第22話 初めてのちゅう 君と吸う
吸血シーンにあわせてちょっとお色気シーンがあります。
苦手な人は飛ばしてください。
大量の金貨や食料など、奪えるものを積み上げ、パンパンになった馬車は速度を以前より落として進んでいる。
だが、二人に増えた旅は俺にとって格段に楽しい物に変わった。
さっきも、盗賊から奪った、足の早そうな新鮮な素材で一緒に鍋を食べたばかりだ。
同じ釜の飯を食べた仲間と言っていいだろう。
そんな仲間になったマリオンに言いたい言葉がある。いや、お願いしたいことがある。
お腹が膨れ、気持ちいい満足感に襲われている今だからこそ、足りない気持ちがあるのだ。
「どうしたんですか? リオンさん。トイレですか?」
もじもじし始めた俺に気づいたのか、荷物を整理する手を止めて、こちらを見ている。
まっすぐ見られると、邪なお願いをするのが悪い気持ちになる。
だが、こちらにも都合がある。いつか言い出さなきゃいけないのだから早いほうがいいだろう。
我慢できないし。
「あのさ、一緒に来るってことで、なんでもするって言ったよね」
「なんでもするとは言ってません」
ぴしゃりと言いのける。うん、確かにん、今なんでもするって、って話ではなかった。
「でも、血を吸ってもいいとは言ったよね?」
「……ええ、まあ、言いましたね。必要なことでしょうし。……やるんですか?」
するんです、吸血。
提案が通る流れを感じる。なんでもするよねのフレーズに眉をひそめられたが、どこかでみた、まず大きいお願いをしてから小さいお願いを通す作戦は有効なようだった。
「あの、約束したことですし、いいですけど、その……」
今までは広く感じたはずの馬車。けれど多くの荷物のおかげで少しだけ狭く感じて、この空間には俺と彼女だけで。ああ、緊張してきた。深呼吸、スーハースーハー。
ああ、なぜ女の子っていい匂いなんだろうか。
マリオンは後ろを向き、首を傾け、右手で服を引っ張る。
今まで見えなかった、絹のような肌からは甘い誘惑がする。
誘われるように、吸い込まれるように近づく。
「い、痛くしないでくださいね……?」
「うん、や、優しくするから……!」
近づくまでは女の子としてマリオンにドキドキしていたのに、その白く艶やかな首筋を見ていると、段々と、食欲に似た、吸血の欲求が強くなってくる。
噛みつく場所を確かめるように触れると、小さく声を漏らすマリオン。
痛くしないように、そっと、けれど、高鳴る胸は早く、深くと急かしている。
つぷり。
静かに咥えると、芳醇な血の臭いが鼻を駆け巡り、得も知れぬ快感が、全身をしびれさせる。
「あっ……んっ」
おいしい。
盗賊の男のあの泥臭く、苦い味は何だったのだろうか。
マリオンの血はまさしく天にも昇るような味だった。
体の淡いしびれにぴくぴく震えてしまう。
ゆっくり……ひとくち、ひとくち最大限に味わうように。
いつまでも味わっていたいのに、その時間は他ならぬマリオンによって止められてしまう。
「ダメ、っ……もうダメです、おねがい、です、だめ、ダメです……!」
弱々しい力で引き剥がそうとマリオンの両手が俺をぐっと押してくる。
目の前の、やや青白く感じるその肌を見ていると、もっとしてたかったな、と惜しくなってしまう。
けど、この味だけで吸血鬼になったことを許せてしまう、素晴らしい時間だった。
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「フルキュア」
マリオンは両手をさほど大きくない自分の胸に当てる。回復の光が灯り、全身に血の気が戻ってくる。やや青白かった肌はだんだん色を取り戻す。
顔色も良くなり、首に残っていた2つの赤い吸血の印が埋まるように消えて痕もない。
言われても吸血されたことなんてだれも気づかないだろう。
「だ、大丈夫?」
「あっ、うう、はい。大丈夫です」
「痛かった?」
「い、いえ、最初はチクっと痛かったですが、それ以降は気持ち……くないです、なんでもないです」
違う違うと、手をブンブンと振り回す。マリオンの顔は真っ赤になっていた。
普段肌が白いと、その変化がよく分かる。
それになんだか両足の太ももをすりあわせてもじもじしている。
「あれ、もしかしてトイレに行きたい?」
「はっ? えっ? ――いえ! はい、そうです。気がききますね! それでは、お花を摘みに行ってきますので!」
回復魔法が使える光の魔術の使い手とはいえ、攻撃用の魔術は使えないらしいから心配だ。
とは言え、トイレについていったら頬を張られるだけでは済まないので、これでいいのだ。
しかし、女の子にうまく気を使えてよかった。もしかしたら貴族として生きたおかげで気遣いレベルが上がっているのかもしれない。
けど、美味しかったなぁ。
人生で一番の満足感があった。また飲みたいなあ。
どのくらいでお願いしていいのかなあ。
こうして俺はマリオンがかけて行った方向を見ないようにしながら、あの幸せな時間を脳内で思い出しながらにへにへとだらしない笑顔を浮かべ続けていた。




