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第3話

 



「へぇ、ティオはアルディオンから来たんだ」


 そんな遠いところから来たんだと帰るのも大変だね、と苦笑するカインにティオは「......あぁ、そうだな」と曖昧に頷いた。

 アリシアから目を覚ましたと聞き様子を見に来たカインと自己紹介をしたティオは運んでくれたお礼を言うとカインは、大したことではないと言い調子が良さそうで良かったと笑う。

 そして気になっていた腹部の傷のことを聞くと一瞬眉間に皺を寄せていたが、すぐに自分が運んだ時にはなかったと応えるカインにティオはただ「そうか……」と頷いただけだった。


 ティオは敬称も敬語も必要ないとカインに伝えカインはそれに甘え自分も好きに呼んでくれと応える。

 そして、ティオが七大国の1つに数えられている、ここから遥か北にあるアルディオンから来たことを聞くとカインは上記の言葉を発したのだ。



「まぁ、それなら尚更体調を万全にしないと!帰る途中で怪我したり病気になるかもしれないからさ」


 だから、この際ゆっくりと休んでいきなよという言葉にティオは有り難く思うがそれでもやはり一人暮らしの女性の家に自分のような男が泊まるのはどうなのかと彼等の無警戒な様子に困惑する。


「……君達は少し人を疑うこと覚えた方が良いと思うぞ」


 その言葉にカインは一瞬きょとんとするがすぐに笑い声を上げる。


「あはは、心配してくれてありがとう。でもティオは大丈夫だと思うから」


「どうして大丈夫だと?」


 合ったばかりなのに、そう信じている様子にティオは首を傾げる。


「んー、何て言うか……。アーシャは昔から人を見る目があるんだよ。だから、アーシャに休んでいけって言われたってことは、ティオは大丈夫だとアーシャが思ったんだと思う。だから俺もそれを信じる」


 あっ、でもアリーシャだけの判断じゃなくて俺もこうして話してみて大丈夫だと思ったからここで休んでいけって言っんだからね。

 そう言ってウィンクしたカインにティオはポカンとし数拍して、クククと小さな笑い声を漏らした。


「そうか、それは頼もしいな」


「でも、もしアーシャに無理矢理手を出そうとしたら……」


「わかっている」


 目を細めカインを見つめるティオは、彼に挑めば剣を少しかじった程度の者は負けるだろうと推測する。

 まだ、荒削りだが強い者が持つ特有の空気をティオは感じていた。


「カイン、よければ君の家名を聞きたい」


 その言葉にカインはティオをじっと見つめゆっくりと口を開く。


「グラーティス。俺の名前はカイン・グラーティス」


「グラーティス……。そうか、君はあのナイルの息子か」


 そうか、道理で……。

 そう一人で納得するティオに、父を知っているのかと問いかける。


「あぁ、今でもナイル・グラーティスの名は有名だ。小さな国の平民出身ながら大国の騎士団長に並ぶ強さを持っていた彼に憧れるものも少なくない。

 確か彼の跡を追うように騎士になった子供がいると聞いたことがあるが……」


「あぁ、兄二人が父のようになろうと騎士として日々励んでるんだ」


「……カインは騎士を目指さないのか?」


「それは……」



 ティオの言葉にカインの顔が曇る。


「……俺は土をいじる方が向いているんだ」


 だから、騎士なんて……と笑って応える。

 だが、その顔は無理に笑っているように見えた。


「カイン。君は……」


 続けようとした言葉はドアをノックする音で途絶える。



「カイン?今入っても大丈夫?」


 あ、大丈夫だよ!とカインが慌てて返事をすると、ガチャリと開いたドアは開き隙間からは数枚の洋服を持ったアリシアが顔を覗かせる。


「ティオさんの洋服を貰ってきたんだけど……」


「俺の服だと背が足りないもんな」


「でも、まだ成長中なんでしょ?羨ましいわ」


 苦笑するカインにアリシアは、そう言って少し口を尖らせ拗ねた様子を見せる。


「はは、女の子は小さい方が可愛いっていうじゃないか」


 カインは椅子から立ちあがりアリシアの下に移動する。


「少し素振りをしてくるから、ご飯は後で食べるから」


「わかったわ、先に食べておくね」


「あぁ、じゃあ頼んだ」


 そう言ってすれ違うように外に出ていった。



「カインはいつも素振りを?」


 先程まで黙っていたティオが近付いてきたアリシアに尋ねる。


「えぇ、小さな頃から朝早くから走り込みを、夜には素振りをしています」


「そうか……」


 すると何かを思案するように口元に手を添える。

 すると、そういえばと思い出しだように敬称も敬語も必要ないとアリシアにも伝える。

 アリシアは、その言葉に甘えることにした。



「あっ、そうそう。これが替えの服ね」


 いつまでも血がついたままだと嫌でしょ?と貰ってきた服をティオ差し出す。


「なるべく背が高い人の服を貰ってきたけど……」


「ありがとうアリシア。助かるよ」


 服を受け取り礼を告げる。



「じゃあ、服を着替えている間に食事の支度をしてくるから」


 脱いだ服はここに置いておいてね、と枕元の棚をポンポんと軽く叩くと部屋を出ていった。



 何故か呼び止めたくなる衝動を抑え、ティオはアリシアを見送り、暫くして持ってきてくれた服に着替えることにした。



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