第55話 最大のピンチ
「ダークブリンガー!」
「スターシールド!」
苦し紛れに放った剣も、光り輝く盾に阻まれる。
盾はほんの僅かな間だけ受け止めて、パリンと割れてしまうが、その頃にはもうエヴァは射線上にはいない。
光属性を相手にするのがこんなに面倒だとは。
しかも、ミハエル叔父様はこっちを倒す気なんてさらさらなくて受け役に徹している。
「さあ、エヴァ。遠慮せずに攻撃するんだ。リオンくんはもう吸血鬼に取り憑かれてしまっていてるんだから」
「わかったわ!」
くそっ。1対1なら大した相手じゃないはずだ。
打ち消しにもある程度同等の魔力と集中力を要求される。吸血鬼の強く豊富な魔力で押し切ればあっという間だろう。
だが、それもエヴァの持つ強力な魔剣……いや、吸血鬼に高い効果を発揮するのだから聖剣とでも言えばいいのかもしれない。
あれのせいで、全然攻め切れない。一撃で俺の腕を切り落とし、しかも再生が遅い。
治らないわけではないが、そうなると、血が補給できないのがきつい。
しかも今は乱戦状態で、他の相手から血の補給なんてできそうにない。
やばい。俺調子に乗ってたかもしれない。
だいたいなんでエヴァにあんな人殺しを見るような目で見られなきゃいけないんだ。
きっと教団からあれこれと言い聞かされたに違いない。
10歳にもなってない女の子にあいつが敵だと言い聞かせるとかなんてひどいんだ。
「まってまって、エヴァおねーちゃん! 本当に本人だから!」
「絶対違うわ! だってリオンはゴブリンにだってブルブルする臆病な子だったわ!! 敵に真っ先に攻撃を仕掛けるなんてできないはず!」
「エヴァおねーちゃんの思い切りの良さを真似したんだ!」
「――そうなの?」
え? ほんと? やっちゃった? みたいな驚きの表情を浮かべる。
うん、やってるよエヴァねえ! その軽さは嬉しい!
「ほら見て! 俺の顔! これが悪い吸血鬼に見える!?」
「……見えない……?」
「でしょ! ということは俺はリオンなんだよ!」
「なるほど……! そんな気がしてきたわ! お父様! これリオンなんじゃないかしら?」
何を企んでエヴァを利用しようとしているのかわからないが、子供を騙して利用するべきじゃなかったな! エヴァはもうあんまり疑ってなさそうな感じでミハエルおじさんの方を振り向いて……
「エヴァ。騙されてはいけない。リオンくんはあんなに大きかったかい? 髪の毛の色は? 吸血鬼に乗っ取られたからあんなになってしまったんだよ」
「……むむっ」
むむじゃないが。
だが、誰がエヴァに話して聞かせたかはわかった。
「叔父様。なぜエヴァに嘘をついたのですか? ほんとは知っていたんじゃないですか? 俺がリオンのままだって」
「何を証拠にそんなことを言うんだい?」
だって
「だって、一度も確認すらしないで襲ってきた。吸血鬼になったからじゃなくて、取り憑かれたからなんて、そんなことないってアルカード家の人間ならわかるはずだ」
夜のオーブは人を素質に合わせて力を持つ吸血鬼に変えるものであって、吸血鬼に乗っ取られるようなものじゃない。それは襲ってきた教団員の話しぶりからして教団もわかっているはずだ。
なのに、疑う様子なく、むしろ襲うように説得している。
教団の圧力か何かで動かされているお父様と違う立ち位置をしているはずだ。
「お父様……?」
「リオンくん。君相手だとどうにもうまくいかないなぁ」
「教団に力を貸してるの?」
お父様と違い、自分から協力しているに違いなかった。
「いや、力を貸してるんじゃないよ。僕自身が所属しているんだ。――愛するガブリエル様のためにね」
ミハエルが何か道具をエヴァに向けると、困惑を浮かべていたその瞳から光ごと消える。
虚ろな目のまま、こちらに剣を振ってくる。
「だからさ、君の体、僕にくれないかな。不死になりたいんだ。彼女とずっと一緒にいるために」




