表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】亡命王女四姉妹は、午後三時にお茶をする ~竜国の姫 外伝~  作者: コフク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/7

第5話 追手と、竜と、潮風のクレープ

 街道を歩き続け、暫く進むうち、エリシアの様子がまた変わりました。

杖を握る指先に、わずかな緊張が走ります。

「……後を付けられています」

魔力で周囲を探りながら、静かに告げました。

「来ました!」

リオネッタが、自然な動作で剣に手を添えます。

次の瞬間。


崖の上から、複数の影が躍り出ました。

二、三十人程。

騎馬と歩兵の混成部隊。

足取りも、魔力の流れも、一直線に――こちらを狙っています。

「容赦ないですね。女性四人にこの人数ですか」

 リオネッタが剣を抜き、前に出ます。

「ええ。王城で、完全に気づかれたのでしょう」

 エリシアが、低く息を吐きました。

「そこそこ魔力のある者もいます。――これは、厳しいかもしれません」 


 最前列の、指揮官と思われる人物が、語りかけてきた。

「王の印を渡しなさい。

 王城に無いことは分かっている。――持ち出したのは、お前たちだろう」

「……王のしるし?

 そのようなものを、持っている覚えはありませんが」

「渡さない、と?……しょうがないですね。お前たち、生け捕れ!」

 そのとき。

 白い影が、ふわりと空を横切りました。

「……コフク?」

 アグラール王家の魔獣、月白梟げっぱくきょう

 コフクはピイ、と一度だけ鳴き、王女たちの頭上を旋回すると、

 街道の先――空を仰ぎます。


 次の瞬間。

 空が、影に覆われました。

 低く、重い羽音。

 風を切り裂く音。

 紅い鱗を持つ巨大な竜が、街道へと降り立ったのです。

 一瞬、時間が止まりました。

 追っ手も、わたしたちも、息を呑む。


 けれど竜は、咆哮しません。

 炎も吐かない。

 ただ、翼を半ば広げる。 

――王女たちの斜め前で、守る位置。

そして、コフクがその肩に乗りました。


「……敵意はありません」

 エリシアが、即座に判断しました。

「こちらの側、ですね」

 リオネッタも剣先を下げ、頷きます。

 敵がまた、こちらへ向かってきました。

「食い止めます。水の盾!」

 エリシアの杖が光り、水の奔流が追っ手の進路からわたしたちを守ります。

 リオネッタは正面から踏み込み、剣で圧をかけました。

「ミリエル、後ろを!」

「はい!」

 回復と結界が重なり、陣は崩れません。

 ――けれど、数が多い。


 そのとき。

 わたくしは、胸の奥に残っていた、

 あの感触を思い出しました。


 なめらかで、やさしい――

 初めて作った、あのプリン。


「……足取りを、軽く」

 そっと息を整え、詠唱し、ハープを軽く爪弾きます。

「なめらかな甘さよ、我らを導け――

 プリンの俊速!」


 温かな魔力が広がり、

 姉たちの動きが、するり、と変わりました。

「……速い!」

 リオネッタの踏み込みが、一拍早くなる。

「体が、軽いですわ」

 エリシアの詠唱も、流れるように繋がりました。

「反撃です。

 押し返します――奔流槍アクア・ランス

エリシアの杖先から、高密度の水の槍が放たれ、

騎馬の一列を押し崩しました。


 今度は、別の甘さがわたくしの脳裏をよぎりました。

 外は香ばしく、中はなめらかな――

 焼きチーズケーキ。


「濃き甘さよ、足を奪え――

 チーズケーキの沼」

 

 低い音を奏でると、

 追手たちの地面が、ぬたり、と沈みます。

 騎馬も歩兵も、足を取られ、動けない。

 

 そして。

 竜が、静かに息を吸いました。

 恐怖に満ちた悲鳴。

 ――ごう。

 放たれたのは、焼き尽くす炎ではなく、

 制御された熱。

 地面と武器を歪め、恐怖だけを残す炎。

 追っ手は、完全に隊列を失いました。

「退却だ!戻って、……立て直す!」

 ほどなくして、追っ手は完全に退きました。


 街道に、静けさが戻りました。

「あら!もう、三時ですわ。

 ……竜さんも、一緒にお茶にします?

 もしできれば、その炎で少しお手伝いもいただきたいのだけれど」

 セレフィナが竜に向かって言うと、

 竜は大きく息を吐き、翼を広げて、近くの森の木立の中に消えました。

 コフクも後を追います。


 すると間もなく、今度は一人の少女がコフクに先導され、こちらに向かって駆けてきました。

「……はじめまして」

 息は切らしていますが、落ち着いた、柔らかな声。

「わたしはアグラールの魔獣研究所に所属している、リリです。

 竜を呼べます」

 四姉妹は、自然と背筋を伸ばします。

「コフクに呼ばれ、竜を連れて一緒に来ました。

 私も火の魔法、使えますよ」

 その言葉を裏づけるように、

 コフクが彼女の肩にとまりました。

 ――味方ですね!

 全員が、確信します。

 わたしたちもそれぞれ、リリさんに自己紹介をしました。

「……では、リリさんともご挨拶したところで、改めて」

 セレフィナが、いつものように言いました。

「戦いのあとの、おやつですわ」

 私はまず、岩の平らなところを見つけ、水魔法で洗い流して清めました。

「リリさん、岩のこの辺りを、火魔法で熱することってできますか?」

「ええ、できます」 

 その間に、セレフィナはボールとヘラを取り出し、

 村で調達した小麦とミルク、卵を混ぜ、

 そして、熱せられた石の上に生地を垂らし、広げて薄く焼いて……

「クレープ生地ができました」

 港町で調達した、柑橘の皮を煮詰めた、甘酸っぱいソース。

 仕上げに、蜂蜜と――海塩を、ひとつまみ。

「この国の海沿いでは、

 甘いものにも塩を少し使うのですわ」

 セレフィナは、手際よく仕上げていきます。


「最後に……」

 彼女は、リリさんを見ました。

「お願いできますか?」

 リリさんは小さく頷き、指先に火を灯しました。

 ――ふわり。

 ごく弱い熱が、生地の表面を撫でます。

 砂糖が溶け、

 ぱちり、と音を立ててキャラメリゼされました。

「……美味しいです」

 ミリエルが、嬉しそうに言います。

「香ばしくて、軽いですね」

「戦いの後には、ちょうどいい」

 リオネッタも、素直に頷きました。

 エリシアは、静かにカップを持ちます。

「素敵なおやつですわ」


 リリさんも一口食べて、目を細めました。

「……うわあ、美味しい。初めての味です。

 確かに、元気が戻りますね」

 黙々と頬張ります。

(この方も、甘い物がお好きですね!)

 言葉は多くなくても。

 同じおやつを分け合えば、

 それだけで、距離は縮まります。

「進路は、亡命の目的地――アグラールへ」

 エリシアが、はっきりと告げました。

 リリさんが一歩前に出ます。

「私とコフクがご案内します。

 国境沿いの、私たちの村から入りましょう。

 研究所の出張所もあります」


 追っ手は退き、

 旅も、あと少し。

 午後三時のお茶と、

 潮風の甘さを携えて。


 王女四姉妹は、新たな仲間に導かれ、

 最終目的地――アグラールへと歩き出しました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ