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花嫁は白い結婚を望む。当然よね、と聖女は笑う。  作者: 悠木 源基


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第1章 婚約破棄と魔物の森

今回は珍しく転移もので、しかもハイファンタジーです。元の世界の話も出てきます。魔法や、ざまぁ、そして恋愛も出てきます。

「貴様との婚約は破棄する!」


 王太子がそう宣言したのは、婚約してわずか三日後のことだった。

 破棄されたのは無理やりにこの世界に召還された聖女、マイカだった。つまり、私のことね。


「聖女と偽り王太子と婚約するとは、言語道断。ゆえに処刑する」


 そう言われた私は、壇上にいる王太子や側近、司祭達を軽く見上げながら淡々とこう言った。


「偽りを述べているのはそっちでしょ。私はひと言だって自分が聖女だなんて口にしていない。もちろん、癒やしの力や瘴気を祓う力があるなどと言うはずもないわ。

 そっちが勝手に私を聖女に仕立て上げたのでしょう。

 そこにいる司祭達。嘘偽りを述べて無実の人間を処刑したら天罰が落ちるわよ。そして二度とこの世界に聖女は現れないでしょうね」


 私は誰にも気づかれないように目の動きだけで魔法を使った。その途端、檀上に掲げられていた、王家の紋章入りの旗が突然燃え上がった。続けて教皇が被っている白くて高い帽子のてっぺんにも火が着いた。


「ひぇー!」


 大きな悲鳴が上がったその瞬間に「神の怒りだ!」とすかさず私は叫んだわ。

 混乱時は先手必勝、早い者勝ちだ。誰かに魔女の仕業だ!なんて先に叫ばれたら、そこでジ・エンド。火やぶり刑間違いなしだもの。


 火はすぐさま消火されたが、豪華絢爛な大聖堂は水浸しになり、その濡れた床の上には、黒く焼け焦げた旗と帽子の残骸があった。

 聖人だけでなく、あれほど勇ましそうにしていた王太子や近衛騎士まで青ざめてそれを見つめた。国王夫妻やその他の王族なんて震え上がっていた。情けないわね。

 王太子は恐る恐るといった感じで、平然とその場に立っていた白衣姿の私に顔を向けた。だから、思い切り睨みつけてやると、彼は悲鳴を上げて震え上がった。


「それで、私を処刑するの? しないの?」


 私がそう尋ねると、王太子は近衛騎士達に向かってしどろもどろになってこう命じた。


「か……彼女をひ……東の森へ連れて行ってほ……放逐しろ!」


 近衛騎士達は皆ぎょっとして王太子を見た。東の森とは魔物がうじゃうじゃいる場所だ。そんなところへ女性を一人置き去りにしたら、ものの数分で殺されてしまうだろう。

 つまり殺すことと何も変わらない。そんなことをしたら天罰が下る。王族の命に逆らうのは怖いが、天罰を食らうことはさらに怖い。地獄の業火の中で永遠に苦しむなんてごめんだ。子孫代々呪われるかもしれないし。

 彼らがそう思っていることが手に取るようにわかった。

 近衛騎士達は誰一人動こうとはしなかった。その様子を見た王太子は


「何をしているのだ! さっさと連れて行け!」


 と叫んで、一番近くにいた近衛兵の剣を奪い取って、その騎士に剣を向けた。

 その瞬間に私は叫んだ。


「王太子、待ちなさい。

この大聖堂で人を殺めようとするなんて、何を考えている。それこそ天罰が落ちるぞ」


 そしてその言葉と同時に、王太子が「わぁ!」と叫んで剣を放り投げて、その場に腰を抜かした。剣から電流が流れたのだ。

 そんな情けない男を見下ろしつつ、私は


「騎士様、私を東の森へ連れて行ってください。私は抵抗するつもりはありませんから」


 堂々とそう言って、自分からさっさと出口に向かって歩き出したので、近衛騎士達は慌ててその後を追ってきたのだった。




 王家の馬車で東の森の奥まで運ばれた私は、四人の近衛騎士達にこう告げた。


「貴方達には何の罪もないわ。だから天罰は下りないから心配しないで。

 だけど、この国はそのうち滅ぶでしょう。だから今のうちから身の振り方を考えておいた方がいいですよ」


 私の言葉に騎士達は、天罰は王家と大聖堂に下るのだなと、そう受け取ったようだった。


 実のところ騎士達は、最初は森の入り口で私を降ろそうとしてくれていたのだ。自分達がいなくなった後で、すぐに森から離れて、人家に助けを求められるように。

 しかし、私がお願いしたために森の奥まで運んでくれたのだ。

 

「人里近くに女一人で放置されたのでは、いつ破落戸(ごろつき)に襲われるかわかりません。そんな恥辱を受けるくらいなら魔物に喰われた方がましです」


 私がそう懇願したからだった。それでも騎士達は、魔物が跋扈(ばっこ)する森に若い女性を放置するのをずいぶんと躊躇った。

 一人の騎士が、自分の剣を私の足下に捧げてくれた。

 二人目の騎士が、自分の兜を。

 三人目の騎士が、馬車に常備してあった毛布と綱(ロープ)を。

 そして最後に四人目の騎士が、来る途中で買い集めた食料と日用品の入った大きな麻袋を彼女の近くに置いてくれた。

 その後、彼らは私に一礼すると、心配そうな顔しながら、後ろ髪を引かれるように王城へ戻って行った。


 暗い森の中で松明の明かりを持ったまま、私はほんの僅かだけぼんやりしていた。あまりにも事が上手く行き過ぎて、現実味がなかったからだ。それに、近衛騎士達の思いがけない善意に、正直信じられない気持ちだった。王家に逆らってこんな犯罪人に情けをかけてくれるなんて。

 この恩は決して忘れない。そう思った。それが祖父の口癖だったからだ。

 しかし遠くから魔物の遠吠えが聞こえてきて、私は我に返った。このままボーッとしたままでは魔物の餌になってしまう。たとえに魔法を使えたとしても、大量の魔物相手では敵わないかもしれない。なにせ、こちとら経験値ゼロだから。



 私は長めの木の枝を拾い上げると、騎士達がくれた品を置いた地面を中心に、半径二メートルほどの円を描いた。そして中心部近くに立って手を組み、祈った。というか、ドームの映像を思い浮かべた。前世でグランピングと呼ばれていた透明の建物だ。

 敵がよく見えるように中からは外が見えるけれど、外からは中が見えない構造がいいな。


 それから「サイや水牛の角に突かれても、グリズリーや象に頭突きされても、台風や竜巻に襲われても絶対に壊れないシェルターを造って」と心の中で祈った。

 その途端、身体中から魔力が溢れ出して、私の周辺が透明な膜に覆われて、ドームのようなものができたのが分かった。


 ドームの端に寄って手を触れると、ポニャンポニャンとした弾力のある、柔らかな壁があった。なんだかスクイーズのような感触だなと思った。

 肉まんのスクイーズをニギニギするのが、勉強で疲れたときの癒しだったな。そんな受験生のころを思い出した。数年前のことなのに、やけに遠い昔のことのように感じられた。


 数日前に私は、古代道の一つ、東山道だったと思われる場所を訪れようとしていた。

 そこも山の中で、正直、熊との遭遇に怯えていたのだが、まさか異世界に拉致されて、魔物に怯えることになろうとは、そのとき思いしなかった。



第2章は21時に投稿予定です。

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