第8話 目覚めよ、闇の力よ
「手をぎゅっと強く握ると手が暖かくなるから後は使いたい魔術に形を変えてばーんって放てば使えるわ」
剣を教えるときはしっかりと基本に習っていた気がするのに、魔術については全く期待ができそうになかった。
「魔術は感覚をつかめるかどうかというところは大きいですからね。でも、アレは天才の理屈ですから、聞かないでいいですよ。エヴァ、魔術は私が教えますからあっちに行ってなさい」
「イヤよ」
「なら静かに聞いてなさい」
なんだかんだで父親には弱いのか、不満気な顔をしながら部屋の端にドスンと座り込む。
今皆がいるのは屋敷にある、鍛錬所。
そんなものまであるのかという感じだが、武闘派なお父様ほぼ専用の場所だったが、これからは俺も使うことになりそうだ。
さて、無事に訓練の許可をもらえた流れを説明しよう。
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屋敷に戻った俺達はオークが出たことを報告。近日中に騎士たちを森に派遣して他にも紛れ込んでいないか調査する、と話がまとまってから、ミハエル叔父様がお父様、お母様に話をしてくれた。
「リオンに魔術を教えてあげようと思う。この子は賢い子だから悪いことには使わないよ」
「魔術を教えるのか? 勉強ができると聞いていたから魔術の才能があるなら向いてるんだろうが、うちでは剣ができたほうがいいんじゃないか? 中途半端はもったいないぞ」
「魔術の才があるのは確実です。それに、あなたの子でしょう。両立くらいできますよ。最悪、やらせてみて、向いてる方に専念させればいいんです。エヴァはうまくどちらもこなしてますよ。あなたのお陰でね」
「そりゃ、エヴァちゃんに才能があるのはわかるが――アンリはどう思う?」
「……無事だったとはいえ、リオンちゃんは危ないところだったのよね? 自分を守れるように強くなれるならそれに越したことないと思うの」
「じゃあまあ、お願いできるか? ミハエル」
「ええ。娘に剣を教えてもらっていますしね。お互い様ですよ」
と、いう話でまとまったようだった。
剣一本で成り上がったお父様的には剣に専念してほしかったらしく『でも魔術師ってさー近寄って切られたら死ぬからなー』『俺魔術師に負けたことないしなー』『剣士の方がモテると思うんだよなー』とぼそぼそ不満を述べていた。
『あなたはまた今度剣を教えてあげればいいじゃないですか』とお母様に叱られるとしゅんとしていた。
ガッチリした体躯なのに、怒られて小さくなっているのは飼い主に叱られた大型犬みたいで、妙な可愛らしさがある。
「リオン、今度剣を教えてやるからな?」
「うん」
「絶対だぞ、絶対教えるからな?」
「わかった」
「約束したからな」
お父様しつこい。
「あなた」
「ハイ」
男の子が生まれたら剣を教えるのは男親の夢らしく、取られてたまるものかと、粘っていたらしい。最強の剣士という言葉には憧れがあるが、正直、魔術で魔物を殲滅する光景を見た後だとやはり魔術ってかっこいいなと思ってしまう。
あと、がっつりマッチョより、程よく筋肉がついた細身ですらりとしている叔父様のほうがかっこよくて憧れる。というか、マッチョな自分が考えられないというか……!
ごめんなさい、お父様! ちゃんと程々には剣も覚えるから!
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「魔術には火・水・風・土・光・闇の6属性があり、人はどれか1つ得意な属性がある」
「みはえるおじさまはひかりですか?」
「そうだよ。リオンくんは闇だね。どっちもどちらかと言えば数が少ないレアなやつだ。エヴァは火だしね」
火と水、風と土、光と闇が反属性らしい。そのままといえばそのままかも知れない。
しかし、闇か。かっこいいが、勇者とかにはなれなさそうだ。
実際、戦場の英雄なんかは火が多く、唯一回復ができる光は聖人・聖女が多いとか。
「みはえるおじさまもせいじんですか?」
「私は回復魔法が使えないからね。そもそも人を救うより研究してたい方さ」
闇属性は気配を消したり、精神に影響を与えたり、毒を持ったりと色々トリッキーに使えるらしい。また、闇属性は水や土とも相性がよく、この2つは数少ない、物理的な防御力を発揮できる属性でもある。そのため、多体一には向いていないが、一対一では非常に強いらしい。
……領主が一対一で敵と戦うシーンがあまり想像できないけどね! 一瞬の隙を簡単に作れるというのは魔法剣士としてなら非常に相性が良いかもしれない。
「これからリオンくんに魔力を流すから、体に流れる何かを感じ取ってほしい」
両手を握り合うと、体に何かよくわからないぬるいものが注がれる感覚とともに、体がぶるっと震える。異物感があって、けれどどこか心地よさが増す不思議な感覚。
注がれてゆくたびに、鼓動のリズムに合わせて手から全身へと駆け巡っていく。
「なにこれ、すごいへんなのが……」
「それさえわかればまずは合格さ。さあ、溢れる魔力を手から追い出すイメージで……」
言われるままに両手を開いてイメージする。
すると暖かさも、触る感じもない、黒いモヤが手の上に乗っていた。
「ダークミストだね。おめでとう、これで君も魔術師さ」
俺は闇の力に目覚めたようだ。
ふよふよするそれをつついてみると顔につけてみなさいと言われて水に顔をつけるみたいにつっこむと、視界が真っ黒に染まる。しかも、息ができない!!
くっつくわけじゃないので、顔をあげるだけで避けれてしまうけど、これ、結構すごいんじゃないかな! すごい大きく作ればすごいことに……これは闇の力チートが始まるかもしれない?




