表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/40

第26話 偽物の工房継承証

アデライーデの継承証は、午後の予備照合で初めて実物を見た。


 羊皮紙は上等だった。署名も丁寧で、王都衣装商組合の副署まで付いている。見た目だけなら、かなりよくできている。


「どうかしら。まだ偽物だと?」


 アデライーデが言う。


 私は継承証を光へ透かした。


「ええ」


 彼女の肩がわずかに揺れた。


「透かし紋が三年前のものです。この継承日は八年前。使われている紙が合いません」


 さらに署名欄の証人名を見て、私はペン先を止めた。


「立会人のゲルト判吏は、発行日の前年に亡くなっています」


 場が静まる。組合の下役が慌てて書類を覗き込んだ。


「そんなはずは……」


「あるいは、死者が継承証へ署名する組合なのかもしれませんね」


 私が言うと、アデライーデは扇を閉じた。


「私は渡された証書を持ってきただけですわ」


 その言い方は、責任を持つ者のものではなかった。どこかで誰かに『これを出せば勝てる』と教えられた人の声だ。


 私は書類を返す。


「なら、その渡した相手を連れてきてください。本番の照合会議では」


 アデライーデは笑みを作り直したが、目だけは笑っていなかった。


「ええ。もちろん」


 偽物の継承証より怖いのは、偽物と知っていて出してくる後ろ手だ。


 私は組合控室を出ながら、次の行へ書き足した。


『紙透かし不一致 立会人死亡時期矛盾』


 反論ではなく、記録。


 その積み重ねだけが、最後に一番強い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ