第26話 偽物の工房継承証
アデライーデの継承証は、午後の予備照合で初めて実物を見た。
羊皮紙は上等だった。署名も丁寧で、王都衣装商組合の副署まで付いている。見た目だけなら、かなりよくできている。
「どうかしら。まだ偽物だと?」
アデライーデが言う。
私は継承証を光へ透かした。
「ええ」
彼女の肩がわずかに揺れた。
「透かし紋が三年前のものです。この継承日は八年前。使われている紙が合いません」
さらに署名欄の証人名を見て、私はペン先を止めた。
「立会人のゲルト判吏は、発行日の前年に亡くなっています」
場が静まる。組合の下役が慌てて書類を覗き込んだ。
「そんなはずは……」
「あるいは、死者が継承証へ署名する組合なのかもしれませんね」
私が言うと、アデライーデは扇を閉じた。
「私は渡された証書を持ってきただけですわ」
その言い方は、責任を持つ者のものではなかった。どこかで誰かに『これを出せば勝てる』と教えられた人の声だ。
私は書類を返す。
「なら、その渡した相手を連れてきてください。本番の照合会議では」
アデライーデは笑みを作り直したが、目だけは笑っていなかった。
「ええ。もちろん」
偽物の継承証より怖いのは、偽物と知っていて出してくる後ろ手だ。
私は組合控室を出ながら、次の行へ書き足した。
『紙透かし不一致 立会人死亡時期矛盾』
反論ではなく、記録。
その積み重ねだけが、最後に一番強い。




