第22話 全てはチカが悪いんだ!
教室に着くと翔は生徒手帳の落とし主である朔夜を探す。和也は他の生徒に呼ばれてしまった為、翔1人で探さなければいけなくなった。和也なら顔もわかってるのになと思いながら、翔はクラスを見回す。
ぶつかった時に顔はそんなに見えなかった。眼鏡をかけていた事と、髪が長かった事しか覚えていない。しかしクラス内にその2つの特徴を持った人間はいない。
走って向かってたけどまだ教室に来てないのか? と疑問に思いながらも教室に入ってくる生徒を席に座りながら眺める。
しばらくすると長い黒髪の眼鏡をかけた少女がちょうど教室に入ってくる。翔はガタッと席を立つと彼女の元に向かった。
翔が近づくとあからさまに嫌そうな顔を一度するがすぐに取り繕った。
「あの、ふちか。これ落としたよな」
「……はい?」
ふちかと名前を呼ぶと不思議そうに朔夜は首を傾げる。翔は生徒手帳を広げながら名前を見せる。
すると彼女は自分のものだと認識したようで、生徒手帳を受け取った。
「拾ってくれたのはありがとうございます。……でも私の名前はふちかではなく、不知火です」
朔夜はそう言い捨てるとそのまま翔をチラッと見て自分の席に向かう。その声からは感情というものが欠落した冷たさを感じる。怒りと共にどこか最近聞いたような親近感を覚えた。
「ーーっ、なんだあいつは!?」
お礼は義務で言いましたというような冷酷な言い方に翔は腹が立った。人の親切を仇で返しやがって! 名前を間違えた俺も確かに悪いけどと怒り狂う。
「いや、人の名前間違えるお前が悪い」
用事が終わったのか和也が翔のそばまで来て呆れたように言う。その様子から、朔夜とのやり取りを見てたのがわかった。
「だって、あれはふちかとも読めるだろ!?」
「……普通はしらぬいって読むからな?」
「とりあえず、あの態度は腹が立った! あいつはチカで十分だ!!」
「自分の間違いにキレてクラスメイトに変なあだ名をつけるなよ」
怒りながら不知火をチカと呼ぶ翔に和也は頭を抱える。その様子に俺は悪くないと思いながら、朔夜の方を翔は見る。
目が合った気がしたがすぐに朔夜は視線を逸らす。
自分を見ていたのか? と翔は疑問に思う。そして斜め上で意味深そうに頷くゆうが気になったが、今は話しかけるわけにはいかない。気にしないように視線を逸らす。
するとちょうど予鈴がなり担任の鳴海が入ってきた。
「おー、稲荷何か合ったのか? 元気に叫んでたけど」
教卓の前で怒鳴る翔に鳴海は興味なさそうに声をかける。
「ナル先生、全てはチカが悪いんだ!」
「……? チカ? そんな名前の生徒このクラスにはいないぞ?」
「あー、先生。不知火さんの事です。翔の馬鹿がふちかって間違えて読んで……」
不思議そうな鳴海に呆れたように和也が伝える。鳴海は納得すると爆笑をする。
「そうか、不知火がふちかでチカかっ」
お腹を抱えて笑う鳴海に翔も和也もそんなに面白いか? と首を傾げる。しばらく鳴海が笑った後に真剣な表情になる。
「不知火は協調性がないから理由はどうあれ、関わってやれ」
優しい表情をして、周りに聞こえないような小声で、鳴海は2人に軽く頭を下げる。その様子に翔達は意外だと思った。
「ナル先生、先生みたいな事言うことあるんすね」
「おお、稲荷それはどう言う意味だ?」
鳴海が普段のトーンに戻り問い詰めようとするとホームルームの始まりを本鈴がなる。
翔は逃げるように席に戻った。
♢♢♢♢
朔夜はチラリと翔を確認する。どうやら朝誰かにぶつかった記憶はあったがそれが翔で生徒手帳を落としたのを届けてくれた。そこはよかった。自分が一昨日あった人間だと気づいてなく安心もした。しかし、自分の苗字を間違って呼ばれては訂正しないといけない。
翔の斜め上のあたりでゆうが笑ってる声がした。
それがさらに朔夜を苛立たせる。
「拾ってくれたのはありがとうございます。……でも私の名前はふちかではなく、不知火です」
吐き捨てるように生徒手帳を受け取ってその場をさった。しかし、こちらの姿でも縁が出来たのは失敗したと朔夜は席についてから反省した。
どこから正体がバレるかわからない。いまも大声で朔夜の事を叫んでいる。これで一昨日の人物が自分とバレたらかなりめんどくさい事になるのがさらに目に見えた。
どうしたものかと翔を見ていると、目が合って慌ててすぐに逸らす。境界の管理人の仕事をきちんとやる為にも学校生活は影を薄めて無難に、そして平和に過ごしたい。
元々朔夜は高校に行く気はなかった。現世と隠世どちらかを選べと言われれば、確実に隠世をとる。それぐらい朔夜にとっては現世への興味は薄い。
それが狭霧神社の跡取りでありながら、一度村を出て教員免許を取って帰ってきた鳴海にうざいほどに高校に通うべきだと力説され、あまりのくどさに朔夜が折れたのだ。
その様子を見ていたゆうが保護者目線で色々言ってきてさらにめんどくさかったのを思い出し、朔夜はため息をつく。
教卓の前では翔達に鳴海も加わって話している。鳴海がチラリとこちらを見て嫌な予感がする。
そして本鈴がなり席に戻る翔がこちらを見た気がした。
第六感が関わりたくないけど、表では確実に関わる事になる気がすると告げる。
朔夜は頭を抱えたい気持ちを堪え、深く息を吐いた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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