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「クラスメイトたちを分からせてやる」


 咲哉が外に帰還した日の夜―――


 「………………」


 私…牧瀬詩葉は自宅の部屋の勉強机椅子に座ったまま、最新モデルのタブレットで動画を見て過ごしていた。『配信探索者』と検索を打つと自分をはじめとした探索者の配信活動の動画がいくつもヒットする。

 自分の配信動画を見ることもあるにはあるが、基本ないようにしている。彼らの動画から学ぶこともあることから、時々こうして探索者配信を漁りもする。


 「…あ、この人迷惑系で有名になったっていう……」


 新着順に切り替えると、そのトップに吉原一輝のライブ動画が上がった。彼のことはいちおう知ってるし、面識も一度はあった。そしてその日のうちに共演NGを彼にたたきつけたことも覚えている。

 節度マナーを守らない配信者がある程度いるのは仕方ないと思ってはいるが、吉原のあの非礼さや身勝手さは度が過ぎていた。炎上を避ける為その場では穏やかに収めたが、あれ以来彼とは完全に距離を置いてるし、SNSなどからの連絡も無視している。


 「この人のせいで、霧雨先輩が世間知られ、一般人にも笑われるようになってしまったのよね………」


 吉原が霧雨さんの探索の様子を撮影し、笑いものに仕立て上げた感じの動画をネットにアップしたことも、未だに許せない気持ちだ。どうにかあの動画消してあげたいけど、私の権限でそんなことが出来るはずもなく………


 「――あ、思間違えて再生押しちゃった……」


 うっかり吉原のいちばん新しい動画を再生してしまった。開幕から彼のドアップされた顔が映し出され、思わず不快感を覚えたが、少ししてから動画の違和感に気付く。


 「あれ……?この人さっきから瞬きしてないっていうか、瞳に何も映ってない……?」

 

 理科の勉強をちゃんとやってれば分かること、人の瞳の中には何かしら映って見えるようになっている。しかし動画の吉原の瞳には、光がどこにも見られない。

 そもそも、吉原の顔全体が何だか不自然だ。顎下周りの皮膚がペラペラ遊んでるように見えるし、同箇所からは血が滴ってもいる。瞳は光が映ってないうえ、さっきから微動だにしない。


 極めつけにおかしいと感じたのは、吉原の声だった。


 「え――――?」


 「その声」を聴いた瞬間、既視感みたいなのが頭をよぎった。


 「この声……」


 ここしばらく会ってはないとはいえ、私が聞き違えるはずがない。彼の…「あの人」の声を――



 「霧雨、先輩―――?」








 翌日、僕は自分が通っている高校に来ていた。ちゃんと学校の制服を着て、学生鞄も携帯してきている。

 一週間くらい前(ダンジョンで十数年過ごしたから、体感としてはそれくらい久しぶりではあるが)に、僕は校長先生に退学宣告を突き付けられた。理由は本校での学業が規定通りに修められておらず、その見込みも見られないからとか何とか。

 退学が決まったってだけで、もうこの学校の生徒じゃなくなったわけじゃない。確か今学期が終わるまではまだ生徒として扱われるって話だったような。

 いずれにしろ僕はここでの高卒は認定されず、このままでは中卒という社会での肩書きがつくことになる。


 そもそも俺は未だに納得がいってない。勉強を疎かにしていたことは認めよう。だからと言って追試とかすっ飛ばして即退学はどう考えても理不尽だろう。

 僕の退学決定に強く賛同していたのは、学年主任だったよな。というかあいつが僕の退学を決定させたんじゃねーのか。勉強が出来ないのを理由にあんな理不尽に退学を進めやがって……!


 思い出すと怒りが湧いてくる……が、昨日の間野木たちや迷惑系配信者ほどの殺意は湧かない。いや、幻のダンジョンに入る前だったら昨日と同じくらい暴れたかもしれない。

 規格外の力を身につけてしまったお陰で、僕には様々な道が見えるようになったんだ。これまで目標にしていた…大学進学してしっかり勉強した末、ちゃんとしたところに就職する………。自殺を決意するまではこれが僕の人生なんだと思ってた。


 が、今は違う。力を手にしたことで、色々やれることが見えてきたんだ。僕はそれを虱潰しに挑戦して、いちばんしっくりくるものを選びたい。

 だから、進学とか就職とか、そんなものはもうどうでもよくなった!


 父さんと母さんは……僕には良い大学に入って、ちゃんとしたところに就職して欲しかったのかな。だとしたら申し訳ないな。

 でもあの二人ならきっと、そんな僕の背中を優しく押してくれる気がする!生前はいつも、自分が一生懸命になれることをやりなさいって言ってくれてたしな!


 そんなことをずーっと考え込んでいるうちに、3年の僕の教室に着いていた。引き戸を開けて中に入ると、生徒たちが僕を見て驚いたのだった。何だよこいつら、人を幽霊みたいに見てきて。

 ああでも、幻のダンジョンにいる間、外では一週間くらい時間が経ってたんだっけ。つまり僕は学校を一週間も無断欠席してたってことになる。

 クラスメイトたちの奇異な視線を受け流しながら、自分の席がどこだったかきょろきょろ見回していると、一番後ろの列のうちの一つの席に、花瓶が置かれてある机を見つけた。花瓶には黄色い花が挿されており、中の水はやや濁っている。


 そんな花瓶の机を眺めていると、周りからくすくすけらけらと小さな笑い声が耳に入ってくる。もう一度机に目を落として、「鑑定」を発動して花瓶を調べてみた。

 

 ――この花と花瓶をこの机に置いたのは、昨日俺がぶっ殺した間野木志朗だったようだ。机に花瓶を置く意味……安直で考えれば、死んだクラスメイトを弔う為。

 だが俺はこの通り生きている。生きている人間に対して、こんな事をするのは……決まってる。

 「虐め」以外の何ものでもない……!


 「あのクソ野郎ォ、死んでもなお僕を馬鹿にしやがるか…!決めた、今度はあいつの家族も皆殺しにしてやるか…!」

 

 怒りに震える手で花瓶を掴むと、近くにいた化粧が濃い顔の女子に低い声で尋ねる。


 「おい。間野木の席ってどこだっけ?」

 「は…?あんた霧雨よね?何その口の利き方。一般人よりも弱い探索者のあんたが何あたしに―――」

 「いいから答えろよ。顔面ぐちゃぐちゃにするぞゴラ。間野木の席がどこかって聞いてんだよ」

 「ひ……!?あ、あっちです………」


 苛立ちを露わに凄んでやると、化粧女子(確か城山って名前。このクラスのカースト上位だった気がする)は怯えた顔になり、大人しく間野木の机に指差した。僕の態度に周りは嘲笑から一変、戸惑いばかりになる。

 そんなことお構いなしに、間野木の机の前に立つと、僕は手にしていた花瓶をひっくり返して、机をびしょびしょに濡らしてやった!クラスメイトたちはさらにギョッとした反応となる。

 

 「勝手に人を死んだ扱いしてんじゃねーぞクソっタレが!死んだのはお前の方だろうが!なぁ!」


 花を机にぐりぐり押し付けた後、机の中に入っていた間野木の私物を机の上に出すと、それらもぐりぐり押し付けてやる。全部濁った水で汚れてしまいましたとさ!


 「おい!さっきから何してんだよ霧雨…っ」


 僕を咎める声のほうに振り向くと、ボリュームがあるがちゃんと整った髪型の長身男子が、睨みつけながら僕の前に立つ。彼の後ろにはさっき脅してやった城山が隠れるようについている。

 そういやこの岡って名前の男子と城山って付き合ってんだっけ?クラスのカースト上位同士のカップルてか……クソが、見せつけやがって…!


 「何って…見ての通り、弔ってやってんだよ。間野木志朗の死を、僕なりのやり方でさぁ」

 「は……?な、何言ってんだよお前。間野木が死んだとか、デタラメ言ってんじゃねーよ」


 岡が何言ってんだこいつって目で、僕の言葉を冗談と見なす。これを皮切りに周りからも次々僕に対する野次が飛んで、詰ってきた。

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