9いざカリーへ
「すいません、実のところ俺もカリーに向かってたんです。ですのでどうか一緒にそこまで連れて行ってくれませんか?
一人じゃここは厳しいので」
魔物をろくに倒せず一人でカリーに行くのは危険だと判断した俺は彼女たちについて行かせてもらうよう頼むことにした。そのとき、女剣士は青い瞳を俺に向けた。
「君もカリーに用があるの?だったら、一人でここを歩くのは危ないし……いいよ」
「えっちょっと、リアーナ!?何勝手に決めちゃってるの!?見ず知らずの人を勝手に乗せちゃうって正気!?」
女剣士が俺に顔を向けたとき、一瞬見惚れてしまったが魔法使いが俺を同行することに待ったをかけ、はっと正気に戻った。
まあ、そりゃあ誰だって初めて会った人を乗せるだなんていやに決まってる。素性の分からない人だなんて俺だっていやだ。さっきの頼みなんて断られることを前提にここからどこまでなのかを訪ねようと思っていたところだ。それがまさか了承されたときは流石に驚いた。ここまでお人好しな人は村にはいなかった。改めて世界は広いなと感じた。
「あっあの…ほんとにいいんですか?魔法使いさんの通り見ず知らずのこの俺を乗せてもいいだなんて」
流石に乗せてもらってもいいのかと不安になり、もう一度確認した。もしかしたら、一時の気の迷いかもしれないから。
「…困ってる人がいたら助けるのは当然でしょ?」
女剣士は何か変なことを言ったのか疑問に思ってそうに顔をしかめながら答えた。間違いなくそこに、裏がないと言うことが分かる。
まずい、本気で彼女に惚れてしまう。落ち着け、これから俺はいろんなところを旅していろんな美女と出会い、ロマンティックな恋をするんだ。旅を始めたばかりでこんなすぐに親切をしてもらっただけですぐに惚れるだなんてそんな小物みたいな男になんてなりたくない。
……よし、自分の頼みから始まったことだけど、ここはきっぱりと断ろう。
「あー、やっぱり助けられて急に同行させてもらうなんて流石に迷惑かなーって感じてきたんですいません、ここからカリーまでどのくらいか教えていただければ…」
よし、言ってやったぞ。途中たじたじしながら喋っていたがなんとか最後まで言い切った。ここに男どもがいたらぜひとも俺の努力を褒めて欲しいところだ。
さあ、こんなこと言われてしまってはいくらお人好しといえど同意せざるをえないだろ―――
「だめ、こんな魔物がうろついてる平原の中で一人でカリーに向かうのは危ない。だから、君が断っても絶対に乗せてく。私があなたを守るから。だから、ね?お願い、私を信じて」
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父ちゃん母ちゃん、俺、好きな人ができちゃった。
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本当は断るはずだったが女剣士の熱烈なお願いにより、了承してしまった。
だって仕方ないだろ?あの真剣なまなざしに俺の両手を包むように握るあの温かい手、しまいには俺を守る宣言。あんな美女からのアプローチ、断る男なんていないよ。ただでさえ顔を見ただけでも無意識に「はい」って言ってしまいそうだったのにあんなことをされてしまっては断れないじゃん。卑怯すぎるよ。
っと心の中でグチグチと言い訳を言って見事に小物だと証明された俺は女剣士と魔法使いに同行し、竜車に到着した。
「はええ、すっげえ…これが竜車かあ」
彼女たちが乗っていた竜車は先頭に二匹の小型の竜にそれを操っている人がいる。その後ろは人が六人くらい入りきれそうな幌馬車が繋がっている。
竜車は村自体にはいなかったが、ときどきやってくるアテナ商会の人たちが乗って来てたため見るのは初めてではないが、こうして近くで見ると小型なのにこの大きさの幌馬車を二匹だけで動かせる竜の細くても発達した筋肉に鋭い目つきがはっきりと見えて思わず竜に夢中になっていた。
「ちょっとあんた、さっきから何もの珍しそうに滑走竜を見てんのよ」
「えっああ…すいません」
魔法使いが無言で滑走竜を見ている俺を不思議に思い、問いただした。
まあ、実際に今まで封鎖的だった村出身の俺にとって竜は珍しいからな。近くで見ると村にいた豚や犬、猫とは全く違った見た目に興味をひかれてしまった。
俺が魔法使いに返事をしていると、幌馬車から誰かが降りてきた。
「やっと戻ってきましたか、リアーナさんとレイアさん!リアーナさんは急にどっか行っちゃったら、レイアさんはそれに着いていって…ずっと待ってた私の身にもなってくださいっ!」
「それは、本当にごめんね」
「ああ、そういえばリアーナのことまだ伝えてなかったわね。ごめん、リッタ」
ふたりに対して涙目で訴えているリッタという少女は落ち着いた黄金色の短髪に、エメラルド色をした緑がうっすらと見える瞳がぱちくりと開き、どこかのほほんとした雰囲気を沸き立たせている。
左耳の部分の髪に銀色のヘアピンが付けてあり、服装は庶民というよりかはお嬢様が着そうな胸にリボンのついた白の長袖と膝より上にある短いスカートに黒色の長いブーツを履いている。
杖や剣は見当たらず、雰囲気的に戦闘ができそうとは思えないのでこのふたりに護衛をさせてもらっているのだろうか。
「ところで、あそこにいる男の人は…?」
「ああ、あの人はさっき私が向かった場所で魔物に襲われていてね、そこを助けたあとどうやらこの人も私たちと同じ場所に向かっているらしいから一緒に連れて行くことにしたの」
まつげを寄せて竜のそばにいる俺のことを何者なのかと問いかけ、女剣士がこれまでの経緯を話した。
「ええっ!?そんなすぐに人を乗せちゃっていいんですか!?流石にそれはお人好しも過ぎますよっ!」
「リッタ、やると決めたリアーナに何を言っても無駄だよ。さっき私もそれを言ったけど結局止めなかったからね」
リッタもあの魔法使いと同じ事を言ったがそれは無駄だと当本人が伝えた。そりゃあ、誰だってそんなこと口にしますよ。
「あのーお客さん、そろそろ乗ってくださいませんかね。ずっと待ってたもんでうちの滑走竜がイライラしてますよ」
「あっすいません。それじゃあみんな、早く乗ろう。あと御者さん、もう一人新たに乗せますのでこれ追加で」
二匹の竜の手綱を携えている御者のおじさんはこちらを向いて彼女たちに早く乗るよう促した。それに女剣士はリッタと魔法使いに早く乗ろうと言い、その後御者に俺の分のお金を払ってくれた。
「それじゃあ、出発しますよ」
パシッと音を立てた御者は滑走竜を走らせ、竜車は動き出した。こんなに大きな乗り物なのに人が走るよりも速く、初めて乗った俺は小さい子どものように目を輝かせながら後ろ側から見れる元いた位置から遠ざかっていく景色を眺めていた。
「あなた、そんな子どもみたいにワクワクしながら乗ってるって竜車に乗るの初めてなの?」
なんだこいつと思ってそうに顔をしかめながら魔法使いは俺に竜車に乗るの初めてなのかと聞いてきた。
「はい、俺はこういうのがないところで生まれ育ったんで竜車にはどうしても興味がわくんです」
自分の故郷がわからない程度で質問に答え、魔法使いははえ~っと感心していた。竜車というのは外ではそんなにありふれたものなのだろうか。
「そういえば自己紹介を忘れてたね。私の名前はリアーナ、見ての通り剣士だよ。よろしくね」
「剣士ってただの剣士じゃないでしょ。あっちなみに私はレイアよ。リアーナのパーティーの一人で魔法使いをやってるわ」
「私はリッタですっ。最近リアーナさんたちのパーティに加わりました。本業は魔法使いですが今は杖を持ってなくてこれからカリーで作ってもらった自分用の杖を受け取りに今向かってたところなんです」
女剣士改めリアーナが自己紹介をした後、続くように残りの二人も自己紹介をした。
後は俺だけだ。自分の出自がばれない程度に答えよう。
「俺の名前についてはリアーナさんとレイアさんには伝えたかと思いますが申し訳ありませんが諸事情により答えることはできません。代わりに旅人と呼んでください。怪しいやつだとは思いますがカリーに着くまでの間よろしくお願いします。俺は冒険に憧れて村を飛び出してきました。いろいろと知識は鈍いものでよければ冒険についてなど教えてください」
「ええ、任せて」
「私たちと同じ冒険者を目指してるなら、教えないこともないわよ?」
「そうなんですかっ!実は私もまだまだわからないことだらけなんです。駆け出し仲間として共に頑張りましょう!」
リアーナとレイアは親切にいろんな冒険についての知識を教えてくれた。リッタも俺と同じ知識が鈍かったので共に聞いていた。うんうんと頷いていたが、あれは本当に理解していたのだろうか…?
っとこうして冒険者であるリアーナとレイアの話はいろいろと参考になるものが多く、時を忘れて話を聞くことに夢中になっていた。
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「……でね、カリーはいろんな地域からものが取り寄せられているからその分たくさんの料理があるのよ!」
「それはうまそうですね~」
「私、お腹がすいてきちゃいました。カリーについたらまずはご飯食べましょう」
最初は冒険についての話だったがなぜか気づいたらカリーの料理の話になっていた。レイアの話からから出てくる料理は想像するだけでよだれが出てきてお腹の音が鳴っていた。いや、このお腹の音はリッタのものであった。だが食べたいのは事実、着いたらそこの料理を頂こう。
「みなさん、カリーにつきましたよ」
と御者のおじさんが言った。竜車の後ろからのぞいてみると大きな石の壁に囲まれ、前に進んでいる先には巨大な開いた門があり、そのそばには兵士がふたりほどいた。
「これがカリーか……すっっっげえええっ!」
村では見ることのなかったこの迫力に俺は思わず唖然としていた。
こうして彼女たちに同行した俺は周りが平原に囲まれた町、カリーに到着した




