第57話 私が守る
いつか。
いつかまた会えると思っていたのだ。
お母様は俺を愛してくれていて、それがわかるから、お母様に抱きしめられるのは、気恥ずかしくても嬉しかった。
家族に恵まれなかった俺がこの世界に馴染めたのは家族の愛情を深く感じられたから。
だから、怖気づくことなく、立ち向かえたら、もっと強かったらと馬車が襲われて男たちに囲まれていた時はおのれの不甲斐なさを感じていた。
でも、無事だと思っていたから――寝込んで会えないだけで……。
けれど、けど。
「恨んでもいいんだぞ。お前がわかっていないことを理解したうえで黙っていた」
「でも、知ってたら前を向けなかったかもしれない」
自分が弱いせいで守れなかったと悔やんで、恨んで、手に入れた力に酔って復讐でも企んでいたかもしれない。
いつか再びと思っていたからこそ、生きなければと思っていたし、真っ当に生きれる道を見つけた時に喜んで選んだのかもしれない。
胸の奥に湧いてくるのは怒りだ。
頭の中に、たくさんの母の笑顔が、抱きしめられた時の感触が、あの温かい気持ちがよぎって、それを燃料に燃え上がる。
「あいつらに――」
「けじめをつけさせましょう」
復讐を。そんなふうに続けるつもりだった言葉はマリオンによって続けられる。
拘束され、意識を失っていたエヴァを介抱し、回復魔法で洗脳状態を回復させていた彼女は作業が終わったのか、エヴァの頭から手を離す。
「けじめをつけさせましょう。身勝手な思いで利用しようとしたその罰を受けさせましょう」
「……罰」
「土下座させてごめんなさいさせてやるにゃ!」
シルヴィアは、いつもみたいに元気よく言っていて……でもその表情は不安そうだった。
マリオンは、真っ直ぐ俺を見つめているのに、心配そうだった。
「そうだな。這いつくばらせてごめんなさい百回くらい言わせるか」
真っ直ぐ前を向けるようにお父様ががんばってくれたのに、お母様が身を持って守ってくれたのに、ただ復讐だけを考えるなんて、悲しむだろう。
「リオン。良い仲間を得たみたいで俺は嬉しいぞ」
「自慢の仲間だよ」
お父様には妻と言ってもいいんですよ、なんて言い出すマリオン。
笑いながら、戦いの後の治療や後始末をする。
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「ごめんなさい、リオン。信じられなかったわ」
「しょうがないよ。俺の体を奪ったって怒ってくれてたんだろ?」
「でも、切り飛ばしたわ」
「今は治ってるから。ほら」
聖剣で切られた傷も、フルキュアなら傷を直すことができた。
だからもう体は元通りで、悔やむ必要なんてない。
従姉で、姉と呼んでいたエヴァ。
吸血鬼になって成長した体からすると、不思議な事に、幼く見える。
年齢の関係は変わってないのにな。
赤ん坊になった時に体に引っ張られて幼くあったように、育った体に心も引き上げられていたのかもしれない。
「許してくれるの?」
「許すも許さないもないよ。怒ってないから」
なるほどと頷くと、不安の混じった表情は瞬間笑みに変わる。
子供らしい気持ちの切り替えの速さ。
「そっ! ならいいわ。また守ってあげる! 吸血鬼になっても弱いみたいだからね! しょうがないわね!」
「エヴァおねーちゃんが強いんだよ」
目を覚ましたエヴァはミハエルの話していたことも覚えていて、騙されたのに、最初に俺に謝った。
ミハエルのことはどう思っていたんだろう。
「まあ、お父様が私やお母様より好きな人がいるのは知ってたわ。でも、私のことも大切にしてくれてたし平気だったわ。その人のために育てたと聞いて――なんだかしっくり来たわ!」
「それだけ?」
「ええ。貴族なら国のために働くべきだけど、お父様はその人に仕えてたのでしょう? ならしかたがないわ」
彼女なりの理屈は通っているらしい。
主人のために尽くしてるんだからOKとするなんだか武人みたいな感覚……なのだろうか。
俺を守るなら敵対することになるんじゃと言っても、お父様と本気で戦うのは胸が高鳴るわね!と戦うことを前提にしているし。
そうだった、この子、7歳にして、5歳の子供を引き連れゴブリンをバッサリやる子だった。
「ついてくるの?」
「リオンは私が守るわ。安心してればいいの」
「う、うん」
こうして、またエヴァに守ってもらうことになってしまった。
でも、エヴァおねーちゃん。今の俺はもう、ブルって後ろに隠れてたりしないよ。




