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亡命王女四姉妹は、午後三時にお茶をする ~竜国の姫 外伝~  作者: コフク


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第1話 亡命王女四姉妹は午後三時にお茶をする

その午後三時のお茶が、

王国で過ごす最後の穏やかな時間になるとは――

そのときのわたしたちは、まだ知りませんでした。


母がわたしたち四人を呼び集めたのは、あまりに静かな午後でした。

ちょうど三時、

わたしたちは、美味しいケーキを味わい、ミルクティーをいただいていたところです。

ミルクティーをカップに半分残したまま、わたしたちは母の私室へ向かいました。


「――この国、フィシエーラは、もはや安全ではありません」

感情を押し殺した母の声は、

波のない海のように静かでした。


国王――父が、隣国コルドミリティ帝国との戦に向かった先で、

急死した、という知らせ。


それを伝えてきた重臣は、

父の不在中、内政を任されていた人物。


けれど母の側近が集めた情報によれば、

その重臣はどうやら、帝国と内通しているらしいのです。


「あなたたちは、わたくしの母国――アグラールへ亡命なさい」

 言い切った母の肩に、白い影が羽音もなく舞い降りました。

「コフク……?」

 コフクと言う名の、アグラール王家の魔獣、月白梟げっぱくきょう。小さく白い梟。

 アグラールの使者として、時々両国を行き来するため、わたしたちも幼い頃から親しんでいます。

「先ほど使者として来ました。返事を飛ばします」

 母はコフクを空へ放ちました。

「侍女たちが、あなたたちに化けます。

 時間は稼ぎますから、速やかに出なさい」

 涙を流す暇は、ありませんでした。

 地下倉庫で、わたしたちは仮面付きの冒険者装備に身を包みます。

「王家の古くから伝わる武器です。それぞれの分があります」

 母から、武器を手渡されました。武器には魔力を強化する、宝珠が埋め込まれています。


長女エリシアには、魔法杖。

澄んだ青い瞳と長く淡い青金髪を持つ、美しく聡明な魔法使い。わたしたちの柱です。


次女リオネッタには、剣。

濃い青色の髪を結い上げ、日に焼けた肌と引き締まった体を持つ、凛々しく豪胆な戦士。戦場では誰より頼もしい。


四女ミリエルには、回復用のステッキ。

肩上までの柔らかな水色の髪と幼さの残る顔立ちの、優しい癒やし手。回復魔法と薬草に詳しい勉強家です。


そして、わたくし――セレフィナには、弓型のリラハープ。

ふわっとした茶色の癖毛に蜂蜜色の瞳。

支援魔法もまだまだで、剣も魔法も姉たちほど得意ではありませんが、

お茶とお菓子への思いは、誰にも負けない自信があります。


「セレフィナ、それ以上は無理だ」

 次女リオネッタが呆れた声を出しました。

「ですが……お茶葉と、焼き型と、砂糖と……」

「まだ増えるのか!?」

「必要なのですわ」

 わたくしは真剣でした。

 どんな逃亡の旅でも、お茶の時間は心を守るもの。

 それを手放す気は、まったくありません。

(姉たちのような魔法も武力もない、

 これが、わたくしの役割――)

「この旅では、毎日お茶をいたします」

 そう宣言すると、長女エリシアが微笑みました。

「ええ。心に余裕は必要。良い判断ですわ。」

 王城近くの森に入って、できるだけ速やかに離れるため、

 その日は夜通し進み続け、日が昇り、

 食事の時間には手荷物のパンをかじりながら、

 歩き続けて、


 午後三時。

 わたしたちは仮面を外し、静かに腰を下ろしました。

 わたくしは、慎重に包みを解きます。

「……母上のケーキですわ」

 現れたのは、しっとりと焼かれた濃い色のケーキ。

 干した果実とナッツがぎっしりと詰まり、ほのかに洋酒の香りが立ちのぼります。

「お母さまが……?」

 ミリエルが小さく声を上げました。

「ええ。旅立つ前に、持たせてくださったものです」

 ――王妃が、得意としていたお菓子。

 果実の甘さと、ナッツの香ばしさ、そして大人びた洋酒の余韻。


 わたしたちの国、フィシエーラは、海沿いの、平和な国。

 青い髪と瞳を持つ者が多く、水の魔力に恵まれた人々の、

 海産物豊かな国。


 ――対して、母の出身国、その隣の内陸にある、農業大国アグラール。

 茶色の髪と瞳と、土の魔力を持つ人々。

 作物を育て、農産物豊かな、同じく平和を愛する国です。


 母が食を大切にし、

 お茶やお菓子を欠かさなかったのは、きっと、その文化の土壌があるから。

 そして、わたしたち四姉妹もまた――

 海と大地、その両方の血を引いています。


「……懐かしい味ですわね」

 エリシアが静かに言いました。

「父上も、これが好きでした」

 リオネッタは目を伏せ、一口を噛みしめます。

 わたしたちは、少しずつ切り分けて、最後まで大切に味わいました。


 それは――

 王家の食卓の記憶であり、母の心そのもの。

 わたしたちは声を抑えて、泣きました。


 たとえ亡命の身でも、午後三時のお茶は、確かに心を支えてくれました。

 わたくしはカップを手に、そっと誓います。

 ――この旅でも、必ず甘い時間を。


 王女四姉妹の冒険は、こうして始まったのです。




※火、土曜日に短期連載予定です。

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