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迷子探しと深まる謎

「……ねぇライ」


「あい?」


 意外と広い西地区を駆け抜けながら、前で鎧を着ているとは思えない速さで走るライに声をかける。てか速い。俊足とかそういうレベルじゃない。


「…今勢いで走ってるけどさ、まさか馬鹿正直にそこまで走って行く訳じゃないよね?」


「………そうだ、馬だ。馬を借りよう」


【今考えただろ】


 ちなみにディバルフは私のリュックの中に入っている。さすがに人混みを走っていたらはぐれるだろうと判断し、入ってもらったのだ。


 そんなこんな喋っている内に、西門まで来た。

 門の前には、馬を1匹連れた旅人らしき人が、門番と楽しそうに喋っているのが見える。ちょうどいいのかどうかは分からないが、ライはあの人を説得するらしかった。


「…あれ借りるの?」


「おう、任せとけ」


 ライはそう言うと、自分の腰に装着した麻袋に手を突っ込みながらその旅人に声をかける。


「おーい、おっさん!その馬貸してくれーっ!」


 スーパーど直球である。

 もう少し、オブラートに包んだ方が交渉的に良いだろうにとか思いつつ、でも混乱して話が長引くのも嫌なので、静かにそれを眺める。


「はぁ?貸す訳がないだろう。そもそも君達のような若い子が外に出たら……」


「いいから!子供の命が懸かってんだよ!ほら、これやるから、頼む!」


 怪訝に説教モードに入りそうになった旅人のおじさんを遮り、ライが麻袋に突っ込んでいた手を差し出した。その中では、6枚程のクロー金貨がキラリと光る。

 うわぉ、お金持ち。あの麻袋に合計幾ら入ってんだか。と言うか勢いが良い。いきなり見知らぬ人に金貨を6枚出すとか、普通ありえん。

 おじさんも、いきなり出した大金に戸惑っているようだ。反論したそうに口を開くが、金貨の輝きを見てそれを閉じての繰り返しだ。ライが痺れをきらしたように更に付け加える。


「おっさん、馬もちゃんと返すから!ほらこれも加える!」


 そして再び袋に手を突っ込み出すのは銀貨3枚、つまり3000クロー。

 あぁ、さらば金貨に銀貨よ。さすがに出しすぎとも思うが、この旅人にすぐ馬を貸してもらうにはそれぐらい出さないといけなさそうだったので致し方ない出費だ。と言うか、そもそもライのお金だから、使い方に口を挟む訳にもいかない。

 おじさんは、ついに9枚の素晴らしい輝きに耐えきれなくなったらしく、諦めたように手を伸ばしながら、言う。


「あ、あぁ分かった!貸す、貸すよ。ただ、ちゃんと返してくれよ?」


「おう!…うら、ラミア。行くぞ」


 わぉ、頼もしいもんだ。金にものを言わせて馬を借りるとはね。羨ましいと言うか、妬ましいと言うか、頼もしいと言うか。




 何かまぁそんな感じで特に時間をかけることなく馬を借り、山へと出発したのだった。うん、お金があるって素晴らしいことだね。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 で、お山の前に到着した。

 経ったのは5分くらいである。さすがは馬だ。歩くのとはやっぱ違って速い。おかげで道中、魔物も無視してさくさく進めたので、出費のかいはあっただろう。

 …まぁ欲を言えば、正直馬は2頭いた方が嬉しかった。異性と一緒に一頭の馬に乗るのは、精神的にもう勘弁願いたい。多分これが急ぎでなかったら、思考的に色々やばかった。


「んで、どうすんだ?」


 俺はせめてでも表面上は平静を装えていることを願いつつ、馬をその辺の木に繋ぎ、ラミアに問いかける。

 しかしラミアは、俺の問いに直接答えることなく、暗くなった空に手のひらを向けて言葉を発した。


「『全てを見下ろすホークアイ』」


 その言葉を唱えると同時、掲げた手に淡い光が集まり、更にはラミアの黒の瞳が妖しく光った。まるで、鷹のそれのように。薄い雲を通した月の光と、ラミアが生んだ小さな光の玉しか光源が無い闇の中、暗く広がる空を見上げる妖艶なその姿に再び思考が駄目な方に逸れかけ、慌てて頭を振る。

 そしてそれをごまかすように俺は、未だ『in the リュック』なディバルフに問いかけた。


「…ディバルフさん、この魔法はなんすか?」


 本当は本人の口から聞きたいが、魔法に集中しているようだし、それを邪魔してはいけない。ので、彼女のリュックに入る折り紙に声をかけたのだ。


【おう?…あぁ、この魔法は高い空からの視点が得られるんだってよ。一応魔力が続く限り効果はあるらしいが、視点が2つあると色々と面倒だろ?だからこういうことにしか使えねぇんだと】


 なるほど。

 だから今ラミアが目を閉じているのか。確かに、2つの視点というのは色々不便だろう。戦闘で使うとしても、どっちがどっちの視点なのか分からなくなると上手く動けなくなる。それでは本末転倒と言うか意味が無いと言うか。

 しかし、やはり魔法は羨ましい。そんな不利な点を含めても、利点の方が大きいのは確かだろう。今のような探索でだとか、そんな感じで。無いよりは有る方が断然良い。


「どうだ、見付かりそうか?」


「んー…暗くてあんま見えない。…けど……」


「けど?」


「何か怪しいポイントが…」


 彼女が言うには、その辺りだけ異様に魔力が集中しているらしい。


 少し話が逸れるが、実は魔力というものは、人によっては眼で捉えることができる。上手く言葉では説明出来ないが、白い線のようなものがモノに纏わり付いているのが少しだけ『視える』のだ。実際にはそういう線は存在していないのだが、見える人には視えているのだという。

 ちなみに、俺もその視えている人の一人だ。昔俺にそういう知識を教えてくれた先生によると、魔法使いの素質はゼロなのに視えるというのは極稀らしい。正直言ってそんな稀少価値いらない。先生、魔法が使いたいです。


 話が逸れすぎた。で、話を戻すと、魔力というものは色々なモノに宿っている。人や物、自然の木々や、そこら辺に落ちている石に宿っていることすらある。それは薬草とて然りだ。と言うか、あんな魔法的植物に宿らない方がおかしいだろう。

 そんな訳で、俺やラミアにはこの山が全体的にうっすらと白く線がかかって見えるのだ。


 そしてラミアが言うには、それが密集している所があると。俺達の視覚的言えば白いもじゃもじゃが集まっているのだろう。古い糸で布を縫った時によくある、あのうざったい絡まった糸を想像していただけると分かりやすいか。あんな感じだ。

 恐らく、そこは薬草の群生ポイントなのだろう。



「そこへ行ってみっか?」


「他に当てもないしね。そうしよっか」



 再び互いに頷き、走り出す。昼とはまた違った顔を見せる山へと、入っていく。

 まぁ正直、この時間になっても生きているという希望はさすがに持てないし、生きているとしたら誰かに保護されているだろうから、わざわざ急がなくても良いとは思う。だけど、スーラさんが心配している訳だから、どんな結果にせよ早く伝えないといけないのだ。急いで損は無い。



 森の中は茂る葉が空を覆い尽くしていたので月光は地に届かず、足元を照らすのは宙に浮いた魔法の光だけ。そのせいで何度か木の根につまずいた。樹木は両手を大きく広げて、森の雰囲気に加えて恐怖感を煽る。ぶっちゃけ怖い。カイ君度胸がありすぎだと思う。辺りに響くのは、風が揺らした草や葉の擦れる音と俺達が大地を踏み締める音、…そして生き物の押し殺した息の音だ。静かに、真夜中の侵入者を隠れて観察しているようだった。

 しかしそれをわざわざ言葉に出すこともなく、黙々とただ走り。会話も無く景色は後ろへ去っていく。



「もうそろそろだと思う」


 そうして走ること少し。空が完璧な夜の闇に包まれた時、ラミアがそう呟いた。暫く無心で走っていたので一瞬何の意味か分からなかったが、すぐに理解した。もうすぐ、魔力が密集していた地帯に着くのだろう。

 それを理解すると同時、木々の青々とした腕の間から僅かに月の光が漏れてきた。淡くも決して弱くはない光が、草木の繁る森に降り注ぐ。



 確か、今日は満月だったか、とぼんやり頭で考え。



 俺は、その月光に感謝した。


「あ…」



 俺達の3m程手前。森が開け、そこは広場のような所になっていた。そこだけ不自然に木が生えておらず、人工的に作られたもののようにも感じる。が、それは大量に生えた薬草が否定していた。ただ一言に大量というのは簡単だが、その量は明らかに異常である。何せ、その広場全体の地面という地面に隙間なく薬草の緑が広がっているのだ。俺達がキュアリーフ20枚の納品依頼に最低でも1時間はかかっていると言えば、この光景の異常さが分かってもらえるだろうか。

 そして、そんな天然の薬草の宝庫の真ん中には。



「あれって、カイ君かね…?」


 小さな子供が、しゃがんでいた。しゃがんでいて身長は分からないが、こちらに向けた背の大きさは確かに子供のそれだ。ちゃんと、動いている。生きている。

 しかしその周りに人の影は見当たらず、ただカイ君一人だけであった。


 ラミアと視線を交わし、俺は頷く。するとラミアがカイ君らしき子供に声をかけた。


「えーと…カイ君?」


「うわ!?だ、だれっ!?」


 びくりと影が飛び上がり、こちらを向く。右手にはたくさんの薬草が、左手には可愛げのある子供用の包丁のようなものがしっかりと握られていた。一応、本人にとっては護身のつもりなのだろう。実用としては、あまりにもお粗末なのだが。

 ちゃんと反応を返してくれたと言うことは、カイ君本人なのは間違いない。良かった。もしかしたら別人でした、だったら割とマジで冗談にならない。


「お姉さんたち、だれ!?」


「あー…えっと、君のお母さんは、スーラさんだよね。私達はそのスーラさんに頼まれて、君を迎えに来たんだけど…」


 ラミアがそこまで言うと、カイ君は剥き出しだった警戒心を引っ込め、こちらに向けていた玩具(ほうちょう)を下ろしてしゅんとなった。一応それなりの事をしたと言う自覚はあるのだろう。


「…一人で歩いてここまで来たの?」


「うん…」


 頭を垂れながら、沈んだように頷くカイ君。

 まぁ周りに人がいなかったから、その辺は予想していたけど、自分の身を護る術も、山道での歩き方も満足に知らない子供がよくここまでたどり着けたものだ。


「途中の魔物とかはどうやってやり過ごしたんだ?」


「ここに来るまで魔物とはあわなかったよ」


「は?」


 …いやいやいや。街道はともかく、この山を歩いていて魔物に遭わなかった?そんなことがありうるのだろうか。普通、魔物にとってこういう視界の通りにくいところは絶好の隠れ場所であり、そこを通る小さな子供など餌でしかないはずなのだ。ここを住処にしている魔物がそんな迷子を見付けられなかったとは、これ如何に。

 本当に遭わなかったのだろうか?…いや、でも遭ったとしたら確実に死んでいるだろうし……



「と言うか、よくこんなに薬草が生えているポイントを見つけたね」


 確かにそれもそうだ。この山は結構広く、当然整備された道も無い。その中で魔物の襲撃を避けつつこんな薬草の群生ゾーンに来れるなんて幸運なんてレベルでは無い。実際、俺達は最近ずっとここに来て薬草の採取がてら探索もしていたが、こんな儲かりそうな場所を発見したのは、たった今だ。


「えーっとね、それはね、森に入ってから、あの青くて丸いのを追い掛けてたらここに来たんだ」


 きょろきょろと辺りを見回したカイ君が指した先にあったのは、近くに浮いていた不思議な物体。一言で言えば、それは半透明な瑠璃色の球体だった。まるで生きているかのように絶えずその色の濃淡を変え、美しく瞬いている。その瞬きはどこか芸術的で、今は雲に隠れて見えない宇宙に浮かぶ星のようだ。

 そして、360度どこから見ても魔法的物体なそれは、ここに来て初めて見た『あの武器』に似ていた。


「…これ、“衛星”だよね」


 そう、王が使っていた衛星である。色や形はともかく、大きさや状態はあの衛星とそっくりだ。

 …ん?何かがおかしい。魔法を使うには必ず詠唱者は必要だし、そもそも衛星という武器はその詠唱者の近くを飛ぶものだったはずだ。それなら、それならこの近くに詠唱者はいなければならないはずである。


 それはつまり―――


「おい、ディバルフ」


【分かってるって。…ここから7時の方向に誰かがいる。動いてはないから、実害は無いと思うが…】


 ―――誰かが、近くにいると言うこと。


 恐らく、その7時の方向に居る人こそがカイをここまで導き、そして魔物を追い払っているのだろう。何のためにとかそういうのを全部無視して考えると、答えはそれしかない。が、その人物がカイ君の目の前に現れたくないと思っているのは確実だ。そうでもなければ、わざわざ魔力の消費が激しいとか言う衛星を出したりはしないだろう。加えて、ディバルフの言うとおり、カイ君に害意がないのも確か。そういうことをする時間は今までにたくさんあったはずだからだ。


 そこまで考えてから、同じくディバルフの声を聞いていたであろうラミアに声をかける。もちろん、カイ君には聞こえないように小さな声で、だ。



「どうする?呼んでみるか?」


「んにゃ。あっちが会いたくないんならいいんじゃないかな。それにスーラさんに早く報告せんなんでしょ?」


「それもそうだな。…おっし、んじゃカイとやら。帰るぞ」


「え?あ、うん…」


 恐らく帰った後に待つ、(せっきょう)に恐怖しているのだろう。カイ君の返事はあまりよろしくない。それでも、ちゃんと包丁をしまってこちらについてきてくれたので何も言わなかったが。




 …そんな感じで俺達は運良くカイ君を回収し、帰路についたのだった。

☆ 補足説明のようなもの ☆


 クロー金貨1枚 = クロー銀貨5枚

 クロー銀貨1枚 = クロー銅貨10枚

 そして銅貨1枚は100クロー。銅貨以下のクローはチップを使う(こんな設定多分使わない)。


 ちなみに、1クローは1.5円を想定しているので、ここで旅人のおっさんに渡した金額は33000クロー…つまりは49500円な訳です。そりゃ、いきなりこんな大金渡されたら目が眩みますよね。

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