5話前編"魔導士の街リベンジ"
第一章
5話前編""
時は今に戻り。ティーリアの授業から解放されたベネットはクロウから午後の予定を空けておけと言われたことを思い出して自室で準備をしていた。
———コンコンコン
「ベネット、準備できてるか?」
「はい!」
前のように突然扉を開けることもなく、少年が開けるまで待っていたカラスは、安定のキャスケットを被って出てきた少年の姿を見ると「よし」と呟いて玄関のほうに足を向ける。
後ろからヒョコヒョコとついていくベネットは外に出かけること自体が久々だったので、少し休息ができると浮き足立っていた。
「クロウ、これからどこに行くの?」
「ん?こわ〜い爺さんのところだな」
さっきまでの様子と一転、すっかり表情が固まった少年。
クロウは青ざめた少年の顔を見て悪戯が成功したとわかるとケタケタ笑い出し、揶揄われたと気づいた少年は「もう!」と拳を上げると前を謝りながら華麗に逃げるカラスを追いかけて外に出た。
「はぁっ…はぁ…クロウのいじわる!!」
「ははっ…騙される方が悪りぃな!……まぁでも、嫌味ったらしいジジィだから嘘ではねぇかもな」
膝に手をつき息を切らす少年にクロウは「あんまはしゃいで体力消耗するなよ」とだけ伝え門の鍵を嘴で器用に開けていく。
ちょうど門が開き切る頃、少年が息を整えたのを確認すると、彼はその小さな肩に止まり二人は並んで家から街中に続く小道を歩き始めた。
初めて出た時はよくわからなかったが改めて見ると周りの木々は道を作るように木々を揺らしていて、ベネットは所々に目印になりそうなランタンが吊るされていることに気づいた。
「ランタンに何か書いてある?」
ちょうど目線の高さにあったランタンをよく見るとそこには六芒星のようなマークが彫られており、少し先のランタンに目を凝らして見ると、そこにはまた別のマークが彫られていた。
「お前よくそういうところに気づくな…で、古代語をやっているベネットならこれが何かわかるんじゃねぇか?」
「う〜ん………あ!魔導士属性のマーク!!」
前の授業で、ティアに教えてもらったことがまさかこんな身近にあるなんて思っていなかったベネットは聞かなくても理解ができるようになったことが嬉しかったのか満面の笑みで答える。
「そうだ。つまりこのマークがあるランタンを辿ればそいつらの固まる集落に落ちあうってわけだ」
「でも、前にティアに聞いた時は街にはいろんな属性の魔導士がごちゃ混ぜで住んでるって…」
そう、この属性のマークについて聞いた時、彼女は確かに街にはいろんな魔導士がいるから今はあまり意味をなさないと聞いていた。
それに、属性と言っても今となっては複数属性を操れる者が多く現れているため、明確に分類することはないとも言っていたのも思い出した。
「お前、この一週間ちょいで随分ここのルールになれたな…」
感心したようにベネットの頭を羽でサラリと撫でたクロウは「時間ないから続きは歩きながら説明してやる」と止まっていた歩みを進めるように促し、2人はまた目的地に向かって進んでいく。
「属性は大きく分けると古代、現代、黒魔術の3つに全て分かれるようになっているのはわかるな?。なら、古代魔術にはどんなものが入るか覚えているか?」
「えっと…火と水…土、光?」
「そうだな、他にも音、風などがある」
「なら現代は?」と質問を続けるカラスに少年は必死に習ったことを思い出していく。
現代魔術はほとんどが古代派から派生したもので、「古めかしい魔法だ」と否定した若者を中心に作られた物で、珍しいのはこの三つだと教わったベネットは頭の中のティアの言葉を復唱するように言葉に出した。
「聖霊、星…付与魔法?」
「おしいな、正しくは幻想魔法だ。要するに目に見えないものを付与するという考えからきている。現代魔法については今もなお増え続けているが、基本古代語の応用に近い…だから全く結びついていない現代魔術といえばベネットのあげた三つになるな」
ようやく小道を抜けて街に出たあたりでクロウは一度少年を静止し、持っていた荷物の中から小さめのローブを取り出した。
そして、少年に放り投げ「フードまでしっかり被れよ」と伝えると地面に置いた荷物を戻しはじめた。
ベネットはコクリと小さく頷き受け取るとさっと羽織り、フードを深く被って顔が見えないように手で押さえると、先を進みはじめたクロウを早足で追いかけた。
「———と、ベネット!」
「———へっ!」
以前街に繰り出したときのあの視線が軽くトラウマになっていたベネットは、あまりにもいろんなものをシャットアウトしていたみたいで、クロウに嘴で突かれてようやく呼ばれていることに気づき弾かれるように顔を上げる。
すると、あの時のようないやらしい視線はどこにもなく少年の目はテーマパークのような世界観の街並みに釘付けになった。
「…ここが、魔導士の街」
「どうだ、気に入ったか?」
クロウはサベルにもらった鈴の効果を疑っていたわけではないが、心配していた部分がありローブにも簡易的な姿隠しの魔法を付与していたが、取り越し苦労だったらしくすれ違う魔導士たちの様子を見て胸を撫で下ろす。
そして、目の前に広がる光景に驚いた顔で釘付けになる少年を見てどこか嬉しいような、誇らしいような気持ちになった。
「———っはい!夢みたいです!」
ワクワクしたベネットはもう人目など気にならないのかフードが外れていることにも気づかず目を輝かせながら街を見渡しては「クロウ!クロウ!」と呼んではしゃいでいた。
尖った三角錐の屋根や、丸みを帯びた不思議な形の屋根…。
どれもこれも人間の世界にはないような建物ばかりで、街ゆく魔導士たちの服装や姿も真新しいものが多かった。
少年はふと、自分の服装を見て、この中では浮いているのではないかと思うと咄嗟にフードを被り直した。
「みんなおしゃれな服ばかりで…僕変かな」
そういってクロウを見上げるが、当の本人は「そうか?」と本気でよくわかっていなさそうな顔をするので少年は幼いながらに頼りないと感じはぁ…とため息をついた。
「クロウさんは特に気にしないですもんね…カラスの姿だけど裸だし」
「ばっ、この羽が服の代わりだ!変なこと言うんじゃねぇ!」
クロウは変に焦ったように声を裏返し辺りを確認する。
案の定、耳のいい何人かの魔女たちがこちらを見てクスクスと笑っているのが見え、クロウはカァァっと顔を赤くすると少年の頭をこづいた。
少年は珍しく焦り散らかすカラスに笑いを堪えきれなかったのかプッと噴き出すとそのままお腹を抱えて笑い出す。
「……あははっクロウ今すごい顔真っ赤!」
「「レイブン服はちゃんと着なさいよ〜/裸はダメよ!」」
すると、先ほど笑っていた魔女たちが少年に乗っかるようにクロウをからかいはじめ、彼らの周りは次第に賑やかになっていった。
ベネットは、やっとここの魔導士たちの雰囲気に触れられたような気がして、なんとなく前よりも息がしやすくなった感覚になり、大きく深呼吸をして彼らと共に笑い合った。
「きみ、名前は?」
賑わいも落ち着いてきた頃、突然一人の魔導士が少年の前で屈んだ。
少年はビクッとして一瞬緊張が走ったが、彼女が普通に好奇心で名前を聞いてくれたことがわかると胸を撫で下ろしその目を合わせた。
「ベネット・ヘンダーソンです」
「あらまぁ、あの裏切り者の子孫??」
彼女はベネットの名前を聞くなり怪訝そうな顔になり、鋭く睨んだ。
次の瞬間、彼女が目の前に手を伸ばしてきたので少年は咄嗟にキュッと目を瞑った。
瞼越しにもわかる眩い光。
少年はどんな痛い目に遭うのかと怯えて体を硬くした時、バサバサッと何かが羽ばたく音がして眩しかった光は一気に暗くなった。
「マーガレット…頼むから今はそういうのはやめてくれねぇか?」
恐る恐る目を開けると、マーガレットと呼ばれた女が自身と少年の間に割り込んできたカラスをじっと見つめていた。
そして、何も言わずにパッと手を下げると先ほどとは打って変わって明るい顔をし高らかに笑った。
「いひひっ…冗談よ!大体この街の中にアルベルトさんのことを嫌っている人たちなんていないわよ」
「え?」
あまりの豹変っぷりにベネットは腑抜けた顔になり、彼女はそれを見て「いひひひっ」と幼い子供のように可愛らしい笑いを見せる。
クロウに至っては本気で焦ったのか彼女に「おふざけが過ぎねぇか?」と文句を垂れていたがその顔には安堵の表情が浮かんでいた。
「アルベルトさんのことを嫌いなのは純血古代派と黒魔術の奴ら、特に重鎮はひどいよね…ベネットって言ったっけ?気をつけなよ、子孫なんて彼らにとって目の上のたんこぶだからね…」
「純血古代派…黒魔術…」
ベネットは以前イザベラに聞いた純血古代派という言葉を思い出した。
今もなお、魔導士界のトップを張るエリートたち。彼女はそんな表現をしたが、その後すぐに”何よりも自分達の立場を安定させたがるお堅い頭の集団”だと言い換えていたので街の人から煙たがられている存在なのかなと勝手に思っていた。
「———ま、子孫に改革なんて起こされたらたまったもんじゃねぇよな」
「お堅すぎて、量産されたホムンクルス集団みたいよね」
マーガレットは「考えるだけで肩が凝るわ」と自身の肩を軽く叩いてため息をつくと、そのまま近くの樽に腰掛けた。
「で、ベネットだっけ?あたしはマーガレット!この街じゃなの知れた精霊使いよ」
彼女はにっこりと微笑むと手を差し出し、手をゆっくりと握り返してくれた少年に「メグって呼んでね」と付け加える。
すると、その様子を見ていたカラスが彼らのほのぼのした雰囲気が面白くなかったのか嫌味ったらしく突っかかってきた。
「名の知れた?…はっまぁある意味有名か」
「あ?焼き鳥にしてやりましょうか??」
マーガレットは青筋を立てるとカラスに向かって容赦無く炎の玉を投げつけた。
———ヒュン
炎の球はちょうど彼の頭上スレスレを通過し、少し焦げついた羽根がぴょんぴょんとはねる。
クロウは目をパチクリさせ固まると、すぐにすごい形相で彼女に詰め寄った。
「マーガレットてめぇ!!!殺す気か!?」
「ふん、言ったでしょ、焼き鳥にしてあげましょうか?って」
そう言いニッと口角を上げた彼女は再度手に炎を出現させると「次は全身に行くわよ」と脅しをかける。
ゾゾゾゾゾッと綺麗なグラデーションを描き羽を逆立てたクロウは身の危険を感じたのかバサリと飛び退くと少年の頭に着地した。
「ベネット走れ!あいつはバケモンだ!!」
クロウの叫び声があまりにも幼稚で呆れたベネットは”自業自得だ”と思いながらマーガレットを見ると、幼い少年を盾にして逃げようとするカラスに顔が引き攣りドン引きをしていた。
やがて、ふうっと息を吹いて炎を消すとずいッと彼らに詰め寄ってきた。
「こんな幼い子を盾にするなんてクロウちゃんサイテー」
「ウルセェ!お前が燃やそうとなんかするから!!!」
そのまま、言い合いに火がついたマーガレットとクロウは少年を挟みしばらくやいのやいのと言い合いを始めてしまった。
ベネットはどうしたものかとがっくし項垂れて終わるのを待っていたが、むしろヒートアップをして今にも戦い始めそうな彼らに不味いと思い始めようやく止めに入った。
「あの!!」
「だからメグ!お前がっ…」
ベネットの大声にさっきまでの騒がしさはなくなりぴたりと動きを止めた二人はお互いと少年を交互に見ると、何か思うところがあったのか恥ずかしそうに取っ組み合っていた手を下げて姿勢良く立ち始めた。
「ん゛ん゛っ…ごめんねぇベネット。ちょっとこのバカガラスの頭が悪くって」
「あ—、あーすまねぇなベネット、イカれ精霊使いの箍が外れちまったみたいでな」
ようやく場が落ち着いてきたのにまた喧嘩を始めようとする彼らにベネットは今度こそ盛大なため息をつくと、やっと静かになった。
「クロウ!時間がないっていってましたよね!!」
そう言って樽に捕まっていたカラスに詰め寄る少年はどこからどう見ても飼い鳥の粗相を叱っている飼い主そのもので、周囲の魔導士たちは物珍しそうに彼らを凝視する。
隣にいたマーガレットはカラスに説教をする少年を見て自分の大人げのなさに肩身が狭くなり自然と肩を縮こめて空気になりたいと願うようになり、やがて耐えきれなくなったのか目をキョロキョロと彷徨わせ冷や汗をかき始めた。
「だからティアにクロウは……」
「あ!!あ、あたし…ヤルコトガアッタンダッター…ワスレテタナァ〜…それじゃあ2人とも!また会おうねー!!」
そして、そのままバレバレな嘘を早口で言い終えるとカチコチと音がしそうなまますごい速さで消えてしまった。
ベネットは返事を返す間もなく消えていった彼女の後ろ姿を目で追ったが、残されていたのは軽い砂埃と風に舞った葉っぱのみだった。
「な、なんだったんでしょう…」
「大方、幼い少年に怒られる大人の図に情けなくなったんだろうな…」
目をぱちくりさせるベネットの肩にクロウが何食わぬ顔をして肩に乗ってきたので、ジト目で肩を見やる。
それに気づいたカラスは気まずそうに咳払いをし、ヒューヒューとヘッタクソな口笛を吹き始めると「思わぬところで時間食ったな…早く行くぞ」と逃げるようにさっさと飛んでいってしまった。
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朱雀るいん




