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番外編、小さなご主人様

番外編ですので、読まなくても、特に本編には影響ありません。


「…月から、何かが落ちたな。」


低く、静かに、声が響いた。


「…珍しいこともあるな。」


暗闇の中、それは身体を震わせる。


まるで、笑っているのかのように。


「さて、では、こちらからも誰かを遣わすかの。」


そして。


大きな声で、それは誰かを呼んだ。





「生地の仕入れがこれで、糸はこれ…、ふむ、針はそこそこの物が出来る様になってきたな。」


回路が繋がる音がした。


『それでどうだ、金竜よ。』


そんな時間か。


書類を捲る手を休め、意識をそちらへと集中させる。


『どうということはないな…。何時もと変わらず、だ。』


『ほう…、あの娘が作る物は、馴染んできたということか。』


『そうだな…、お陰で暇なしだ。』


回線の向こうで、笑う気配がする。


『たまには代わってくれていいんだぜ、銀竜さんよ。』


かつての相方に。

そして、偉大な黒竜様に仕える奴に。


『遠慮する。お前に恨まれたくはない。』


それに、俺は細かい事には向かない、と、更に付け加えながら。


『また連絡する。』


そう言い残して、切れる回線。


伸びを一つして、俺はまた書類に向かう。

これを俺に任せた人を思い浮かべながら。



「ハートー!」


俺の部屋兼仕事場に、飛び込んでくる、雇い主。


「はい、アイリさま。」


なんでしょう?と言う前に、抱えていた服をばさりと広げてみせた。


「これ!例の!」


また見たこともない服を作ったらしい。

これまた、なかなか可愛らしい服だ。


「王妃様の、侍女たちに、ですか。」


出来れば、アイリさまに着て欲しい、という言葉を飲み込む。

ここでは、執事だ。

それでなくても、アイリさまは可愛いし、と思う。

さらさら流れるピンクの髪、興奮すると、ついぴくぴく動いてしまう猫のような耳、ゆらゆらと動くしっぽ。

この世界に、産まれる筈のない異形の者。

それを物ともせず、彼女は様々な物を作り上げ、提供してきた。

そのお陰で、俺は忙しいが…。


「そう、それでね…。」


ちょっと困った様に、俺を見上げるアイリさま。

こういう時は、大抵頼み事がある時だ。


「俺に聞ける範囲であれば。」


そういいながら、結局はその願いを聞いてしまうんだが…。


「お針子さんたちを、何人か貸してくれないかなぁ?」


この服を、仕上げるのに。


お針子さん。

それは、アイリさまが手がけている服を量産している人たち。

指先が器用で、細かい事が苦にならない者を選んで、日々生産に回ってもらっている。


しかし…。

こうもアイリさまにじっと見つめられて、断れる筈もない。


「分かりました。でも仕上げる迄ですよ?」


「わーい、ありがとう!」


「ちょっ、アイリさま、重いです。」


飛びつかないで下さい。



ハートという名は、適当に付けた物だった。

黒竜様に任された使命を果たす為に向かった場所に、彼女はいた。

銀竜もいた筈だが、選ばれたのは自分だった。

初めは、食堂。

その次は、そこの仕入れ。

またその次は…と続けて行くうちに、俺のいる場所は、彼女の横になっていった。

初めてみた時には、なぜこんな小さな者を、黒竜様は気にされたんだろう、と思った。

しかし、居る内に分かった。

彼女は、異質だ。

この世界に、在らざる者。

黒竜様は、気がついたからこそ、そこに自分を送り込んだのだと。


「ハート、もうなんかよく分からないから、全部任せちゃっていい?」


食堂が二軒になり、服を売り出す様になる時、彼女はそう言った。


「分かりました。やりましょう。」


彼女の望むままに。


それが、黒竜様からの、使命でもあるのだから。


「ハートって、こんな形でね、心臓を意味するらしいよ。で、これは、私からのプレゼント!」


アイリさまから渡された物は、ハートの形をした金のペンダントだった。

それを受け取って、私は苦笑するしかなかった。

何故に金なのだろう。

まるで、分かっていたかのように。


「ありがとうございます、アイリさま。」


偉大なる黒竜様。

申し訳ありませんが、貴方が二番目になりそうです。


「これからも、頼りにしてるからね。」


一番は、この小さな雇い主へと捧げます。

たとえ、俺の何分の一しか生きられない存在だとしても。


…趣味です。

いや、物投げないで…。


そんな訳で、いつの間にか、竜族は仲間にしているアイリでした。



さて、そろそろ進めないと、毎日のことを書いてるだけになってしまうな…。

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