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王道と外道の狩り

 広い草原を駆け回る四人と一匹。俺達はレアモンスターであるフォーチュンラビットと鬼ごっこを続けていた。


「くっそ、なかなか追いつかねぇな」

「ああ。っておいクロウ、横から来てるぞ!」


 右側面からこちらに向かって二匹のタルッタラビットが飛び掛ってくる。こいつらの横槍がちょくちょく入るのも追いつけない原因の一つだ。


「私に任せて」


 頼もしい台詞と共に、後ろにいたナデシコが前に上がってくる。そして踏み込みながらの横薙ぎ一閃、白い獣達を一刀の元に切り伏せ、軽々と大剣を背負いなおした。本当に戦闘面では頼りになるな。


「助かったぜ。それにしてもさっき狩り尽くしたばっかなのに、湧きすぎじゃねぇか?」

「そうね。でもすぐ復活するなら稼ぎやすくていいんじゃない」


 追いかけ始めてから既に十匹ほどは倒しているだろうか。しかし今走っている周囲に他のモンスターはほとんど湧いていない。通常の再配置とは違うのだろうか? まぁモンスターのリスポーンについては詳しく把握していないし、深く考えるのは後でもいいか。

 金色の獣は、大きな木を迂回し、さらに背の高い茂みに入り込んだ。茂みの高さは腰くらいで、中に入り込むとその小さな姿はかなり探しづらい。雑魚の相手も厄介なのに、走りながら巧みに姿をくらませようとしてくるとは、こりゃあ一筋縄じゃ行かないな。


「ねぇちょっと、レディはそろそろ休憩の時間なんだけど」


 ナデシコは疲労が限界か。操作に慣れていないシアラも、付いてくるのがやっとの状態だ。パーティを組むことによって戦い方に幅は出るが、どうしても動き自体には重さが出てしまう。このまま単調に追うのはよくないな。


「もう少しで追いつけそうなんだが……」


 ガサガサと動く茂みの影はもう槍を伸ばせば届きそうな距離。しかし茂みから出た途端、金色ウサギの走る速度は急激に上がった。まだ最高速じゃなかったのか……。


「だーっもう埒が明かねぇ!」


 早くなった速度はすぐにまたもとの速度に戻ったが、詰めた距離はまた開いてしまった。やはりこのままじゃ無理か。


「よし、壁際に追い込んでみるか」

「何か作戦があるのね?」

「あぁ、名づけて『壁際に追い詰めて捕まえる作戦』だ」

「そ、そのまんまね……」


 今考えたからしょうがない。まぁ俺の適当なネーミングセンスじゃ時間があってもろくな名前にならないが。


「とっても分かりやすいです!」


 フォロー……いや素だろうか。シアラはいい子だなぁ。


「何でもいいからさっさとやろうぜ」

「そうだな。俺が回り込んで誘導するから、クロウはこのまま追跡を、シアラとナデシコは向こうの壁際にある茂みで待ち伏せを頼む」


 簡潔な指示だが、大体の流れは伝わっただろう。各自から了解の旨をはらんだ返事が返ってくると、俺たちは三手に別れた。急ごしらえの作戦で上手く誘導できるかは分からないが、あのまま単調な鬼ごっこを続けるよりはいいはずだ。

 シアラとナデシコは東の壁際へ。クロウはフォーチュンラビットを追ってそのまま走っていった。俺も待ち構える場所を探しますかね。

 草原の中央付近は茂みが少なく、とても見晴らしが良い。橋や川の近くでは、魔物と戦ったり採取をしている他のプレイヤーが見える。空にもイーグルが旋回している様子からして、『モンスターコール』を使って殲滅した敵の再配置が始まっているみたいだ。これは急いだほうがいいな。

 クロウは茂みから茂みへと移りながら、マップの外周を走っている。二匹のタルッタラビットに追いかけられながら全力疾走しているからここからでもよく分かるな。よし、背の高い茂みを通るなら、大体のルートも絞れそうだ。上手くできるかは分からないが、とにかく回り込んで準備をしよう。





 東の壁際にほどよく近く、かつ回りに他の茂みが少ない場所。良い待ち伏せポイントを見つけた俺は、準備を済ませてクロウが来るのを待っていた。この茂みの手前で進路を変えさせ、上手く壁のほうへ誘導しなければならない。東側へ進路を逸らせれば、あとは彼女達が待つところまで隠れられるようなポイントはない。向こうまで追い込めばきっと捕まえれるだろう。まさかあの小さなウサギが尋常じゃないくらい強かったりしなければだが……、まぁそればっかりは祈るしかない。

 少し離れた壁際左右の茂みから、ナデシコとシアラが手を振ってくれる。どうやらあっちも準備は万端みたいだな。


「うおおおおおおおお!」


 どうやら待ち人と待ちウサギが来たようだ。クロウは背後にタルッタラビットを五匹引き連れ、尻をグレーウルフに噛まれながらも、必死の形相でフォーチュンラビットと共に、一直線でこちらへ向かって来ていた。……ありゃ止まったら死ぬな。

 俺が少しだけ茂みから顔を出すと、こちらに気付いたクロウはにやりと笑みを浮かべ、


「ようし追い込むぜアイザック。『黒・影・疾・走』」


 大げさに叫びながら姿勢を下げると、クロウは加速した。黒い影のようなエフェクトを後ろに出しながら、付いてくるモンスターを引き離し、フォーチュンラビットにぐんぐんと迫る。

 俺はクロウのそれを見て、茂みから飛び出した。シアラとナデシコが待機しているのは俺から見て右手側だ。そちら側にゆとりを持たせるよう、左側に少し寄りながら対象へと向かった。

 どうやらクロウも速度を活かして追い込む角度を調整したらしい。十一時と七時の方角から仕掛ける俺達を前に、小さな獲物は直角に進行方向を変え、真東の三時の方向へと進路をとった。


「よっしゃあ成功だぜ!」

「ああ、思ったより簡単だったな」

「アイザック、ほらほら」


 駆り立てられた獲物を追いながら、右手を軽くあげて手の平をこちらに見せるクロウ。――それするのは子供の時以来だな。ちょっと恥ずかしさを残しながら、俺は左手で払うように乱雑なハイタッチをした。

 フォーチュンラビットは思ったとおり、シアラとナデシコが隠れている方へと一直線に進んでいく。草原の端には十メートルを超える絶壁がそそり立ち、そのすぐ下に少し間隔を開けて二つの茂みがある。どうやら先に向かうのは、金髪が草の中をちらちらと動く左側の茂みのようだ。


「シアラ、茂みに入れないように、進路を塞ぐんだ!」


 俺の声に反応して茂みからシアラが飛び出た。そしてばっと両手を広げて立ちふさがる。

 それを見たフォーチュンラビットはすぐに右へ転進、近くにあるもう一つの茂みに向かう。だが、そちらからは充分に休息を取ったナデシコが現れる。


「ざーんねん。こっちも通行止め」

「よっし、完璧だぜ!」


 クロウの言うとおりここまでは驚くほど順調に事を運んでいる。左右にはシアラとナデシコ、前方の奥は壁、後方からは俺とクロウが詰めているのだ。逃げ場は無いだろう。

 この状況の中、フォーチュンラビットは二つの茂みの間を通り、行き止まりの壁に向かって走り出した。


「ふっふっふ、そっちは行き止まり、袋のネズミならぬ袋のウサギだ~」

「暴れたら意外と強いかもしれない。クロウ、あんまり油断するなよ」

「わーってるって」


 しかし壁が迫るもフォーチュンラビットの速度は落ちない。それどころかどんどん加速していく。このままだと完全にぶつかってしまうだろう。自殺? いや、まさか壁を掘るのか?


「ちょっ、マジかよ」


 猛スピードで壁に向かう異常さを前にして、クロウが先ほども使用した移動速度を上げるスキルを使い、影を出しながら追いかける。しかし今までで一番の速度で走る金色の影には届かない。

 さらに速度を上げた金色の弾丸は、壁を目前にして、なんと宙を舞った。そして壁で跳ね返るかのように三角飛びで高度を上げながら反転、さらにクロウの頭を使ってもう一跳躍、俺の頭上を悠々と飛び越えた。


「わーお。見事ね」

「お、おお、俺を踏み台にしたぁ!」


 作戦はここまできてまさかの失敗。距離が離れたフォーチュンラビットは、広い草原を背にしながらこちらに振り返り、手で顔をクシクシと洗ったあと、悠々と一つ前の茂みへ向かって駆けていった。


「ウサギさん、すっごいウサギさんでした……」

「ま、待てやこらあああああ!」


 クロウは叫びながら一人フォーチュンラビットを追いかけて行く。まぁ踏まれたし怒るのも無理ないか。シアラもナデシコの隣で残念そうな顔をしている。


「あぁ、ヒールまだかけてないのに……」


 その顔はそっちが残念な顔か。


「あれじゃあ捕まえるのは無理そうね」

「そうだな、近距離じゃ触るのは難しそうな相手だ。次は弓でも作って見つからない位置からスナイプしてみるか」

「素早い相手に効果的なスキルを作るのもいいかもしれないわね」


 一回狩りに出ただけで、作りたいものが山積みだ。


「私のも、できたら色々一緒に作ってください」

「えぇ一緒に作りましょうシアラ。あなたにはどんなスキルが似合うかしらね」


 ふむ、ナデシコにアドバイスを貰ったら俺も強くなれるかもしれないな。


「なぁナデシコ、俺にもなんか強くなる秘訣を頼むよ」

「そうねぇ……。複数のマスタリーを組み合わせて作る、複合スキルを作るのはどうかしら。リーダーの想像力なら面白そうなスキルが作れるんじゃない?」

「なるほどね、複合スキルなんてのも作れるのか」


 一応このゲームは、作れないものはないという設定だったはずだ。であれば組み合わせによっては変なスキルも色々作れるかもしれない。スキル作りも案外面白そうだな。

 三人で話していると、すぐにクロウは小走りで戻ってきた。


「お疲れクロウ。今回は残念だったけど、また今度頑張ろうな」

「いや、その……捕まえたんだけど」

「は?」


 クロウの手元を見れば、確かに金色で角の生えたウサギがいた。両手でわしっとお腹の辺りを掴んで持っている。


「なんか草むらの中入ったら、変な草に絡まっててあっさり……」

「草むらって、もしかして俺が隠れてた茂みのところか」

「そうそう。アイザック、おまえが何かしたのか?」

「あそこは時間があったから罠を作っておいたんだよ。まぁ草を編んだだけの原始的な罠だけど」


 交わされて茂みの中に入られると面倒だし、無いよりはましかと思ってしこたま作っておいたんだが、まさかあんな適当な罠にかかるとは……。直接捕まえるのは難しいが、間接的手法にはめっぽう弱いということか。


「すごい、罠なんて作れるんですね」

「まぐれとは言えやるじゃない。罠を使うなんて、これぞ王道の狩りね」


 気付けば罠のマスタリーも結構貯まっていた。


「ようし、これだけの相手ならドロップアイテムも期待できるし、早速倒すぜ」


 クロウの手に収まっている金色のウサギは、鼻をひくひくさせながらつぶらな瞳でこちらをじっと見つめてくる。


「なんか……かわいそうです」

「いやただのモンスターだぜ。どうせ倒しても少し待てば新しい奴が出てくるから」


 そう言ってクロウは金色のウサギを片手に持ち替え、空いた右手で短剣を構えた。すると危険を察したのか、手の中のウサギはキューキューと鳴き声を上げながら暴れだす。


「うわっとっと」

「おい、逃がすなよクロウ」

「大丈夫だ、力はそんなに強くない。……っておいまた来やがった」


 クロウの視線の先を見ると、三匹のタルッタラビットが再びこちらに向かってきていた。それを見たナデシコがすぐに飛び出し、速攻で蹴散らす。今日だけで何度見たか分からない光景だな。

 白いウサギを倒すと、金色のウサギはすぐに大人しくなった。あのタイミング――もしかしてこいつが呼んでるのか?


「もう面倒だしさっさと倒しちまうぞ」

「ちょっと待てクロウ」

「なんだよアイザック。まさかお前までカワイソーとか言うんじゃないだろうな」

「それはないから安心しろ。みんなアイテムポーチに空きはまだあるよな?」


 今回はかなりの数モンスターを狩ったが、種類自体は少ない。そのためまだアイテムインベントリに余裕はあるだろう。


「空きはあるけどよ、どうすんだよ」

「まぁまぁいいからいいから。ちょっと場所を移動しようぜ」

「何かアイザックさん、悪い顔してます……」







 やってきたのは壁際を少し歩いたところにある大きな木の下だ。その枝からは俺が持参したスパイダーシルクで簀巻き状にした、先ほどのフォーチュンラビットがぶらさがっている。


「で、これはなんの儀式だよ」

「これはな、無限ウサギ発生装置だ」

「どういうことだ?」

「まぁ見てろよ」


 俺は宙吊りでぷらぷらしてる金色の角付きウサギをつんつんと突っつく。すると可愛らしい鳴き声を上げ、同時にどこからともなく数匹のタルッタラビットがこちらへ向かって走ってきた。


「あー、なるほど。こいつが白いのをどんどん召喚するわけだ」

「そうそう」

「へぇ、これなら湧き待ちもいらないし、フッ! 便利そう」


 ナデシコは喋りながら白ウサギたちを一瞬で倒してしまう。


「王道の次は外道の狩りね」

「外道? 効率が良ければそれが正義だろ」

「な、なんか格好いいぜ」


 俺は単調なレベル上げが嫌いだ。相手はただのモンスターだし別に外道だろうが非道だろうが問題ないだろう。


「さぁ交代で休みながら狩ろう」

「ふふっ、じゃあ私が最初に行くわね」


 楽しそうに笑いながら、ナデシコは木より少し前へポジションを取る。さて、俺達は木陰で休憩しておきますかね。


「シアラ、何か料理を頼めるか?」

「あ、はい。じゃあいっぱいあるお肉焼いていきますね」

「よっしゃ、肉だ肉!」


 シアラは手際よく焚き火セットを取り出して火をつけ、獣肉を串に刺していく。そしてじゅーじゅーと音を立てて焼かれる肉を見ていると、簀巻きウサギがまた鳴き声を上げた。

 助けに来たウサギ達が倒され、目の前で焼かれるのを見て、鳴き声を上げるとさらにウサギが助けに来て……よく考えるとえげつないループだなこれ。いやまぁゲームのモンスターに感情なんて無いだろうし、仲間は定期的に呼んでいるだけだろう。


「……やっぱりかわいそうな気がします」


 肉をひっくり返すシアラの瞳に哀れみの色が映る。よく考えればシアラには酷なことをさせてるかもしれない。かといって他に黒パン以外の食材はないし、せっかく捕まえた獲物をすぐ逃がすのも勿体無いよな……。


「そうだなぁ……。じゃあたくさん呼んでくれたら開放してやるか」

「たくさんって、どれくらいですか?」


 うーん、十秒に三匹位のペースで行けるか?


「三十分で六百匹くらいかな」

「ろ、六百、ですか……」


 シアラは少しシュンとしてしまう。


「アイザック、さすがにそれは無茶ぶりじゃないか?」

「いや、割とペースは早いし、妥協するにしても数はあれくらいだろう。達成できなければ綺麗な毛皮を剥いで幸運のお守りでも作るかね」


 焚き火を囲う俺の背後から、より一層大きなキューキューという鳴き声が聞こえてくる。よしよし、まだ元気そうだな。向こうではおかわりがやってきてナデシコが嬉しそうだ。


「それ幸運って付いてるけど絶対呪いのアイテムだろ。ウサギ達の怨念詰まりまくりだって」

「ははは、大丈夫だろう。考えすぎだ」


 でも、呪いのアイテムを作成できるスキルなんていうのも面白いかもしれないな。


「なぁアイザック。……俺もさ、なんだかあいつがかわいそうに思えてきたよ」

「どうしたクロウまで。さっきまで踏み台にされて怒ってたじゃないか」

「そうなんだけど。いや、なんかさ、あいつの気持ちが分かる気がしてさ……」


 クロウは吊られたフォーチュンラビットを見ながらも、違う情景を思い浮かべているような遠い目をしていた。

 シアラに引き続き、まさかのクロウまで絆されてしまうとは――。非常に勿体無い気もするが、まぁ捕まえ方は分かってるし、今回は二人に免じて逃がしてやってもいいか。

 その前に限界まで働いてもらうけどな。


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