29、それは、マジか
「はい、そうですが…。」
王妃様の問いかけに、そうとしか答えようがない。
確かに、私はアイリです。
「ほうほう、可愛らしい姿だな。」
そんな今にもよだれを垂らしそうな表情で、見つめないで下さい…。
なんか…凄く微妙な気持ちになったのは、私だけでしょうか…。
「その服は、売り出したりはせんのか。いや、寧ろ妾の侍女にならぬか。」
わお、ティークの言った通りだぁい。
「いえ…それは…。」
「母君、言ったでしょう。アイリはダメだと。」
「その格好だと、こう…じゅるり。」
なんだろう、今、すっごく寒気がした…。
ダメだこりゃ、と言わんばかりに、ティークが頭を振った。
ダニィさんが苦笑する姿を、初めて見た気がする。
「まぁ、アイリも座って。」
とりあえず、ティークの横へ。
「母君ー。は・は・ぎ・み!」
「おう!そうじゃった。して、その服は?」
この手のロリータ服は、量産が難しい。
フリルやら、レースやら、ギャザーやら。
一着作るのに、軽く数ヶ月、針を動かして作っているからだ。
「申し訳ありません、量産の予定は、今の所無いのです。」
自分の分ならば、趣味で作っちゃうのだけど。
「代わりに、こんな物を用意しました。」
五人って聞いておいて、助かった…。
前持って聞いておいた人数分、ちょいと職権を濫用して仕上げ、ティークの家で、保管しておいた物。
それをハートが持って、入ってくる。
「ん?なんじゃ、それは?」
「浴衣です。」
正しくは、浴衣ワンピだけどね。
袖は姫袖、下はミニスカ、帯はリボン仕様。
着方を教えると、早速侍女達に着て来いと言う王妃様。
色も五色用意したし、いいだろう。
「おお!良きかな、良きかな。」
福眼らしく、またよだれを垂らし出す王妃様。
威厳…どこだろうな…ははは…。
「して、食事も期待してよいとか?」
「はい、こちらで支度します。」
着替えた侍女たちと、きゃいきゃい言い出す王妃様。
「ティーク…。」
「言うな、あれでも、この国で一番の権力者だ。」
へ?王は?
「国王なら、母君の尻に敷かれている。」
…どこの家庭もかかあ天下と言うことだな、うん。
しかし、この国の行く末が心配になったのは、きっと私だけではないはずだ。
晩餐会は、問題なく過ぎた。
ハイペースのお代わりと、酔った侍女たちによる、私の着せ替え大会さえなければ。
「うむ、お代わりを。」
「申し訳ありません。もう材料がありませんので…。」
一応材料は、数十人分用意していた筈ですが…。
サクラ亭の料理人たちを借りといてよかった、本当に。
「王妃様ー、見て見てー。」
「うむ、アイリは可愛いの。月なぞに代わらずともお仕置きを…むふふふ。」
何故ツインテールで、セーラー服なのか…。
そりゃ一部のマニアさんに、調子に乗って作ったセーラー服やら、ナース服やらは、流行りましたが…。
何故に王妃様が持っているのやら。
「王妃様の、趣味だよー。」
マジか。
あ、このセーラー服の前は、ナース服でした。
ちゃんと帽子も付いてました…。
「うーんとね、次はね…。」
「あの…そろそろ…。」
そろそろ解放してくだしあ…。
ハートもティークもはたまたダニィさんまで、生温かい目で、見守らないでくだ…。
アイリちゃんのHPはもう0よ!
散々着せ替え人形にされ、明日の見送りも約束させられ、私は解放されたのであった…。
見送りの朝。
豪華な馬車に、侍女と王妃様。
みなさん気に入ったのか、浴衣ワンピを着ている。
王妃様は、相変わらずシンプルなのに…。
「王妃様、これを。」
みんなが気に入っていた、パウンドケーキと、マドレーヌ。
その他焼き菓子の詰め合わせ。
「日持ちはしますが、なるべく涼しい所に置かれて下さい。」
「おお、これはいい土産が出来たの。」
それ以外にも、買い込んでいたのを知っている。
サクラ亭経由で、大量注文が入ってたからな…。
そちらはきっちりお金を払っていた。
「また来るでの。楽しみにしとるぞ。」
「はあ…。」
出来れば…遠慮…したいです…。
もう、あの着せ替えは…。
「母君、例の件をお願いします。」
「うむ、伝えておこう。」
ん?私が色々されてる間に、何か頼み事したのかな?
「ではな。」
来た時と同じ様に。
あっさりと王妃様は帰っていった。
「はあー…。」
気疲れした…。
思わず座り込む私とハート、そしてティーク。
「さて、後片付けをしますかな。」
元気なのは、ダニィさんだけであった…。




