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元勇者の嫁が甘えん坊すぎて、元魔王の理性がもちません  作者: 月城琴晴


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第4話 夜って危険だな

 風呂がわいた。


 小さな家の、小さな浴室。


 湯気がゆっくりと漂っている。


「あのさ……」


 ヴェイルが、何気ない顔で口を開いた。


「夫婦って、一緒に風呂入るのか?」


 軽い冗談のつもりだった。


 本当に、何となく聞いただけだ。


 だが。


「……そうなの?」


 リシェが真顔で返してきた。


「……は?」


 しかも、みるみる顔が赤くなっていく。


 耳まで真っ赤だ。


 ヴェイルは思った。


 ……いや待て。


 勇者なら、遠征とか旅とかしてるだろ。


 男と風呂くらい入ったことあるんじゃないのか?


 俺なんか普通に女と風呂入ってたし。


 魔王だったしな。


 ……いや、今思うと何の理論だそれ。


 しかも。


 触れたほうが魔力注入は安定する。


 一瞬、そんなことまで考えてしまった。


 もちろん冗談だ。


 本当に。


 だが、リシェは真剣に悩み始めていた。


「えっと……その……」


「いや待て待て。冗談だ」


「冗談なの!?」


「そんな驚くことか?」


「だ、だって夫婦なんでしょう!?」


 ヴェイルは固まった。


 こいつ。


 本当に知識が危うい。


「お前……もしかして恋愛経験ないのか?」


「……ないけど」


 ヴェイルは頭を抱えた。


 終わった。


 しかもリシェは少し俯きながら、小さく呟く。


「ヴェイは……あるの?」


「……まあ」


 リシェの肩がぴくっと揺れた。


 その反応を見て、ヴェイルは少しだけ困る。


 何だそれ。


 気にするのか。


「まあ、魔王だったしな」


「……そう」


 なぜか少しだけ落ち込んでいる。


 ヴェイルは思わず笑いそうになった。


 わかりやすい。


「安心しろ」


「今は、お前の旦那だろ」


「っ……!」


 一瞬でまた真っ赤になる。


 やっぱり、ちょっとかわいい。


***


「……夫婦で入るのは、ある」


 リシェが小さな声で言った。


「でも……まだ恥ずかしいんだろ?」


「うん」


「じゃあ、無理するな」


「うん」


 少しだけ間を置いてから、リシェが小さく続ける。


「でも……そのうちね」


「お……おう」


「楽しみにしとく」


***


「リシェ、先に入れよ」


「ヴェイが先に入って」


「お風呂先に入ってくれたら、私がお風呂洗うから」


「わかった」


「料理もしてもらったし、お皿も洗ってもらったし」


「おう。じゃあ、そうしようかな」


 ヴェイルが先に風呂へ入った。


 そして。


「お先」


 風呂から出た瞬間。


 リシェが、ぶわっと顔を赤くした。


「どうしたんだ?」


「ヴェイ、服着ないと駄目」


「下は履いてるけど?」


「何か問題あるか?」


「駄目!」


 顔を覆う。


 ヴェイルは思った。


 ……まさか。


 意識してるのか?


 耐性ないタイプか?


「結構筋肉あるんだね……」


「は?」


「そりゃ、なかったら魔王やってられんだろ」


「当たり前だ」


「早く入ってこいよ」


「う、うん」


 リシェは逃げるように浴室へ向かった。


 しばらくして。


 ガシャーン。


 すごい音が響いた。


「……何が起きてる」


「大丈夫か、リシェ!」


 慌てて風呂の扉を開ける。


 そこには――風呂場で滑っているリシェがいた。


「……」


「お前、どんくさいぞ」


「勇者だろ」


「っていうか、見ないで!」


 リシェが慌てて身体を隠す。


「俺たち夫婦だろ」


「減るもんじゃないし」


「駄目!」


 真っ赤になって叫ぶ。


 ヴェイルは思わず笑った。


「見ちゃったけどな」


「~~っ!」


 リシェがさらに赤くなる。


 わかりやすい。


「早く出ろよ」


「俺が洗おうか?」


「できるもん!」


「だから、覗かないで!」


「はいはい」


 ヴェイルは苦笑しながら扉を閉めた。


***


「……やべぇな」


 ヴェイルはソファへ座り込み、頭を抱える。


 さっきの光景が、頭から離れない。


 しかも。


 あいつ、恋愛経験ないんだよな。


 触れたい。


 いや、駄目だ。


 理性だ。


 理性を保て。


「水飲むか……」


 とりあえずコップへ手を伸ばす。


 いや、筋トレでもするか?


 鍛えれば気が紛れるかもしれない。


 でも風呂のあとに筋トレしたら、また汗をかく。


 しかも――これからリシェと一緒に寝る。


「……」


 やばい。


 めちゃくちゃ意識してきた。


 水だ。


 水を飲もう。


 それしかない。


 そんなことを考えていると、リシェがパジャマ姿で戻ってきた。


「ちゃんとできたか?」


「できたもん」


 ヴェイルは固まった。


 パジャマ姿もかわいい。


 しかも、さっきの光景が頭をよぎる。


 危ない。


「どうかした?」


「……何でもない」


「嫁がかわいいなって思っただけだ」


「っ……!」


 リシェがまた真っ赤になる。


 ヴェイルは思った。


 ……夜って、危険だな。


ここまで読んでくださってありがとうございます!


元魔王、理性がかなり危なくなってきました。


でも、元勇者はまだ“夫婦”をよくわかっていません。


しばらくは、そんな二人の甘めな同居生活が続きます。


よろしくお願いします!

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