第37話 釈明
その後ははいさようならとは行かず、マリオンにゆっくりと状況を噛み砕いてもらってようやく状況を理解した。
正直マリオンを助けたいの一心で屋敷につっこんでしまっていたのだが、改めて状況を聞いて突っ走ってよかったと思う。
マリオンを置物にしようだなんてと怒りが湧いてくるが、犯人は今では吸血鬼として眷属にしてしまっている。
主への忠誠心なのだろうか。こだわっていた女性への美は主への美と置き換わってしまったらしく、なにくれと世話をしようとしてくる。
今も紅茶を振る舞われている。ジットリした視線で顔から背筋と目線を感じてゾクリとする。
「ところで、アンタ誰なの? いつの間にかいるけど」
「リオン・フォン・アルカード。マリオンのなか――」
「夫です。将来の」
「へえ、そうなの! マリオンは年下が好きなのね。わたしは可愛さで売ってるみたいなガキンチョはタイプじゃないけど」
何だこの人。タイプとか聞いてないよ! 高倉さつきというならタカシと同じく日本人だろう。見た目も黒髪黒目で、日本人としか言えないし。
改めて見てみると、クラスで二番目か三番目くらいの可愛さの女の子だ。こっちでは珍しさとか、若く見える補正で評価が上がりそうだが、態度も合わせてこちらだってお断りだ、と言いたくなる感じだ。
夫という言葉にはドキッとするが、今の生活が続けられるならぜひと言いたいくらいだ。
一緒にいられなくなるかもしれないとなっただけであんなに苦しかったのだから。
「それでさっきの狼はどこにいったの? 助けてくれたのよね。いい魔物ならお礼を言わなきゃいけないでしょ」
マリオンが闇の狼だった時にリオンと呼んでいたような気がするのに。
もしかしたら俺の名前になんて興味がないのかもしれない。
「俺。俺があの狼だった」
「ええ!? アンタ狼男だったの!?」
もうそれでいいや。
「まあ、悪いことはしてないから、秘密にしててね。『お願いね』」
「ん? 日本語?」
『転生っていうのかな。元々は普通の人間だったんだけど、月の教団って悪い組織に魔物にされたんだ。でも、魔物だからといって、意味なく罪のない人に襲いかかったりしない』
「そんなのもあるのね。まあ、助けてもらったし信じるけど、悪い事したらやっつけるからね?」
「それはもちろん」
吸血の催眠は時間で切れるし、吸い殺して吸血鬼にするのは気が引ける。
そもそも、アードルフだって仕方がなくだ。
まだ地盤もできていない。今全部がバレればアードルフの罪すべてが俺の罪になるだろう。
吸血鬼がやらせたなんて言われるに違いない。
けれど、貴族にしか見えないマリオンを攫う男だ。俺もマリオンも権力で訴えるのは難しい以上逃げるか、黙らすしか結局はないのだ。
それに考えを変えれば、奴隷市を支配する領主の力を得たといえる。
なんとなく影の支配者ルートに入りかけている気がするが、元々吸血鬼である以上仕方がないとも言える。
とはいえ、これ以上無意味に吸血鬼は増やしたくない。どこで爆発的に吸血鬼が増えるかわからないのだから。無計画に増やせば俺の言うことを聞かない吸血鬼も出てくるだろう。
そいつらが好き勝手をすればあっという間に人と敵対関係にかわる。
だったら、ここは情で訴えるしかない。
日本人同士という共通点と、日本人なら悪いことをしないだろうと言う思い込み。
彼女はタカシに言われて勇者を名乗ってしまうほどだ。
納得させさえすれば問題ないはずだ。
――口の軽さが不安だけど。
そうして話し合いは終わった。
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「ごしゅじんさまああ!」
屋敷に戻って扉を開けると弾丸のような速度でシルヴィアが突進してくる。
胸を撃ちぬくような頭突きにうっとなると、間違えたという顔して、マリオンに抱きつく。
「俺にはなにかないのか」
「おっせーにゃ。待たせすぎにゃ。泣きそうだったにゃ」
「ごめんなさい。心配かけてしまいましたね」
マリオンがシルヴィアの目尻を撫でると、真っ赤になっていた眼が治って行く。
わかりやすいくらいにわんわんないていたのか、声もガラガラだ。
「んで?」
「んでとは?」
「リオンの秘密のことにゃ。ごしゅじんさまは知ってるんだよにゃ?」
ああ、さつきへの説明が終わったと思ったらこっちも残っていた。
いや、ここからが本番かもしれない。今後も吸わせてもらいたいのだから。
「そうですね。元々、私一人が血を吸われるのだと大変だったので奴隷を買うことにしたのです。黙っていてごめんなさい」
「ううん。いいにゃ。ごしゅじんさまは話しても大丈夫になるのを待っててくれたにゃ」
「じゃあ、今後も吸っていい?」
「ちっ! まあ、あんな大変なのごしゅじんさまにだけ任せられないにゃ。しょうがないから吸わせてやるにゃ」
反応がつれないが、OKしてくれているみたいだった。
「そ、そうですよね。シルも大変でしたか」
「チクっとするし、血を吸われたあとクラクラするし大変だったにゃ」
「――ん? シルはこう、体がしびれるというか、もじもじするような気持ちにはなりませんでした?」
「特段そんな風にはならんかったにゃ」
『あれ? 私は、……え? 私だけですか?』とマリオンが1人ぶつぶつとしゃべっていたが、シルヴィアもようやく元気が出てきたのか、俺の背中をばちんと叩くと『まっ、約束とおりごしゅじんさまを取り返してきたのはほめてやるにゃ』といった。
認めてくれたのが嬉しくて微笑むと、シルヴィアは褐色の肌を赤くして頬をかいていた。




