表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Silver Pendulum  作者: 迦月
8/11

a couple of affair-II

 ―20時32分 榎璃の部屋―


 夕食が終わって約一時間半。

 榎璃はデスクに向かって依頼の書類を整理していた。

 ちなみに、夕食の時の大沈黙は榎璃にとって銃口を突きつけられるよりも恐怖だったらしい。なにせ聞こえるものと言えば食器が立てる小さな音だけだ、無理もない。

 さて、そんな恐怖を体験してしまった榎璃の心拍数が収まってきた頃。

 『コン コン』

 ノックのような音が後方から聞こえた。

榎璃「ん?誰?」

 デスクに向かったまま答える榎璃。

 『コン コン』

 また繰り返される。

榎璃「入って良いよ。」

 まだ顔を上げない榎璃。

 『コン コン』

 三度目のノック。

榎璃「ちょっと!入って来いってさっきから言っ―」

 しびれを切らして大声を上げ、振り向こうとしたとき初めて榎璃は気が付いた。

 その音は、ドアからではなかった。

 というのも、榎璃のデスクはアジア風の衝立を挟んでドアの真横にある。

 どう考えても、背後からノックが聞こえてくるのはあり得ない。

榎璃(あたしのうしろって…整理棚と…)

 榎璃は恐る恐る振り返る。

 『ざわっ』

 外で木立が揺れるほどの風が吹いた。

 榎璃の背後…というより、デスクが面している壁の反対側の壁…

 そこは、上半分が窓となっていて開け放してある為、風に揺れるカーテンの向こうには、ただ漆黒のような暗闇が広がっている…

 …はずだった。

 いや、ぱっと見そう見えたかもしれない。

 しかし、窓枠にあり得ないモノが。


 窓枠に、人間の手が掛かっているのだ。

 まるで、外に人がふら下がっているかのように。


榎璃「…は?」

 呆気にとられた榎璃には、それくらいしか言葉が出てこなかった。

 榎璃が放心状態に陥っている内に、それは手だけにとどまらず腕までもが部屋の中に侵入してくる。

 そして、頭部が見えた。

 もしここで、かの有名な貞子のような長い髪が現れたら、榎璃も叫び出しただろう。

 しかし、見えたのは薄らハゲ…というより、薄ら髪の毛という表現が似合うほど実に乏しい髪の毛だった。その割合、毛0.5:ハゲ9.5(加えてバーコードであろうその毛は風のせいで悲惨な状態になっている)。しかも、ご丁寧に定番通りの血まで流している。

 榎璃は考えた。

 ああ可哀想に…こんな風の中そんなとこにいるからハゲるんですよつーか何でいるんですか不法侵入で訴えますよてか何で登ってこれてんですかあんたクモか何かですかでも人の形してるしなぁああス●イダーマンですかス●イダーマンですよねっつーか正義のヒーローの中身が実はハゲたオッサンなんて子供の夢破壊してんじゃねぇよコノ野郎!

 軽くショートしそうな頭をフル回転させて目の前の映像に対する考えを消し去ろうという無意味な現実逃避をしていた榎璃は、思考を向けないようにしていた事実に気づいてしまった。

 …ここ、五階だわ。

 そんな事を考えてる内に、その血まみれハゲの男は部屋に侵入しようと窓から身を乗り出している。頭から流れている血で、着ているジャージはもはや何色だったか分からない程真っ赤に染まっていた。

 床へ、その血が滴る。

 その様子を見て、また榎璃は考えた。

 ああやっぱりス●イダーマンでしたか赤い服着てますからねてかあんた出血多量で死にますよつーか死ね!

 ここまで来て、さすがにブレーキがかかる。

 今、榎璃がやるべきこと。

 いや、やらねばならぬこと。

榎璃「芳賀ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 参考までに言うが、『芳賀』とは知る人ぞ知るというか知った人は思わず『知らなきゃ良かった』と思ってしまう中年男性教師である。(全国の芳賀さんゴメンナサイ)

 さて。

 榎璃がとった行動とは。

 キャスター付き椅子から立ち上がり、その流れで思いっきり椅子を血まみれハゲの顔面へと投げつける。

 そして、全速力で駆け出し、廊下へ飛び出る。もちろん、ドア横に掛けてある愛刀―薙刀『巴御前』は忘れない。

  廊下に出ると今出て来たばかりの扉の方へ急転換し、ジャケットの内ポケットから硫酸の入った試験管を取り出して扉全体にぶっかける。焼けたような異臭を漂わせる扉のドアノブは壁とくっついてしまっている。

 これで、扉は開かない。

 それでもビビりまくりの榎璃は、念には念を入れて腰のホルスターに差してあるナイフをストッパー代わりに床に突き立てた。

 そして…

榎璃「鴻ーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 こういう系に滅法強いヤツを呼びながらも、まずは隣の部屋に駆け込む。

 その理由は…

榎璃「万里!」

万里「榎璃!?」

 万里がいたからだ。

榎璃「ここはヤバイ!行くよ!」

 そう言って万里の腕を引っ張る榎璃。

万里「は!?」

榎璃「説明は後!」

 それも言い終わらないうちに、榎璃は万里を引っ張って駆け出した。


 目指すは三階。

 双子の部屋。




 ―同時刻 祥の部屋―



 榎璃が部屋に向かっている頃。

 そんな事とは微塵も知らず、双子は祥の部屋で話をしていた。

鴻「どーしよー祥…私…やっちゃったよー!」

 髪の毛をぐしゃぐしゃにしながら言う鴻。

 どうやら、大変な自己嫌悪に陥ってるらしい。

祥「やっちまったもんはしょうがな…ん?」

榎璃『鴻ーーーーーーーーーーーーー!!!!』

 上から榎璃の声が聞こえた。

祥「…呼んでるぞ?」

鴻「…どしたんだろーね。」

 興味なさげに答える鴻。

 しかし、その5秒後。

 部屋のすぐ前まで足音が聞こえた。

万里『え!?ここ!?』

榎璃『いいから行け!』

 二人のやりとりが聞こえてきた。

 『どん』

 何かがドアにぶつかる音。

 多分、榎璃が万里を押したのだろう。

 押された状態のまま、万里が転がり込んできた。

 榎璃もその後に続き、入ってすぐさま施錠する。

万里「わーーーーーーーーーーー!!」

鴻「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 慌てて祥の後ろに隠れる鴻。

祥「…どしたよ?」

榎璃「ハ、ハゲが…ってゆうか、怪奇現象があぁぁぁ!」

祥・鴻・万里「…は?」



 ―三分後(その間榎璃の説明)―


鴻「…事情はわかったよ。」

 祥の後ろに隠れたまま言う鴻。

鴻「でも…」

 そこで言葉を区切り、万里を指差した。

鴻「なんで一緒に連れてくるの!」

榎璃「だって部屋隣よ!?危ないじゃない!」

祥「…で?鴻、どうすんだ?」

鴻「榎璃ちゃん…どうしろと?」

榎璃「あいつをどうにかしてよ。」

鴻「いやだ。」

榎璃「即答!?」

鴻「金にならない事なんかするもんかっ!」

 そう言って、ぷいと横を向く鴻。

榎璃「よーく考えてみなさいよ鴻…」

 榎璃が交渉を仕掛ける。

榎璃「このままじゃさ…あたし、気になって仕事にならないよ。たとえ、部屋を変えたとしてもね。もし、次のダーツであたしに当たったら…依頼どころじゃなくて、金になんないわよ?」

 それを聞いて、横を向いたまま考える鴻。

鴻「…しょうがないなぁ…」

榎璃(守銭奴め…)

万里「もしかして…鴻ビビッてます?」

 挑戦的に言う万里。

鴻「は?そっちこそビビってんじゃないの?」

祥「二人とも…ビビッてないならさっさと行ってき…」

鴻・万里「解ってるよ(ますよ)!」

 そう言って、榎璃の部屋に向かって駆け出す二人。しかし、鴻は祥のデスクの脇に置いておいた布で包まれた物を取った為、少し遅れをとった。

 そして、『やれやれ』といった様子で後を追う祥と、ビビり全開でその後を追っていく榎璃。

 そして―

 祥と榎璃が先の二人に追いついた頃。

 丁度、榎璃の刺したナイフを万里が抜いた頃だった。

鴻「そんくらい銃使えばいいじゃん。」

万里「別にいいじゃないですか!俺、銃苦手なんです!」

祥「二人とも…」

万里「さて…この溶けたドアをどうするか…」

 『ガン!ガン!』

 見ると、鴻がドアを蹴っている。

 しかし、いくら蹴ろうともドアは全く動かない。

 それもそのはず。頑丈な軽量金属の素材で出来ており、それにプラスされるように硫酸のせいで壁とくっついてしまっているのだから。

 無理と解った鴻は、まだビビっている榎璃に向き直る。

鴻「榎璃ちゃん、その怪力でここ開けてよ。」

榎璃「むむむ無理よ!あのハゲが出てきたらどうすんの!」

祥「なら薬品ぶっかければいいんじゃないか?」

榎璃「…あぁ、そっか。」

 そう言って、榎璃は内ポケットから透明な液体が入った試験管を取り出す。

 その液体を、溶けてもはや壁と化した部分に振りかける。

 すると、かけた所が水のように流れていく。

万里「ドアノブがないが?」

榎璃「ごめん。…溶かしちゃった。」

 その時、すっと鴻が後ろに下がった。

鴻「…離れて。」

 『パン!パン!』

 鴻が手動式銃―『月夜』を連射した。

 狙うは蝶番。

 二つの銃弾は見事命中し、蝶番を粉々にした。

 『ガン!』

 もう一度鴻がドアを蹴る。

 能力を使っていたのか、ドアは1m程吹っ飛んて倒れた。

鴻「…これ位やったらどう?」

万里「五月蝿い!」

 怒った様子で室内に入る万里。

榎璃「ち…ちょっと!」

 室内に入った四人が見たもの。

 それは、整然としたごく普通の室内だった。

榎璃「……へ?」

 榎璃は信じられないように中を見渡す。

 男もいなければ、血溜まりも、手を付いた後も無い。

 もちろん、それを拭き取ったような跡も。

万里「…本当に、何か居たのか?」

榎璃「本当よ!」

 今、部屋の中には四人いる。

 デスクに近い場所に万里と鴻、ドアの側に榎璃と祥。

 そのため、問題の窓の辺りを含めて部屋全体をよく見渡せる万里と鴻だが、二人が嘘をついている様子もない。

鴻「本当にこんなとこから来たの?」

 鴻がそう言って窓に近づき、下を覗こうとしたとき。

 その場にいた全員が目を疑った。

 開け放たれたままの窓の向こうに広がる漆黒の闇…それが、揺れた―波打ったように見えたのだ。


 まるで、窓枠全体にシャボン玉の液体が張ってあるかのように。

全員「…は?」

 あっけにとられている間にも、その波打ちは大きくなっていく。

 そして―

 一瞬の内にこちらへ大きく飛び出してきた暗闇は、まるで大波のように―土砂のように―崩壊していくように―包み込むように―

万里・鴻「ぅわっ―!?」

 次の瞬間、万里と鴻に覆い被さり、取り込んだ。

榎璃「っ!」

祥「…」

 二人を追うように、窓枠から手を伸ばす榎璃。しかし、既に膜は消えてしまったようだ。

 榎璃は身を乗り出して下を見た。この高さから落ちたら、いくらあの二人でも即死に決まっている。

 だが、いくら探しても二人のしたいは無い。



 二人は消えたのだ。



 祥は、一歩も動くことなくその様子を見ていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ