第21話 お前のものは俺のもの大作戦
「さて、開けるよ」
他より幾ばくか作りのしっかりしている扉。
合図と合わせて開けると同時に斧が振り下ろされ、頭が叩き割られる。
盗賊の頭は部屋で俺たちが来ることを待っていたのだ。
だが、生命反応で扉の前で待ち構えているのはわかった。
だから、ダークミストで作った人型の闇の霧を扉の前においたのだ。
勢い良く振り下ろした盗賊の両手を同じように剣を振り下ろす。
吸血鬼になって強化された力は、人の腕くらい簡単に切り落としてしまった。
両手を失いながらもなおも襲いかかる男の胸に刃を突き刺すと、うめき声を一つ上げてから倒れ落ちる。
「やりましたね!」
「うん、あとは宝だけど……」
頭の部屋はたくさんのものがおいてあり、散らばっていた。
奪いとったものを置いているだけといった様子で、センスなどは皆無で、隙間を嫌うように何かが飾ってある。
「これはすごいですね。結構溜め込んでいますね」
とは言え、できればかさばらないものを持って行きたいものだ。
例えば、金貨とか、便利なマジックアイテムとか。
宝といえば、魔剣とかないだろうか。心は期待に踊るが、まあ、彼らが使っていた獲物を考えれば可能性は皆無だろう。
「あ、金庫がありましたよ」
部屋の奥に鎮座した鉄の箱。ただ不思議なのは、取っ手の横に丸いマークがあるくらいで、鍵穴もダイヤルも存在しないことだった。
一体どうやって開けるんだろう。
「……生体魔力を鍵にするタイプですね。本人じゃないと絶対開けられないやつです」
魔力があるのだから、それを鍵にしてもおかしくないが、盗賊のくせになんて高いセキュリティーなんだろうか。逆に入れば、そのコストを払ってでも守りたいくらいに価値があるお宝と言えるだろうか。
「殺しちゃったけど、斬った手をくっつければ開いたりは――?」
「しません。生きているか死んだ体に宿ってるかで質が変わりますから」
頭を殺してしまったのは早まっていたのだろうか。活かして捕らえて秘密を吐かせる。
そういう考えも必要だったかもしれない。
ゲームでPOPしたレア確定の金の宝箱を見送らなきゃいけない後ろ髪惹かれる気持ちだ。
「いえ、この手のは抜け道があるんですよ。接ぎ木って知っていますか? 切った枝を、別の木に挿すと、成長し始めるという」
別の種類の木に刺すのに、元からその木に生えていたみたいに成長したりして驚くやつだ。
TVで見たことある。
だが、それとどう関係があるのだろうか。まさか手を自分のものと取り替えるというのだろうか。
せっかく綺麗な体なのに、おっさんの毛だらけの手なんて宝より存在が大きいと思う。
「それでは、私が役に立つところ見せますね」
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マリオンは盗賊の切り落とした手を恐る恐る持ち上げる。
切り飛ばした手の根本は回復魔法の光で光り続けているが、伸びる先がないせいだろうか、大した変化がなかった。
そのまま、盗賊の手を金庫に合わせると、不思議な事にカチッと音がなり、扉が開く。
「回復魔法をかければ再生して、切れているけど生きている状態になるんです。当然使うのをやめれば死んだ手に戻ってしまいますが」
部屋のテーブルに置かれた手を見る。
言われてみれば、血が抜け白かった手は、どこか活き活きとしていて、今にも動きそうだった。
「……よく知ってるね」
「冒険者だった魔術の先生に教えてもらいました。いいことも悪いことも教えてくれる先生で、どっちかを選べる時はいいことをしなさいと教わりました」
「いい先生だね」
「そうですね。先生との出会いは私の宝です」
おかげさまで金庫も開けられてしまうので、宝以上の宝ということになるかもしれない。
貴族の令嬢につけのに向く先生ではなさそうだが、いい先生だったのだろう。
マリオンの態度から本当に大切にしているものであると伝わってくる。
中に入っていたのは大量の金貨たちと書類だった。
白金金貨も多く含まれており、大金だった。
ものすごく大雑把に見るなら、金貨が1万円くらいで、白金金貨は100万くらいで取引されている。
帝国についたら大きな一軒家を一括払いで買っても文句は言われなさそうだ。
「わー、大量だねえ……」
俺が金貨の輝きにメロメロになっているうちに、マリオンは一人静かに書類に目を通していた。
人形のように表情のないその顔は、美しいだけに一切の温度を感じさせず、むしろ怖いくらいだ。
彼女は書類を読み終わると、大きくため息をつく。
「なにが書いてあったの?」
「彼らは貴族から仕事をもらっていたみたいですね。クレーフェ家からの依頼で、指定の日にちにある場所を通る教会の馬車を襲い、乗っている人間をすべて処分しろと」
「それがこの金貨? でも、クレーフェってマリオンの家だよね、だったらなんで――」
リオンの家族は何よりも温かいもので当然のように与えられた愛だったから、他人はそうじゃないかも知れないというのがすぐにでなかった。
どこか羨む冷たい色の視線を浴びて体が固まる。
「別に、吸血鬼であっても殺さない家もあれば、回復魔法が使えて、教会に勤めれば聖女として有望視されると言われる娘でも殺す家がある、それだけですよ。家族には恵まれてないんです」
「それはなんて言っていいか……」
「別にいいですよ。それとも、リオンさんが恵んでくれますか? 家族」
無理だろうと目が語っていた。お前に期待しているのはそんなものじゃないといらだちが見えた。
その時初めて、マリオンの中身に触れた気がする。
2回の人生で出会った中で一番綺麗で、神様が一番できの良い設計図で作ったみたいな、完全な美しさ。でも、中身は以外にも普通に生きる少女みたいなアンバランスで、何かを得ようと生きている。
「なら、努力してみる」
その言葉に、マリオンはなにを言ったのかわからないと首をかしげて、言葉の意味を咀嚼するみたいにパクパクと、言葉にしようとして出てこないみたいな繰り返しをして、
「努力、ですか……それは、そういえばしてなかったかもしれませんね……」
寂しそうに笑った。




