付かないで農家の女の子見てるんだもん。ああいう純朴そうなのが趣味なの?」


 少し不機嫌そうだな。意外と男に気を使って欲しい姫タイプか?


「大剣武闘派美少女も純朴農家娘もどっちも捨てがたい。だけど俺は食べれない美少女より食べれる野菜派だ」

「……そう。じゃあ私も食べてもいいよ」


 上目遣いでこちらを伺いながら言うナデシコ。

 なんだ、からかってるだけか。


「そうかじゃあ、いただきまー」


 ナデシコの手を取って、あーんと広げた口に運ぶ。が、すぐに振りほどかれてしまう。


「もう、つれないわね。ちょっとくらい意識してくれないとつまらないじゃない」

「悪いな。そういうキャラじゃないから、からかうならクロウにしといてくれ」

「嫌よ。お固くて偉そうなのをからかうから面白いんじゃない」


 なかなかいいご趣味をお持ちで。というか俺偉そうか?


「ねぇシアラはどこにいるの?」

「シアラとクロウは東のほうで木こり中だ。意外とクロウが頑張っていてだな」

「とりあえず行きましょうか」


 先ほどまで作業していた場所に戻ってきたが、そこは切り株だらけになっていて、二人は少し奥で作業をしていた。結構頑張ってるじゃないか。



「ヘイヘイ、ホーホー、ヘイヘイ、ホーホー」

「ヘイ、ホー、ヘイ、ホー」


 掛け声にあわせて大振りに木を切るクロウ。

 隣のシアラも一緒にヘイホーと言いながら仲良く木を切っていた。


 これは、与作が……増えてる!


「なにあれ?」

「多分クロウが何か吹き込んだんだろう」


 こちらに気付いた二人も木こり作業を中断してやってくる。

 ナデシコは「今日も可愛いわね」と言いながらシアラを抱きしめた。ウチの面子でシアラの可愛さに一番御執心なのは彼女のようだ。


「おい与作ロウ、あんまりシアラに変なこと吹き込むなよ」

「混ざってる混ざってる。それに変なことじゃないから。リズムよく切ると伐採速度が上がる木こりスキル『ビートカット』だ」


 通りでペースが早いはずだ。普通に作った『伐採速度増加』の倍くらい早いんじゃないか。

 多少発動に条件を付ければ効果が高いスキルも作れるということだろうか。もしかしたら戦闘スキルを作る際にも応用できるかもしれないな。


「クロウの癖に考えたな」

「癖には余計だ。これなら速度も上がるし楽しいし、一石二鳥だぜ。さぁみんなでやろう」

「やってもいいが……掛け声は変えような」


 俺とナデシコも同様のスキルを覚え、四人で木を切ると、見る見る木材が貯まっていった。

 素晴らしい速度だ。人数が少ないときや、他の作業の合間にこれでちょくちょく集めるかね。


「そういえばシアラ、杖は出来たのか?」

「できました、できたんですよー!」


 よくぞ聞いてくれました、って感じの嬉しそうな表情でこちらに来るシアラ。


「腰には付いてなさそうだが?」

「あ、装備するの忘れてました」

「武器や防具は持っているだけじゃ意味が無いぞ! ちゃんと装備しないとな!」


 クロウがお決まりの台詞を言うが、シアラにそうですねーと流されてしまう。最近の子は知らないのか。

 シアラが装備して両手に持った杖は、打撃も出来るような大きめの杖だ。持ち手より上の部分が不思議な感じにぐねぐねとしている。


「ちょっと上の方失敗しちゃったんですけど……」

「うんうん悪くない。っていうかそこがいい。プロには出せない味わい深さがある」


 いいよね、この手作りな感じ。


「ならよかったです」

「アイザックは変なところでマニアックだからな」


 まぁ否定はしない。


「シアラも武器ができたんなら、みんなで狩りに行きましょうか」

「ぜひぜひ行きましょう!」


 シアラは自分の武器を試したくてしょうがないって感じだ。分かるぞその気持ち。

 俺たちは町の南端の敷地にぽつんと置かれたチェストに余分な荷物を押し込み、草原へと向かった。



 町の南に広がるタルッタ草原。一面緑の絨毯で覆いつくされたそこは、草花が多く春の真ん中にいるような麗らかな陽気の過ごしやすい場所だ。入り口からすぐ近くにある木の下で昼寝をしているプレイヤー見える。気持ち良さそうだ。

 草原に足を踏み入れると、柔らかい風が頬をなでる。そういえばこちら側に行くのは始めてだったな。

 遠くには黒煙を上げる火山、巨大な木が無数に並ぶ大樹林、空に浮かぶは巨大な島々、広大な世界の一端がここからでも伺える。


「わー、広いですねー……」

「こういうのってわくわくするよな」


 眼前に広がるファンタジー特有の世界に目を奪われてしまう。

 こういうときに気の利いた言葉でも出てくればいいんだが、どうも月並みな感想しか浮かんでこない。とりあえずすんごい。


「この辺は人も多いから、ひとまず川の向こうまで行きましょうか」


 土地勘のあるナデシコに従い、草原を縦断し、橋を超えていく。

 タルッタ草原を二つに分ける川の付近では、キャンプをしたり釣りを楽しむプレイヤーもいて、エリアの中でも特にゆったりとした平和な雰囲気が漂う。

 俺も今度一人のときはまったり釣りでもするか。


 川の向こう側も同じような光景が続くが、橋を超えると同時にモンスターが襲い掛かってきた。目つきの悪い、白くて丸々と太ったウサギが三匹だ。

 どうやら草原のこちら側はそれなりに獰猛な奴らがいるらしい。とはいえいきなり三匹はきつくないか?


「よし、シアラは後方で援護、後は一人一匹ずつ相手にすれば、」


 すぐに槍を構えて指示を出すが、それを聞き終わる前にナデシコが一歩前に出た。その彼女に、白い獣達は一斉に飛び掛かる。

 ……マズイ!

 そう思ったのは一瞬だった。次の瞬間にはナデシコの巨大な剣が一薙ぎされ、三匹の獣たちは一撃の元に、光になるエフェクトだけ残して消え去る。

 そして少し遅れてやってきた剣の風圧にシアラがフードを押さえた。

 

「あら、何か言ったかしら?」


 平然とした表情のまま大剣を背負い直すナデシコ。


「こりゃあすげえや」

「か、格好いいですー」


 ひょっとして俺達三人合わせたよりも彼女の方が強いんじゃないだろうか。

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