第48話 戦争
「突撃!」
アヒムの号令に、兵たちは抜剣する。
蟻の国に足を踏み入れた彼らの目前には黒の絨毯が広がっていた。
構えた剣を一振りすればそれだけでオークアントは絶命するだろう。
一体一体は強くないのだ。
だが、振り切った剣を再び振り下ろす前に複数の蟻が襲いかかるだろう。
少しでも躊躇えば更に数十が体中にたかり、鎧の隙間から神経毒を注ぎこむ。
動けず弱った兵士たちはなすすべもなく彼らの財産に変わる。
それが食料か奴隷かは蟻次第だ。
だが、そんな兵士たちに襲いかかる前に、後衛の魔術師たちの魔術が次々に打ち込まれてゆく。
爆裂、閃光、様々な属性の攻撃が号令に合わせて打ち込まれ続ける。
高い攻撃力は必要ない。
永遠と交互に打ち続ける。それこそが必要なことだ。
だが、次第に大きくなる土煙に誰かが言った。
『やったか?』
風に流れるのを待ち……それが被害に繋がる。
煙の先には変わりなく大量の蟻の黒い道ができていた。
それは、兵士たちを飲み込む赤の混じった川に変わりだした。
「一部崩れ出しましたね」
「もう? 気合が足りないにゃ」
「と言っても、一部の貴族のだ。アヒムの陣営の軍隊はまだまだ平気みたい」
数とそれなり以上の腕があるのか、その場での迎撃以上に、切り進めていっている。
女王が逃げない以上、兵隊蟻もまた逃げずに向かい続けてくる。
その場で迎撃するとなればキリが無くなってしまう。
様子見の意味がない以上ひたすら殺しながら進むのが正解だ。
現に、アヒムの隊は順調に歩を進めていた。周りの貴族たちはそれに一歩遅れる形で陣営を少しずつけづりながら先に進んでいる。
けれど、時々オークアントの中に強い個体がいるようだ。
魔術の弾幕に耐え、不意に現れる強い個体に、バランスを崩されるケースが出ている。
集団の中に生まれる別の役割を持つ個体――おそらく戦士や騎士に当たるのだろう。
ゴブリンメイジやオークジェネラルのように、社会性を持つモンスターの場合そういう個体が現れるようだった。
「よし、十分引き付けてるみたいだ。今のうちに、合間をぬって攻めるよ」
確かにブラッドモードでダークセイバーを使えば盗賊団を一撃できたことから考えても辺りの蟻を全滅させられるが、それでもまとわりつかれたら足が止まってしまう。
貴族の一団と違い、交互に攻撃するのが難しい以上、圧倒的に足が遅くなりそうすれば遅れを取るだろう。
吸血鬼の生体レーダーを利用し器用に蟻の軍隊の合間を縫いながら奥に進んでいく。
軍という大きな脅威を真っ先に排除するため、蟻もまた隊になり、応じていたため、逆に穴は大きくなっていた。
俺たちはその穴を掻い潜りつつ、時に蟻を襲撃しながら先に進む。
蟻の領域は広く、軍から別れて一日以上歩いてようやくといったところだったが、蟻の王宮とも言える場所にたどり着く。
そこまでの道のりは異常だった。
途中にところどころ大きな畑があり、畑では人間が世話をしているのだ。
こんなところに人間が? そう思っていると、その近くでは蟻が働く彼らを見張っているというのだから驚きだった。
隷属化。
なるほど、蟻のコミュニティーに囚われた人間が、蟻のために畑を耕すなんて。
だが、農民から食料の上がりを奪っているだけなら支配者が違うだけといえる。
けれど――。
「これってなんの肉かにゃあ……」
「さあ、ね。隣の部屋に脱がされた服がなければわからないって答えるんだけどね」
蟻の王宮には大きな穴が掘られており、そこからは普通のありのように地面の底へとつながっている。その中には彼らの食料庫があって、そこは目を背けたくなる場所だった。
「いこう。さっさと倒せばいいんだ」
食料庫を超え、女王に近づくたび、襲撃が増える。
今となってはダークセイバーを永遠と打ち続けながら進むしかない有様だった。
「リオンさん、大丈夫ですか?」
「うん。魔力体力問題ない。気力も――まだ大丈夫」
吸血によって魔力と、体力が回復するとはいえ、攻撃し続けるのは精神的に負荷がかかる。
だが、落ちていく集中力に合わせてマリオンにフルキュアをかけてもらうと、それが戻る。
戻るのだが、見えない部分では負荷が残っているようで、少しずつ疲労は蓄積していた。
クワガタのように顎が鋭く進化した個体や、全身が竜の鱗のようになっている硬い個体など、多くのオークアントを倒しながら進む。
終わりが無いように思える攻略の中、穴は、恐ろしく広い場所へと通じていた。
そこはびっしりとした白いタマゴに囲まれた部屋で、中央にはイモムシのような体につながった巨大な蟻のモンスター。
「女王……!」




