第40話 私たちの新しい織印
婚礼から三日後、北方織房の帳場に新しい印箱が届いた。
中には、銀梭工房の六枚花と北方の機杼を重ねた新織印が入っている。どちらかを消さず、どちらにも寄りかからない印だ。
「押してみな」
エルザに促され、私は最初の納品票へ印を置いた。
白い紙へ落ちたのは、見慣れないのに、最初からここにあったみたいな形だった。
帳場の奥では、工女たちが笑いながら冬至献上布の仕上げをしている。公開照合のあと、注文はむしろ増えた。仕事は増えたけれど、もう『誰のものか分からない織り』ではない。
「また勝手に新色を置いていったでしょう」
私は机の端の糸束を持ち上げた。薄い白銀へ、ごく淡い青が差している。
振り向くと、クラウスが戸口に立っている。
「今日は毎朝ではない」
「昨日も一昨日もありました」
「必要だった」
その返しに、私は笑うしかなかった。
「この色、何て呼びますか」
「お前が決めろ」
光へかざす。雪でも霧でもない。冬の朝、動き始める工房の空気みたいな色だ。
「織明け青」
「いい名だ」
私は新しい印箱を閉じ、納品票の束を抱えた。
母の工房を守ることも、北方織房を育てることも、夫になったこの人と並んで歩くことも、もうどれか一つへ縮めるつもりはない。
私は灰色へ戻らない。
自分の色で、自分の印で、自分の仕事を続けていく。
その隣で、無愛想な侯爵がまた次の糸を持ってくるのなら、たぶんこの先の朝も悪くない。




