第1章:エレベーター
17歳のヤマトは京都に住み、ただ恋人のもとへ帰りたいだけだった。
エレベーターに乗り込んだ彼がたどり着いたのは、5000年ものあいだ巨大な壁に閉ざされた村、ケーン。
その壁に触れると、壁は消えた。
村人たちは彼を悪魔だと信じ込み、ヤマトはただ、なぜ前夜にあの場所を夢見たのかを知りたいだけだった。
キョウダンに追われ、村長の孫娘に救われたヤマトは、やがて知ることになる。自分は選ばれし者ではなく、「鍵」であると。
アスマンでは、過ちは人を強くしない。死に至らしめるのだ。
有機的な技術が息づき、蛍が動力を生み出し、千年の時を経た大木の森の下には、秘められた真実が眠っている。
ダークファンタジー。
ヴェッセンは危険にさらされていた。
ヤマトにはわかっていた。
彼は傷ついた体でどうにか酒場を抜け出し、降り止まない嵐のなか、ふらふらと歩き続けた。「同胞団」が彼を追っていた。村人たちは彼を恐れていた。
けれども、ヤマトの頭のなかにあるのは、ただひとつのことだけだった。
彼らより先に、彼女を見つけ出すこと。
どうしてこんなことになってしまったのか、それを理解するには、時計の針を二十四時間巻き戻さなければならない。
京都へと——
ヤマトの人生は使い古された写真のように色褪せていた。幾度も見つめ続けるうちにコントラストを失ってしまった一枚の写真のように。彼はいつも、灰色の雲に覆われていて、息も満足にできなかった。
幸せでなかったわけではない。もっと悪いことに、自分が幸せになることを自分に許せなかったのだ。まるで、幸せになることが自分よりも大きな何かを裏切る行為であると、ずっと前から知っていたかのように。
アスファルトの灰色、学校の灰色、そして器用に巻く手巻きタバコの灰色が、世界のすべてに染み込んでいるようだった。ヤマトは小さな埃のように漂い、まだ掴むことのできない風に流され、味気ない日々を少しずつ消費していた。
彼はその晩、一睡もしていなかった。ハックがビデオ通話で何時間もかけて、ミコトがどれほど最悪な人間か、もう二度と顔も見たくないかを事細かに話して聞かせたのだ。ヤマトは無限とも思える忍耐力で、相づちを打ち、時折うなずいてみせるのが精一杯だった。
二人はキスをした。その触れ合いを呼吸と同じくらい自然なものに変えてしまった者たちのように。「おはよう」の代わりのキスとともに、彼らは近所の学校へと続く坂道を登っていった。
「ミコトに会ったら、絶対に口をきかないからね」
「どうせいつも仲直りするだろ」
ハックは聞き取れないなにかを小声でぶつぶつとつぶやいた。
「なあ、明日でなんか三年になるよな?」ヤマトはからかうように尋ねた。
「そう! もう準備はばっちり。楽しみにしてて」ハックは彼の腕の中に飛び込みながら答えた。
道のりはあっという間だった。そして、彼らを毎日八時間も教室に閉じ込めるあのコンクリートの要塞が、まるで刑務所のような重々しさで彼らの前にそびえ立った。
ヤマトとハックは学校の玄関で曖昧な仕草で別れ、それぞれの教室へと向かった。マットが例の「行くのか、行かないのか」という笑顔で彼を待っていた。だがヤマトには、その瞬間、隣の工場にタバコを吸いに行っている暇はなかった。彼は二十世紀の世界文化発展における日本の役割についてのレポートを仕上げなければならなかったのだ。
「まだ終わってないんだろ?」
「まあな。また忘れてた」
「間に合うわけないって。なんでも賭けるぜ」
教室は、傾いた首と携帯電話の輝きに照らされた顔で埋め尽くされた水槽のようだった。教授は分厚い縁の眼鏡をかけた年配の男性で、黒板に何かを説明していたが、それが数学なのか歴史なのかはどうでもよかった。ヤマトは紙を取り出すと、奇跡を目の当たりにすることを期待する者の信仰心で書き始めた。
時間はゆっくりと、静かに過ぎていった。ついに終業のベルが鳴った。いつも通り、ぴったりだった。しかし、歴史のレポートであるはずのものが、手遅れになる前に教授の机の上に滑り込んだ。
「提出したぞ。例の件はわかってるな」
「お前が何を出したのか、見るのが怖いよ」
「空手に行くか?」
「ああ、行こう」道場は、ヤマトが自分自身でいられる平和な避難所だった。どこへ行くにも彼を追いかけてくる灰色の雲が、唯一足を踏み入れることのできない場所。壁には「努力」「尊重」「道」と書かれた掛け軸がかけられていた。
ヤマトとマットは向かい合って礼をした。そして練習試合が始まった。マットは数秒で床に倒され、ヤマトは彼に手を差し伸べた。実力に関しては、比較にならなかった。
道場を出ると、すでに夕暮れが訪れていた。二人は公園のベンチに座った。それはハックの家の角にあるベンチだった。ヤマトは機械的な動作でタバコを巻き、火をつけた。他の友達もやってきた。たわいもないおしゃべりが午後の残りを埋めていった。
道場は、ヤマトが自分自身でいられる平和な避難所だった。どこへ行くにも彼を追いかけてくる灰色の雲が、唯一足を踏み入れることのできない場所。壁には「努力」「尊重」「道」という漢字が掲げられていた。
ヤマトとマットは向かい合って礼をした。そして練習試合が始まった。マットは数秒で床に倒され、ヤマトは彼に手を差し伸べた。実力に関しては、比較にならなかった。
道場を出ると、すでに夕暮れが訪れていた。二人は公園のベンチに座った。それはハックの家の角にあるベンチだった。ヤマトは機械的な動作でタバコを巻き、火をつけた。他の友達もやってきた。たわいもないおしゃべりが午後の残りを埋めていった。
「週末はどうだった、ヤマト?」
「まあ、普通かな」
数分後、彼は壁にタバコを押し付けて火を消し、立ち上がった。
「もう行かなくちゃ。ボスが待ってるんだ」
「ボス」というのは母親かハックのどちらかだった。どちらでも同じことだった。彼は一人で立ち去った。夕暮れが夜へと血を流すように沈んでいく中を。
夕食はハックの家でとった。屋内は質素だった。小さな炬燵テーブルに、壁には鯉のぼりの飾りがかけられていた。向かいにはハックの両親——優しい表情の母親と、新聞を読む厳しい顔つきの父親。ご飯に味噌汁、焼き魚。
ハックはテーブルの下で彼の手を握った。彼は優しく握り返した。両親は気づいていなかった。あるいは、気づかないふりをしていた。
「部屋に行こう」
二人は二階へ上がった。ハックの部屋はカワイイの宇宙だった——ハローキティのフィギュア、使い古したくまのプーさんのぬいぐるみ、ピンクのスピーカー。唯一の灯りはベッドサイドの小さなランプからもれていた。二人は胸まで布団をかけて横たわり、ハックは彼の肩に頭を預けていた。
ヤマトの顔はやつれていた。ただの疲れではなかった。骨の髄まで染み込んだ、深く永続的な疲労だった。
「疲れた」と彼はつぶやいた。
ハックは顔を上げた。
「顔色が悪いわ。大丈夫?」
「出かける前に、ちょっと休んでいかないか?」
彼は寝返りを打って、ハックの胸に頭を預けた。彼女は眉をひそめたまま、彼の髪を優しく撫でた。くたびれたプーさんのぬいぐるみが、その疲れ果てた親密さを無言のまま見守っていた。
彼のまぶたは落ち、夢の世界へと沈んでいった。
夢の中で、青い鐘が彼の名を呼んだ。
それは、夢のなかの夢のようなものだった……
ハックのベッドで目を覚ましたときも、あの鐘の輝きと声の深みは記憶に生々しく残っていた。額からは汗が滴り落ち、心臓は激しく胸を打っていた。
京都の白黒の世界は戻っていたが、彼の内側には疑いの種が芽生えていた。すべてを変えてしまうことになる、新たな不安が。
「叫んでたわよ、あなた。すごい汗。どうしたの?」
「なんでもない。悪い夢を見ただけだ」
彼は荷物をまとめながら、彼女に近づき、額にキスをした。
「もう行くよ。すごく遅くなっちまった。家で心配してる」
「うん、気をつけて。着いたら連絡してね」
彼は建物を出た。京都の夜は人工の灯りと冷たいアスファルトで彼を迎え入れた。自宅まで走った。日中は人で溢れかえる通りには、人影ひとつなかった。
やまと
ヤマトは一瞬、空を見上げて違和感を覚えた。いつもの灰色に、今まで見たことのない紫色の裂け目が走っていた。
ディン…ドン。
鐘の音?また?
ヤマトはポケットから携帯を取り出し、時刻を確認した。
午前5時20分。
朝の五時に鐘が鳴るなんて、いったいどういうことだ?しかも近くに教会なんてなかったはずなのに…
「変だな」と彼はつぶやきながら、鍵を回して自宅の建物に入った。
エレベーターはその日のうちに修理されていたらしく、彼がそこに着くと、ドアがかすかなブーンという音とともにひとりでに開いた。ヤマトは奇妙に思ったが、それ以上は気にしなかった。
彼は中に入り、自室の階のボタンを押した。ドアが閉まった。
エレベーターが動き始めた。
しかし、その動きはいつものものではなかった。上がっているのか下がっているのかという感覚は、荒々しい揺れに変わり、箱全体が目に見えないレールの上を激しく滑っているかのようだった。その直後、急降下するときのように足元の地面が消え去るような、胃の底が持ち上がる感覚に襲われた。
轟音は耳をつんざくほどに大きくなり、明かりが消えた。ヤマトは心臓を喉元で激しく打たせながら、必死に手すりにしがみついた。空間は絶対的なめまいの一瞬のうちに、膨張と収縮を繰り返しているようだった。
空間が元の形を取り戻すと、鋭い電子音が彼の鼓膜を貫いた。
そして、静寂。
エレベーターのドアが、いつもと同じように開いた。
しかし、そこは彼の部屋のある廊下ではなかった。
そこは森だった。
彼は二歩踏み出し、エレベーターを出た。あまりにも強烈な緑が、これまで灰色に慣れきっていた彼の目を刺すように痛めた。空気は湿った土と苔の匂いがした。そこには古びた野生のなにかが潜んでいた。京都の交通の遠くの喧騒は、もうなかった。代わりに聞こえてくるのは、見知らぬ鳥たちのさえずりと、自分の頭ほどもある葉っぱのあいだをすり抜ける風のささやきだけだった。
世界は色を取り戻していた。
これは現実じゃない。それは明らかだった。まだハックの家で夢を見ているんだ。ほかに説明のしようがなかった。さもなければ、見たこともない森のなかで、いったい自分はなにをしているっていうんだ?
彼はエレベーターに戻ろうと振り返った。だが、エレベーターは現れたときと同じように、忽然と姿を消していた。ありえないことだったが、もうそこにはなかった。つい二秒前まで確かにそこにあった金属の箱は、影も形もなくなっていた。
彼は困惑しながら、視界を遮る木の枝のあいだを数歩進んだ。
そのとき、足元の地面が消えた。
深い穴に落ち、土と根っこにまみれて転がり落ちた。着地と同時に、頭になにかがぶつかり、カーンという澄んだ音が響いた。
彼はうめき声をあげながら体を起こし、髪についた土を払った。そして、それを見た。
穴の底の土のなかに、青銅の鐘がなかば埋もれていた。露出した部分は二メートルほどの幅があった。ひどく古びていて、長い年月に金属は黒ずんでいた。表面は苔と草に覆われていた。けれども、陽光がなんとか緑のあいだを縫って差し込むその場所だけは、青銅がかすかに輝いていた。
それは複製品だった。遠い聖なる過去の、かぼそいこだまだった。
だが、ヤマトはそれを調べるために留まらなかった。とにかくここを出ることが先決だった。いったいここはどこなんだ? 見知らぬものたちに包囲されるにつれて、焦りが募っていった。両親は必死で自分を探しているはずだし、ハックはまだ連絡を待っている。
ようやく地上に這い上がると、彼は息を切らせながら、茂みのあいだに倒れ込んで呼吸を整えた。生きた沈黙が、まるで森じゅうが息を潜めているかのように、彼を包み込んだ。
そのとき、恐ろしいほど聞き覚えのある音が、毒矢のように彼を貫いた。
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ。
彼は茂みから飛び出した。心臓が握りつぶされそうだった。ズボンのポケットが震えていた。携帯電話だった。朝の六時のアラームが鳴っている。その音が、現実という名の平手打ちのように、ヤマトを我に返らせた。あの電子音が、逃がし弁のように彼を正気に引き戻したのだった。
本来なら、学校へ行く準備をしているはずの時間だった。だが今は、見知らぬ、おそらく危険な世界に足を踏み入れている。しかも、京都の朝六時はまだ暗いはずなのに、ここでは太陽がすでに一番高い位置にあるように見えた。
いったい、どうしてこんなことが可能なんだ?
携帯を取り出すと、待ち受け画面——去年の終業式のパーティーで撮ったハックとの写真——が、腹にパンチを食らわせたような衝撃を与えた。震える指でアラームを止め、おぼつかない足取りで歩き出しながら、彼はその小さな光の四角形から目を上げた。
そして、それを見た。見たこともない、巨大な山だった。それなのに、ぼんやりと見覚えがあるように感じられた。
つづく___
楽しんでいただければ幸いです。新しい章は毎週火曜日に公開いたします。




