表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血鬼だってチーレムしたい  作者: もこもこ
初心者吸血鬼生活
20/63

第20話 だって男の子だもん 技名叫びたい!

「や、やっぱり帰らない?」

「ダメですよ! ここを超えられるかどうかが夢の一歩です。大丈夫。リオンさんならいけます」


 出てすぐ戻ってきたせいだろうか。

 盗賊たちはあいかわらず村から奪った酒や食料を飲み食いして宴会を続けている。


 とはいえ、もうしばらく経てば逃げる途中で倒した奴らが催眠状態からとかれたり、倒れている彼らに気づいて警戒されだすだろう。


 人数は二十人を超えないし、生体反応は夜の教団と一緒にいた傭兵団よりずっと小さく見える。

 もちろん、それがイコール強さではないが、彼らより強い個人ではないはずだ。


 だが、人数は力だ。複数人で囲めば背中を取られるし、守っている人がいれば危機にさらされる。

 俺がお母様と襲われた時に抵抗に迷ったように、犠牲なしに切り抜ける手段が潰されてしまう。


「……分かった。でも俺が入ったら、すぐ影に隠れて。その、間違って傷つけてしまうかもしれないから」

「わかりました。でも怪我をしたら任せてください」


 不安でドキドキする。

 けれど、本当はちょっと自信がない。だから、逃げ出したい。

 でも、マリオンの提案は最もだった。ここで彼らから奪われたものを取り返さないと後がない。


 馬車なしで、どうやって移動するのか。

 食料はどうするのか。

 うまく街につけたとして、子供である自分たちがすぐ仕事にありつけるか。


 だから、『奪われたものを取り返しましょう』そう提案されたのだ。


 マリオンは俺の闇の魔力の強さにだいぶ自信があるようだった。

 あれだけ強くて弱いはずがないと思ってる。


 俺が一番俺の強さに自信がない。

 でも、ここで自分の力を理解しなきゃ、うまく使いこなさなきゃ、俺をこんな風にした奴らを見返せない。うまく使ってやったぜ、ありがとよって顔しなければただの被害者じゃないか。


「よし、やってやる! ブラッドモードオン!」


 --


 別にゲームみたいにスイッチがあるわけじゃない。

 でも、気持ちを切り替えるためにあえて言う。


 吸血鬼になってから、闇の魔術が強くなった。

 でもそれは吸血鬼になって人じゃなくなって闇の適性が伸びたからだ。

 だから、人間の魔術の使い方でも少し強くなった。


 でも、吸血鬼としての力は違う。

 命そのものの血の力は魔術よりずっと直接的でパワフルだった。


 血の力が全身をめぐり、体が羽のように軽く、強靭に変わる。

 知覚が何倍にも優れ、部屋に飛び込んだ俺に振り向く盗賊たちの動きがスローモーションのようにゆっくりとしてモノに変わる。


 一撃で決めてしまえ。


 脳内に浮かぶ力のイメージ。

 自分が知る、圧倒的な強さ。


「ダークセイバー」


 自分の影から、松明に照らされた柱の闇からたくさんの黒い剣とも言えない尖った何かが飛び出してくる。俺を助けたあの光の剣を模した力。


『なんだこれは』


 そんな言葉を言い切る前に、誰もがハリネズミのように黒い棘が生えた状態に変わる。


 全能感と、興奮に笑いが零れそうになる。

 彼らから流れ落ちる血は、生まれた影が穴であるように吸い込まれてゆく。


 味はしないが、力だけが満ちてゆく。

 針を刺された蝶のように彼らはもがくしかない。


 ゆっくり近づく俺に、震えながら声にならない言葉を発し――マズイマズイ。

 自分が引っ張られていることを自覚し、我に返る。


 とびきりの興奮に、我を失いそうになる。


「ブラッドモードオフ」


 自転車のギアを切り替えた瞬間みたいに、一気に体が重くなって、世界が早く動くようになる。

 しかし、この力は危険だ。

 少なくとも、周りが敵しかいない状態でもなければ危ういかもしれない。


 マリオンは特に美少女で――美味しそうでもあるのだし。


 魅力を感じ、男性として惹かれているのに、同時に食欲に似た気持ちを抱く自分が変だと思うのに、お腹が空くのが当然なくらいあんまり変だとも思えなくなってきた。


 あたりに盗賊たちのうめき声が響く。全身を貫かれたが、それでも影が少ない場所にいた奴は死をま逃れている。


 ……待ってれば死ぬかな。

 止めを刺すべきなんだろうか。マリオンにさせるのは……ダメだろうなあ。


 敵として認識して、倒してしまったせいか、人を殺す忌避感は薄く、それ以上に汚いものに触らないといけないような不快感が強かった。


 流れ作業のように、盗賊から奪った刃で首を切り裂いていく。

 動けもしない彼らは、急速にその生命の光を失っていき、あたりに光は1つだけになった。


「マリオン。終わったよ」

「……思ってた以上ですね。血の臭いが酷いです……」


 うっ、とえづく口を抑えたまま、マリオンの手が光る。

 吐き気を癒やしたのだろうか。


「大丈夫?」

「はい……でも、ここに居たくありません。もらうものをもらって、逃げてしまいましょう」


 この部屋には盗賊の大部分が集まっていたが、吸血で眠らせた盗賊や、別の部屋にいる奴らに関してはまだ生きている。


 けれどもう、人数はいないし、近づいてくればわかる。


「リーダーの部屋は奥ですかね? 行きましょう」


 そこには、俺の馬車に積まれていたものもあるはずだ。

 砦を歩きまわり、そうして部屋を探り当てた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ