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【完結】亡命王女四姉妹は、午後三時にお茶をする ~竜国の姫 外伝~  作者: コフク


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第6話 おばあちゃんの干し柿と、アグラールへの旅の終わり

 街道での戦いを終えた後もそのまま歩き続けて、小さな森で人けのない小屋を見つけ、わたしたちは一夜を明かしました。

 翌日、丘を越えた先で、空気がやわらかく変わりました。

 潮の匂いは遠ざかり、代わりに草と土、干し草の香りが鼻をくすぐります。石畳の街道は途切れ、踏み固められた土の道が続いていました。

 

「……ここから、アグラールです」

リリの案内で国境の検問所もすんなりと通過し、

「私の住む、エルント村です」

リリの声は、どこかほっとした響きを帯びていました。


やがて周囲は畑と牧場ばかりになります。

その一角で、コフクが低く旋回し、降り立ちました。

「……ここです」

 リリが指し示した先にあったのは、立派な研究施設――ではなく、

 酪農農家を改築した、素朴な母屋。

「出張所、と聞いていましたが……」

 わたくしが思わず口にすると、リリは少しだけ笑いました。

「王都の本部は立派なのかもしれませんが、

 ここは、数名の所員だけの、魔獣の調査が目的の場所なので。

 普段は牛も飼っています」

 確かに、牛舎には数頭ですが、牛がいます。


 けれど、メインの建物の中へ入った瞬間、はっきりと分かりました。

 ――ぴん張り詰めた空気。

 計算された、堅牢な結界です。


「やあ。無事で何よりだ」

 奥から現れた青年の声は、穏やかで落ち着き、

 淡い緑がかった金髪、理知的な眼差し。

 この質素な建物には、少し不釣り合いな気品。

「マックス!大きくなりましたね」

 エリシアが、笑みを浮かべます。

「久しぶりだね、エリシア。

 それから――王女殿下方」

 彼は深く一礼しました。

 

 そうです。

 彼は、この出張所の責任者であり、

 そして、アグラール第二王子。わたしたちの従兄弟です。

 コフクが彼の肩に移ったとき、

 全員が同時に理解しました。


 ――ようやく、安全な場所に辿り着いたのだ、と。


 わたしたちはここで初めて仮面を外し、

 深く、息を吸い込みました。

「さあ、歓迎のお茶にしよう」

「あら、ちょうど、三時でした」


 案内された部屋の中央には、分厚い木のダイニングテーブル。

 並べられたのは、素朴な干し柿でした。

「これは……初めていただきます」

「私の祖母が、村で採れた柿で作りました」

 そう言って、リリさんはほんの少し誇らしげに微笑みます。

 リリさんと一緒に配膳していた一人の男が口を開きました。

「私は、王都から来ている料理人のマンジェと言います。

 干し柿には、こちらのクリームチーズを合わせるのもよろしいですよ」

 薄く切った干し柿に、

 白いクリームチーズが添えられます。

 

 まず、干し柿のみで、ひと口。

「……まあ。とても甘い」

 次に、クリームチーズと一緒に、またひと口。

 甘み、酸味、濃厚さが、驚くほど自然に溶け合います。

「とても……美味しいですわ」

「祖母も、きっと喜びます。

この食べ方も、おばあちゃんに教えてあげよう」

 リリさんも嬉しそうに頬張っていました。


 その様子を、マックスが優しく見守っているのを、

 わたしたちは見逃しませんでした。

 ――姉妹で、そっと視線を交わします。

 その後、わたしたちはマックスの一角獣やウィル達護衛騎士の戦麓獣ヴァルク・ムースに乗せて連れられ、あっという間に城へ到着しました。


 王城で迎えたのは、アグラール王。

 母の兄にあたる人物です。

 人払いをした後、王は静かに言いました。

「よく来たな。まずは、無事で何よりだ」

 深く、落ち着いた声。母と似た面立ち、茶色の髪と髭に、深い茶色の瞳。


「君たちが追われた理由の答えを一つ、伝えよう」

 王は、わたしたち四人の武器へと視線を向けました。

「王のしるしは――お前たちの母が砕いていた」

 一瞬、息が詰まる。

母、やらかされましたか――??

「王妃は、その欠片をお前たちの杖、剣、リラハープ、ステッキの宝珠に仕込んでいた」

それぞれに付いた宝珠を、わたしたちは見ました。


「大丈夫だ。アグラール王家の血縁者は、

 壊れた物を復元する力を代々受け継いでいる

 だが今は、まだその時ではない」

 王はきっぱりと言い、

 わたしたちは、静かに頷きました。

「それから――」

 王は、少し声を落とし、続けます。

「妹に、フィシエーラ王より、連絡があったようだ」

 空気が、張りつめます。

「……生きている可能性が高い」


 一瞬の沈黙。

 そして、確かな希望。

「急死というのは敵が流したらしい、誤報だった。

 今は、それだけだ。王が戻ってくるまで、予断を許さない状況ではある」


 それでも、十分でした。

 姉妹は抱き合って喜びました。

 その日はそのまま王城に泊まることになり、わたしたちはアグラール王家の夕食の席に招かれました。

国王、王妃、第一王子のアーヴィン、第二王子のマックスが、穏やかに迎えてくれます。


「しばらく、四人ともこの国に亡命する、ということで良いか」

 国王が問いかけます。


「……ぜひそうさせていただきたいです」

 エリシアが、静かに言う。

「わたしは、アーヴィン殿下との婚約も……ありますし」

 アーヴィンもエリシアをじっと見つめて、優しく微笑む。

「僕も、エリシアにはこのままずっといてもらって構わないよ。

 これまで以上に、君との時間も大切にしたい」

その様子を見て、王妃が穏やかに言いました。

「アーヴィンは、昔からエリシア大好きね。

 ……マックスは、あまり人に興味が無いようだけれど」


「でも」

 エリシアが、意味ありげに続けます。

「マックスも、気になる方がいるみたいですけれどね」

「研究所で、ずいぶん優しい目をしていましたもの」

 ミリエルが小さく頷きました。

「……余計なことは言わなくていい」

 マックスは咳払いをして、視線を逸らします。

「わたしは……」

 わたくしは、思い切って言いました。

「エルント村で、お菓子の学校に通いたいです。

 王都の料理人が、領主の支援で学校を作ろうとしているそうです」

リオネッタは腕を組み、少し考えてから言いました。

「ちょうど良い機会かも知れませんね。

でも……セレフィナは、できれば、魔法も学べると良いですが」


 マックスがそれを聞いて、微笑みました。

「リリの祖母は、ジーナさんという大魔法使いだ」

その言葉に、胸が跳ねた。

「あの、干し柿の……!

それはぜひ、教えを乞いたいですわ!」


 王妃もミリエルに、声を掛ける。

「ミリエルさんは、回復魔法や薬が専門よね。

 学校もあるけれど、わたくしも少し、教えられると思います」

「母は、ファイマールの出身ですからね」

 アーヴィンが微笑みます。

「あの、回復魔法で有名な!とても嬉しいです!」


リオネッタが頷く。

「じゃあ、決まりですね。三人はそれぞれ、王都と村でお世話になります。

私もしばらく滞在しますが、国が心配なので、様子を見て母の元に先に戻ります。」

「了解した。我々は、できる限り援助する」

国王たちは、しっかりと、頷きました。

こうして、亡命の旅はひとまず終わりました。


けれど、わたしたち王女四姉妹の新しい日々は、

ここからまた、静かに始まるのです。


午後三時のお茶と、甘いお菓子とともに


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