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第21話 えっと……ふちか?

 翔はいつも通り窓から差し込む光で目が覚める。ベッドから起き上がり、伸びをする。昨日の出来事が嘘だったのでは? と思うも左人差し指の指輪と首にかかるチェーンネックレスの重みに夢ではなかった事を再確認する。


『おっ、少年起きたかー?』


 頭上から降ってきた声にこれも夢じゃなかったのかと翔は頭を抱えたい気持ちになった。そんな翔の様子を気にした様子もないゆうが翔の前に降り立った。


『おはよう、少年。いい朝だぞ!』

「朝から元気だな……」

『そりゃ幽霊に睡眠は必要ないからさ』


 自信満々にドヤ顔をするゆうに翔はイラッとこめかみがぴくついた。しかし、昨日寝るまでの間に学んだのだ。相手にするとさらに喜ぶから無視するのが1番いいと。

 翔はドヤ顔のゆうを無視して、学校の準備をして家を出るのだった。


 学校に向かうまでの間もひたすら話しかけてくるゆうに翔は迷わずに存在無視を継続した。


「おはよう、翔。珍しく早いな」

「かず、はよー」


 通学中に和也と合流する。その後は和也と話す事でゆうが諦めたのかうるさい声が一つ減り翔は内心でガッツポーズをした。

 そこからは今までと同じ平和な学校生活が始まると久しぶりの日常を楽しもうと翔は心に決めた。


「どうしたんだ、翔。嬉しそうだけど。あっ、神隠しで行方不明と言われてた人達が帰ってきたからか?」

「あー、そういえばそんなのあったな」

「いや、そんなのって……」


 あまりにも現実離れをした体験をしすぎたせいで翔は神隠し事件があった事すら忘れていた。その様子に和也は呆れた様にため息をついた。


「まぁ、良かったよな。無事でさ」

「そうだな。昨日学校終わりに華奈ちゃんと雛乃ちゃんに会ったけど、2人とも元気そうだった」

「そうか!」


 しかし自分関わった子ども達が元気だと聞き、翔は嬉しくなった。最悪な出会いもあったけど、自分よりも小さな子が危険な目に遭わなかっただけでなく、引きずらずに元気にやっている。それがわかっただけでも、違う世界に足を踏み入れた事を後悔しない理由になる。たとえ、うるさい同居人が家に増えたとしても。

 その後も和也と授業の話など他愛のない事を話しながら学校へ向かう。ちょうど十字路に差し掛かったところで横から突然現れた少女に翔はぶつかった。お互いによろめくもコケはしない。黒髪を下ろし、眼鏡をかけた少女は翔の方を見ようともせず、前だけを見据えている。


「……すみません、急いでいるんで」


 そう言って、そのまま少女は走っていく。あまりにも慌てた様子に翔は頭にはてなマークを飛ばした。そして地面に何かが落ちていることに気づき、拾う。葦原学園の生徒手帳だ。


「えっと……ふちか?」


 後で届けてあげようと名前を確認すると"不知火朔夜"と書かれていた。苗字の読み方が分からず首を傾げながら口を開く。


「翔、大丈夫か? 今の不知火さんだったよな」

「誰?」 

「クラスメイトだ、バカ! というか、俺と同じで学級委員を押し付けられてた」

「ああ、ふちかな」

「いや、ふちかって読まないからな?」


 和也が何か言っているが翔の耳には入らない。同じクラスなら後で渡そう。そう思い生徒手帳をポケットにしまった。

 そしてそのまま学校へと向かう。




 ♢♢♢♢



 夜というか深夜に隠世の住人に起こされた朔夜は夜中森の中を動き回っていた。なんとか依頼された探し物が見つかった頃には空は白んでいる。一度狭霧神社の一室で仮眠をとるつもりが寝過ぎてしまい、朔夜は慌てた。

 今日は朝礼前に鳴海に事情を説明する約束をしていたからだ。慌てて、置かせてもらっている制服に着替え、スペアの眼鏡をつけて、首の後ろで結っていた髪を解く。黒い艶のある髪が重力に負けて下へと降りる。

 そして鞄を持つと学校に向かって走った。


 しばらく走り、学校の近くにある十字路に差し掛かった時に、誰かとぶつかった。慌てていた朔夜は相手を確認もせずに謝り、その場をすぐに去る。

 そして全力疾走をした為か、約束の時間までに数学準備室まで辿り着く。合鍵を使って中に入り、1人がけの椅子に座りながら息を整える。


「おっ、走ってきたのか?」


 少しして、鳴海が準備室に入ってくる。息を整えながらチラリと鳴海を見る。彼は頷いて扉の鍵を閉めた。


「で、稲荷の件進展あったのか」

「とりあえずは問題ないみたいだ」


 そう前置きして、昨日久遠の屋敷で盗み聞いた話を鳴海に伝える。鳴海は真剣な表情で話を聞いている。全て話し終えると彼ははぁーと息を吐く。


「とりあえず、自分の生徒が大変な霊障とかにあってなくてよかった」


 その声音には安堵が混ざっているが声は硬い。


「だが、見える様になったのならやっぱり、一度狭霧神社に連れてくるべきだ」

「それは断る。あそこは僕のテリトリーだ。あいつが僕のテリトリーに入るのはごめん被りたい」


 心底嫌そうなのを隠しもせずに朔夜は伝える。鳴海は片手でこめかみを揉みながらも真剣に朔夜を見据える。


「お前が面倒事を嫌ってるのは知っているが、稲荷は人間だ。現世の問題は俺らの一族に決定権がある」

「だが、今はあいつの身の回りをゆうが見てる。ゆうの魂とリンクしてる時点で純粋な人間と言えるのか?そうなると隠世よりとして僕の管轄になるとは思わないか?」


 しかし、朔夜も譲る気はない。


「待て、今稲荷に狭霧様がついてるのか!?」

「そう。何かあったらすぐに助けられる様に。久遠が作ったお守りもある。人間が関わらなくても今のあいつの身の安全は保証されてる」

「……」


 譲る気のない朔夜に鳴海は大袈裟にため息をつく。


「わかった。ただし、お前の正体がバレた場合はすぐにこちらに連絡しろよ? うちの爺さんは霊感持ちだから稲荷のいい相談相手になるかもしれないしな」

「出来れば紹介しないで済む事を祈りたい」


 そう言い、話は終わりだろうと朔夜は椅子から立ち上がる。鳴海のいる方からまた、盛大なため息が聞こえたが、無視をして準備室を出た。きっと鳴海も時間をずらして部屋を後にするだろう。そんな事を考えながら朔夜は教室に向かった。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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