第18話 さらっと甘えん坊
魔道具の方は良くなっている。
でも、疲れて寝てしまうことが多かった。
やらなければならないことが多すぎて、甘えることすらできなくなっていた。
いつも一緒にいると顔を真っ赤にしていたのに。
それに、最近はほとんど触れてこない。
美人ではないからだろうか。
そんなことを考えてしまう時もあった。
少しだけゼクスに聞いたことがある。
ヴェイは女に興味がないタイプなのかと。
でもゼクスは首を傾げた。
「どうなんだろうな。魔王様は本当のことを隠すからな」
グレインにも似たようなことを言われた。
だからこそ、デートをせがんだりした。
甘えたかった。
そうすれば、少しは心を開いてくれるかもしれないと思った。
出掛けると囲まれる。
その度にヴェイは、
「嫁がいるので」
と断ってくれる。
優しくしてくれる。
いつだって一番にしてくれる。
なのに、不安だった。
最初の頃は甘えていたのに。
魔力注入の時に聞こえてくる言葉が怖かった。
好きだ。
大事にしたい。
触っちゃいけない。
壊れそう。
触りたい。
触れてほしい。
きっと、あれは自分の声だ。
そう思っていた。
だから向き合わなければいけないと思った。
ヴェイは何を考えているのだろう。
でも私は勇者でしかない。
元勇者になっても、勇者という自分が消えるわけではない。
もしかしたら。
私の性格がヴェイを傷つけているのかもしれない。
強くあらねばならない。
そう思うことが、どこかでヴェイを遠ざけているのかもしれない。
確かに魔力注入はしてくれる。
色々してくれる。
でも、どこか距離を置かれている気がした。
毎日くっついていても、それ以上はしないようにしているのがわかる。
意味はわかる。
それでも不安だった。
苦しかった。
魔力注入は熱い。
一つになる。
だから好きだ。
意識が遠のくほど熱くなる。
それこそ魔王のエネルギーなのだろう。
私のエネルギーも入り混じる。
***
言えない。
魔力注入で内面が聞こえているなんて。
俺の声まで聞こえているわけがない。
いや、そんなことは……。
何も知らない方がいい。
だから俺は魔力注入の説明をあまりしていない。
俺が漏れてしまうと困るからだ。
だから手を繋ぐくらいで我慢している。
くっつかれて。
困って。
無口になって。
適当な言葉でやり過ごして。
でも、この想いは俺のものだ。
好きだ。
大事にしたい。
触っちゃいけない。
壊れそう。
触りたい。
触れてほしい。
ふと考えた。
俺の魔力を注入する。
リシェも魔力を流す。
ならば混じる。
この想いは誰のものだ?
……そんな馬鹿な。
いや、そんなはずはない。
そうするとリシェは全部わかっていて……。
どうしたらいいかわからない。
その時だった。
……え?
「リシェ?」
「大丈夫か?」
「俺はちゃんとそばにいるぞ」
「ちゃんと好きだぞ」
「わかってるよな?」
「え?」
リシェが泣いていた。
限界だったらしい。
ああ……俺は何を見ていたんだ。
「私、ヴェイが本当に私のことを好きかわからなくて」
「本当は好きじゃないのかなって」
「あまり触らないし」
「いや、いつもくっついてるだろ」
俺は顔が青くなった。
「さらっと返すし」
仕方ないだろう。
「俺の理性はいつも飛びそうなんだぞ」
「これ以上くっつかれたら何をするかわからないんだ」
「壊したくないんだよ」
「そんなに大事にしなくていいんだよ」
「もっと甘えた方が良かったのかな」
「いや、十分甘えてるじゃん」
「お前って、さらっと甘えん坊だぞ」
「誰が毎日俺の膝の上に乗るんだよ。あそこ、お前の定位置だろ」
「それに毎日手を繋いでるし」
「囲まれそうになると腕を組むし」
「魔道具を作ってたらくっついてくるし、終わったら一緒に昼寝するし」
「俺は十分嬉しいんだよ」
リシェは目を丸くした。
「でも……私が勇者じゃなかったらもっと好きになってくれた?」
「そんなの関係ないだろう」
「勇者でも勇者じゃなくてもリシェはリシェだ」
「お前じゃなかったら結婚してない」
「うん」
リシェが少し笑った。
「私も、ヴェイじゃないと駄目だったかも」
「ヴェイ―――」
「くっつくな」
「理性―――」
俺の理性が持たない。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ここまでお付き合いいただいた皆様に感謝いたします。
ヴェイとリシェの物語は、ひとまずここで一区切りとなります。
二人らしい終わり方になったのではないかと思います。
また機会がありましたら、後日談などを書くかもしれません。
本当にありがとうございました。




