第21話 婚約披露会の布告
北方織房の朝は、糸束より先に封書が届く日がある。
その日、机へ置かれたのは二通だった。ひとつは侯爵家印の入った婚約披露会の布告。もうひとつは王都衣装商組合からの継承異議申立て。差出人は南方男爵令嬢アデライーデ・レンツ。亡き母の工房継承権は自分にある、と記されていた。
「ずいぶん揃っているでしょう」
私が封書を並べると、エルザが眉を吊り上げる。
「婚約を祝う前に、織房をひっくり返しに来たってことかい」
異議申立てには、北方織房が冬至献上用に織る予定だった《雪花外套》の制作差し止めまで含まれていた。さらに、婚約披露会で私が着る礼装へ母の工房意匠を使うことも禁じるとある。
私は文面の末尾に目を止めた。承認印は衣装商組合のものだが、蝋の縁にだけ王都祭礼局の赤金粉が混ざっている。組合だけで出した書類ではない。
「嫌がらせにしては、手間がかかりすぎていますね」
そこへクラウスが入ってきた。黒い手袋を外しながら、私の手元の異議申立書を一読する。
「止めるか」
「婚約披露会ですか。それとも継承争いですか」
「両方だ」
私は首を振った。
「止めたら、相手の思う通りです。婚約も仕事も、揃えて差し止めるつもりなのでしょう。なら、揃えて洗います」
クラウスは短く息を吐き、うなずいた。
「必要な人手は全部出す」
私は異議申立書を閉じた。母の工房名が書かれた行だけ、妙に新しい筆圧だった。
祝福の布告と、奪うための申立て。
同じ日に届いた時点で、これは偶然ではない。




