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第10話 忘れてたは酷いですよ!!

「まったく、懲りないですね」


 先程まで朔夜がいた電柱へ1人の少女が声をかける。


『うるさい』


 電柱にもたれ、頭を抑えて座っていたゆうは顔を上げずに言う。しかし、少女は特に気にした様子もなさそうにゆうの前に屈む。


主様(あるじさま)にあまり迷惑をかけないでください」

『別に迷惑はかけてねぇーよ。たまには息抜きが必要だから適度に揶揄っているだけだ。……見事に相手にされてねぇーけどさ』


 ゆうは心外だとでも言うように顔を上げて少女を見る。


「それが迷惑だと言っているのです、私は」

『それはお前の意見だろ? あいつの考えじゃない』

「……っ!」


 ゆうの言葉に少女はカッと顔が赤くなり立ち上がる。そこには先ほどまであった余裕の色は消えていた。


『お前がさやーー朔夜の事が大好きなのは知ってるが、過保護すぎるんだよ。もっと周りを良く見てーー』

「黙りなさい! ただの成仏出来なかった霊のくせに神獣である私を!!」

「落ち着け。いくら人がいねぇとはいえ、暴走しすぎだ」


 2人の間に明らかに不機嫌そうな青年が割って入る。そして少女の口を押さえ、ゆうに向き直る。


「悪かったな、ゆう。こいつの非礼は詫びる。テメェだって好きで幽霊やってるわけじゃねぇのにな」


 深々と頭を下げて謝る青年に、ゆうは気にするなと笑いゆっくりと立ち上がった。

 よっこいせっ、と年寄りくさい声掛けと一緒に。


『それにしてもお前ら兄弟って本当に対照的だよな』


 2人をまじまじと見つめながら、ゆうは常々思っていた事を口にする。すると少女の口を押さえたままの青年は少し心外そうに肩をすくめた。


「そりゃ、どーゆう事だ? 俺ら神獣には元々性別がねぇし、そこまで違いがあるとは思えねぇんだけどな」

『あー……、中身の話。まぁ性格って事だ。お前はさやの事をあまり快く思ってないし、逆にリンはさやの事を溺愛してるし』


 ゆうの言葉に青年ーーコウは罰が悪そうな顔をした。


「確かにあいつは俺らの主ーー契約者だけどな、あの腹の底が見えねぇのが気にいらねぇ。俺らは確かに主従の関係だが、あいつはあん時に俺らは対等だって言ったんだ。だから尚更いけすかねぇ」

『……』


 コウの言葉にゆうは黙るしかなかった。確かにコウの言うことは一理ある。しかし、腹の底を自分の考えを相手に読ませないようにするのは朔夜の無意識下での癖だった。

 自分の、そして他者への保身の為に。それをコウは理解できずにいる。全てを悟っているゆうは上手い言葉が見つからずに口を噤んだ。


「……むぅ」


 2人の間に気まずい沈黙が起きたが、ふいに今まで口を押さえられていたリンが苦しそうに呻き声を上げた。


「あ……」

『忘れてた……』


 それに気付き2人は間抜けな声を出した。コウは慌ててリンの口から手を離した。リンは解放されると大袈裟なくらい大きく深呼吸をして新鮮な空気をいっぱい吸い込む。


「忘れてたは酷いですよ!! それより早く神社に行きましょう。主様が待っていますよ」


 待ってはいないだろうと2人は思ったが、敢えて口には出さない。


『そうだな、明日が約束の期限だから情報は欲しがってるだろーしな』


 リンの言葉にゆうは空中で胡座を組み、腕を組んでうんうんと頷く。それをコウは呆れたような目で見ながらため息をつくと首に手をやり、コキリと首を鳴らす。


「お前はずっとあいつのそばにいただけで、苦労したのは俺らだろうが……」


 ボソボソとそう呟きながら、キョロキョロと周りに自分達以外誰もいない事を確認する。そして、コウは「先に行くな」と言って軽く地面を蹴る。

 瞬間、コウのいた場所を中心として突風が吹いた。そして風が落ち着いた頃にはコウの姿は既になくなっていた。


『おー』


 気が早いなとコウが先程までいた場所をぼんやりと眺めなていたゆうは、不意に視界に入った光景を見て意外そうな顔をしてぷかぷかと空中を浮きながら、神社への階段に近づく。

 そして腕を頭の後ろで組みながら地味に階段を登っているリンに近づき、浮遊したまま話しかけた。


『なんで普通に歩くんだ? 急がないのか? お前にしては珍しいなっ』

「今回は主様が必要としているのは私ではなくコウですから。私はそこまで急がなくてもいいんです。ですのでせっかく人の姿(かたち)をとっているので、いつも主様がしているように歩いてみようかと思っただけです。貴方は先に飛んで行ってよろしいですよ?」


 リンはゆうの方を見ようともせず、丁寧な口調で言っているが、ついさっきの出来事が尾を引いているのか、その言葉の端々にはどこか棘があった。

 しかしゆうはそれに気づかないふりをして、リンの隣へと両足を着地させる。そして歩くリンのペースに合わせて階段を一緒に上る。


「ちょっ……なんですか!? 私は先に行ってと言っているのですよ?」

『別に俺、お前に命令される筋合いねぇーし』


 ニヤニヤと笑いながら言うゆうにリンは怒りで顔が真っ赤になる。

 それからしばらく2人で低レベルの言い争いを続けた。


 

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。ストック分はこちらで終わりとなります。


これからは執筆しながら更新していく形になる為、更新頻度は落ちますが、彼らの物語をたくさんアウトプットできるように頑張る所存です。


こちらの『境界の管理人』は、今後は【毎週 火曜日・木曜日の 20:00 頃】に最新話を更新していく予定です。


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『境界の管理人』の次の更新を待つ間、もしよろしければこちらの世界もあわせて覗いてみてください!



もし「続きが気になる!」「キャラが好き」と思ってくださったら、ページ下部から【ブックマーク】や【評価】で応援していただけると、執筆の凄まじい原動力になります。これからもどうぞよろしくお願いいたします!

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