モンスターコール
「この辺りでしばらく狩りをしましょうか。毛皮はいくらでも使うでしょ?」
タルッタ草原には動物系のモンスターが多い。草むらをうろついているグレーウルフ。そして好戦的なタルッタラビット。うん、毛皮には困らないな。
先ほどの実力からすれば彼女ならもっと強い敵のいるエリアでも大丈夫だろう。俺達のことを考えてこの狩場にしてくれたのかな。
「前より少し魔物の数が多いみたいだけど、まぁ私達なら問題なしね」
辺りを見回しながら言うナデシコ。
「ありがとな。色々考えてくれて」
「あまり強いところに連れて行くとシアラが心配だもの」
過保護だなぁ。
ナデシコはサポートに回ってくれるとのことなので、俺を先頭、ナデシコを殿において草原を進んでいく。VRだと普通のRPGと違って視界が前方しかないため、この隊列は地味に有効なときがある。
「少し緊張しますね……」
「いいかシアラ。もしものときはアイザックの背中に隠れるんだぜ」
「了解です!」
「おいクロウ。シアラに毎回変なことを吹き込むな」
ガサガサッと横の茂みから音が聞こえる。
慌ててそちらを向くと、タルッタラビットが二匹飛び掛ってきた。横からか。でも二匹ならナデシコの手をかりなくとも!
すぐに迎え撃つのはクロウ。二本目の短剣を取り出すと、両手に構えて正面右の魔物に突撃した。鋭い爪の一撃をギリギリで交わしながら、すれ違いざまに双剣で斬り付ける。素早い二連撃のあと右に構えた短剣の刃が翻り、弧を描いてもう一閃を叩き込む。『月光』を交えた連続攻撃だ。三連撃を受け倒れるモンスターを前に、クロウはくるくると短剣を回して格好を付けた。
やるねぇ。クロウのくせに格好いいじゃないか。
続いてもう一匹がシアラの方に迫る。
「わっ、わわっ」
シアラには荷が重いよな。
俺は慌てるシアラの前に槍を構えて出る。するとすぐに後ろから服の裾を引っ張られる感覚が……。こいつは後ろに隠れたな。
前に出た俺に向かってもう一匹のタルッタラビットが飛び掛ってくる。一直線に向かってくるなら、そこに槍の先を合わせて迎撃するだけだ。
獲物の目標、すなわち自分の目の前に槍を突き出して低く構えると、ズンッという重い感触と共に獲物の腹部に槍が刺さる。俺はそいつを力一杯地面にたたき付けた。
「シアラ、追撃だ!」
「はいっ!」
槍が刺さったままバタバタともがく魔物にシアラが杖を振り下ろす。「えいっ」というかけ声とともに木製の杖が頭に当たると、魔物は光になって消えていった。
「戦うシアラもいいわね……」
危うげなく戦う俺達を、というか主にシアラを見つめるナデシコ。まぁ何かあったら彼女が助けれくれるだろう。この調子でガンガンいくか。
草原の奥へ、奥へと歩みを進める。敵の多くは好戦的なタルッタラビットばかりだ。ポーチには毛皮が貯まり、戦闘関連のマスタリーポイントが貯まっていく。十数匹狩る頃には連携も板についてきた。この調子ならもっとたくさんの敵が同時に現れても大丈夫だろう。
シアラが杖マスタリーで作成したスキルの『治療促進』をみんなにかけてくれる。一定時間HPの自然回復を上げるスキルだ。
「ふー、生き返るぜ」
クロウのHPが徐々に回復していく。こいつは一々格好付けなければHPにもっと余裕があるんだけどな。
俺も『近接戦闘』のマスタリーで筋力を上げるスキルと、『槍』のマスタリーで槍の基礎攻撃力を上昇させるスキルを作成した。この調整によりスラスト一発でタルッタラビットが確殺だ。
「シアラも大分慣れてきたわね。初めはリーダーの後ろに隠れてばかりだったけど」
「あんなに可愛いウサギさんなのに、向かってくると意外と怖くて」
可愛いか? やさぐれた表情でたむろしてるのを見ると田舎のヤンキーを彷彿とさせるんだが。
「でも、もう慣れました!」
自信満々の表情でグッと杖を構えるシアラ。俺も最初のうちはVRでモンスター相手にするの怖かったっけか。でもこのくらい表現がマイルドなゲームなら初心者のシアラでも大丈夫そうだな。
「さてみんな、狩りにも慣れただろうし、せっかく四人もいるんだからもっと効率良く狩りをするか」
「二人ずつに分かれて狩りでもするの?」
「それも悪くは無いが……」
「ならナデシコ俺と行こうぜ~」
「嫌よ、私はシアラとがいいわ」
「わ、私はアイザックさんとが……」
三者三様意見を述べ、その後みんなの視線が俺に集中する。止めてくれ。その分かってるよなとか、お願いします、みたいなのを目で訴えてくるな。
「申し訳ないが、分かれて狩りはしない。さっき木こりをしながら作ったとっておきのスキルを使う」
「えぇ……木こりって……」
「まぁまぁ、ものは試しだ。使ってみるぞ」
武器を構えて、みんなに準備はいいかと目で合図する。
全員の準備が出来たのを確認してから、口笛マスタリーの新スキル、『モンスターコール』を使用した。
ピュウピュウピイィィィッと口笛の音が当たりに響く。周囲の敵をおびき寄せるとしか説明はなかったが、果たして効果のほどは……。
少し遠くに見えるモンスターたちが一斉にこちらを向いた。そしてすぐに走り出す。左右の茂みからグレーフルフが五匹、上空からブラックイーグルが二匹、タルッタラビットに至ってはそこらじゅうからだ。もう数えてられない。ちょっと効果範囲広すぎじゃないですかね。
「おいおい、やばいんじゃねぇのこれ」
「へぇ、面白いじゃない」
こちらに向かってくる敵を前に、対照的な感想を述べる二人。一方でシアラは再び俺の後ろに隠れてしまった。やっぱり慣れてないじゃないか。
ナデシコは髪を後ろでくくると、一番魔物の量が多そうな方へと歩み出た。あちらは彼女に任せよう。
ドドドドという地響きと共に四方八方から魔物の群れが襲い掛かる!
まずはこちらにくる先頭の一匹。獲物が到達する少し前からスラストを発動し、貯めを作ってからタイミングよく突き出す。高速の突きは白い魔物を一匹仕留めるが、すぐに二匹三匹と新手が襲い掛かってくる。槍の柄を使ってグレーウルフを弾き飛ばすものの、左肩ににぶい衝撃が走る。
痛ぇ。上空からの攻撃か。上を見えるとこちらに滑空してくる黒い姿が目に入る。速いな、少し速めにスラストを使用しなければ。
敵の攻撃に合わせて槍を突き出す。しかし槍の先は羽を掠めるだけに留まり、再び左肩に痛みが走る。さらには横から来たタルッタラビットが鋭い牙で足に噛み付く。HPにはまだ余裕があるが、これが続くとやばいな。
「クロウ、空にいるおまえの親戚を頼む!」
「親戚じゃねぇから!」
なんだかんだ言いながら、クロウの双剣はブラックイーグルをすぐに一匹仕留める。適材適所だな。スラストは燃費がいいものの、使用感覚が長めだ。回避が高い相手には使わない方がいいな。
想像以上に敵が多かったが、なんとか全滅しないで戦えている。それはやはりナデシコのおかげか。
ナデシコの剣は轟音を上げながら敵を薙ぎ、一太刀で複数の敵を葬っていく。さらにその剣を振った遠心力を活かし、合間合間に回し蹴りを繰り出す。踊りながら暴れると言った感じだろうか。敵が濃いところに突撃しては蹴散らしていく姿は最高に格好いい。惚れそう。
次々と敵が倒れ、キルログとアイテム・お金の獲得ログがすごい速度で流れる。気付けば半分以下だった体力も六割ほどに回復していた。
「ありがとな、シアラ」
「はい!」
後ろからピョコっと顔を出して返事をするシアラ。攻撃にもときどき参加してくれているし、彼女もかなり戦力になっている。
最初のうちはじりじりと減っていたHPも、回復と釣り合いが取れるくらいのバランスになってきた。いい感じに連携が取れてきたな。
「ようし、敵も減ってきたしおかわりと行くか」
「マジかよ! ちょっと休憩を」
クロウの言い分を無視して俺は再度『モンスターコール』を使用する。口笛の高音が辺りに響くと、それに釣られて敵がもう一度大群で押し寄せてくる。
「うおー、マジでマジがマジかよ!」
「あははは! リーダー、貴方って最高ね!」
「そうだろうそうだろう。このくらいの方が、スリルがあって楽しいし、効率も良い!」
さらに激しくなる敵の猛攻。腹部にグレーウルフの爪が刺さり、肩にブラックイーグルの爪が食い込み、HPが三割を下回る。しかしそんなものは無視だ。俺が狙うのはタルッタラビットだけ。一発一発、確実に命中させて仕留めていく。手空きになったシアラが杖でウルフを追い払い、クロウの刃がイーグルを切り裂く。攻撃が激しい部分にはすぐにナデシコが割って入り、敵を蹴散らしていく。役割が分担化され、段々とこの状況下での動きが最適化されていく。
どうにか死者は出なかったものの、敵群の第二波を捌き切るころには俺たちは精も根も尽き果てていた。
「ぜぇぜぇ、何で、俺たちは、こんな、必死な、戦いを、序盤から、してるんだ」
「クロウなら大丈夫だと俺は信じてたよ」
本当は一回くらい死にそうだなーとか思ってたけど、黙っておこう。実際死にそうだったのは俺だったしな。まぁシアラが後ろにいて避けられないからしょうがない。今度は盾でも作るかね。
「へへっ、ま、まぁな。俺にかかればあれくらい朝飯前よ」
「朝飯抜き?」
「前だよ前! いや確かに苦戦したけども」
クロウはまだ余裕ありそうだな。
「…………」
向こうでは心配そうに見ているシアラの隣で、ナデシコは膝を抱え込んで体育座り。さっきまでナデシコ無双してたのが嘘のようだ。
「ナデシコさん大丈夫ですか。ヒールかけましょうかヒール」
「大丈夫よ、ちょっとこの武器燃費が悪くてね。はしゃいだせいで疲労が貯まっちゃっただけよ」
彼女の疲労度はMAXだ。なるほど、経戦能力は低いわけか。
「そうですかー……」
ちょっと残念そうなシアラ。覚えたての『小治癒』をもっと使いたいのかな。
さて、まだ空腹度には余裕があるけど、今のうちに少し食事も取っておくか。
「あっ、おいアイザック何食べてるんだよ。俺にもくれよ」
「しょうがないなぁ。美味しい美味しい黒パンだ。味わってお食べ」
「うげぇ! 黒パンはパスだ」
いかにも嫌そうな顔をするクロウ。うげぇってひどくないか。
「どうしたんですかー」
「シアラも黒パン食べるか?」
やってきたシアラに一口サイズにちぎった黒パンを渡す。料理ができるゲームでは序盤で作れる定番のアイテムだが、シアラが食べるのは初めてだろう。
「なんかやけに気合入れてちぎってませんでしたか?」
「気のせいだろう。ほら、味わってお食べ」
黒パンデビュー、さていかに……。
口に入れてもそもそと咀嚼するシアラ。しかしその顔から表情が段々と消えていく。
「……おいひくないれふ」
「そうだよな。こんな固くて味もろくにしないもん、よくアイザックは食べるな」
「慣れてくるとこのフランスパンの化石みたいな固さが癖になるんだよ。こんなのリアルじゃなかなかないぞ」
黒パンと言うアイテムは、ぶっちゃけマズイ。ゲームによっては料理に失敗したときに出来るアイテムだったりもする。しかし美味しいパンなんて現実でいくらでも食べられるだろう。
「俺はこいつを齧りながらだらだら狩りをしているときが、一番あーVRMMOしてるなって感じがするんだよ」
「おまえってもっと効率主義かと思ったけど」
「それはそれ。効率的なのも好き。だけどこれはこれで好き」
「ふーん、変わってんなー」
「……飲み込めないれふー」
そんな感じで各々食事を取りながら小休止。周囲には敵の姿が全く無い。先ほどまで死地だった場所も、今では優雅なピクニックのような団欒だ。
しばらく休んでいた俺達の前を一匹のウサギ型の魔物が横切った。さっきまでの白いウサギよりも一回り小さく、ふさふさの黄色い毛、くりくりとした目をしている。こっちのは随分と可愛らしいな。
それを見たナデシコが声をあげた。
「あれは……有角の黄金毛! この草原一番のレアモンスター、フォーチュンラビットよ」
「マジか! 追いかけようぜ!」
よく見れば小さな角が付いている黄色いウサギは、タッタッタと軽快に草原を駆けていく。周囲にモンスターはほとんどいないし捕まえやすいだろう。サクッと捕まえてやりますかね。
俺たちはすぐにその後を追った。




