第2話 森ではじめての戦いと、ギルドマスターの野いちごのババロア
翌日。
「来ました!」
リオネッタの声と同時に、森の奥から魔獣が勢いよく飛び出しました。
岩猪――
硬い毛皮と、鋭い牙を持つ魔獣です。
「前に出ますわ。――水の盾」
エリシアが詠唱を始めると、淡く光る魔法陣が展開され、わたしたちを包みました。
「セレフィナ、支援を!」
「はい、ただいま!」
わたくしは深く息を吸って、声を紡ぎ、ハープを弾きます。
「湧きあがれ、ミルクティーの力――」
紅茶を思わせる、温かな魔力。
それが、姉たちの身体をそっと包み込みました。
「……力が、湧いてきた!」
リオネッタが一歩踏み込み、岩猪を一撃で仕留めます。
「また、来ますわね」
「ええ。数が増えています」
エリシアは冷静に魔法を展開し、水流を操りました。
「濁流!」
押し流される岩猪たち。
流れが収まったときには、すでに地に伏しています。
まだ息のある猪たちも、リオネッタが次々に、剣で止めを刺しました。
ミリエルは戦闘中も姉たちに回復魔法をかけ、戦闘が終わると、魔力回復薬を手渡して助けます。
その後も、四人は現れる魔獣たちを次々と討ち、森は再び静けさを取り戻しました。
◇
「解体は任せて」
リオネッタは慣れた手つきで魔獣を処理していきます。
「お父様と猟や討伐に出た際に、覚えました」
「皮も肉も、状態が良いですね」
エリシアが冷静に、袋に詰めていきます。
一方、わたくしとミリエルは森の奥へ。
「この葉は回復用……こちらも、治癒に使えますね」
冷静に薬草を集めるミリエル。
「蜜も集めて行きたいですわ。あ、こちらの果実は甘そうです」
わたくしも、蜜や果実を見つけ、思わず胸が躍りました。
けれど――
この森では、まだいただきません。
まずは、安全な場所まで。
◇
森を抜けた先に、石造りの小さな建物が見えてきました。
「……人の気配があります」
エリシアが静かに告げます。
「ギルドの看板ですわ!」
わたしたちは仮面を付け直し、冒険者としての顔を整えました。
◇
冒険者ギルドは、昼下がりにも関わらず活気に満ちていました。
「魔獣の討伐と、素材の持ち込みです」
エリシアが告げると、職員は内容を確認し――目を見開きます。
「……この量を、四人で?」
「はい」
リオネッタが一歩前に出ました。
「森で遭遇しましたので新鮮です。処理も適切かと」
職員はしばし沈黙し、やがて奥へ声をかけます。
◇
「すごい量の持ち込みです。一緒に見てください!」
現れたのは、腕の太い壮年の男性――ギルドマスターでした。
「これ、全部買い取る。正当な値段でな」
金貨が並べられ、ミリエルが小さく息を呑みます。
「……十分です」
エリシアが、静かに頷きました。
◇
そのとき。
「なあ、嬢ちゃん達、なんだその仮面は。
外して見せろよ――」
近くにいた男が、笑いながら絡むように声をかけ、エリシアに手をのばしてきました。
ギルド内の空気が、一瞬張り詰めます。
次の瞬間。
エリシアが、触れもせずに男の腕を封じます。
「……失礼」
男は床に転がり、周囲がざわつきました。
わたくしは、そっと懐中時計を確認します。
「あら……もう三時ですわ。お茶にいたしましょう」
◇
ギルドの端の席に、四人で腰を下ろしました。
「おすすめはありますか?」
わたくしが尋ねると、職員は答えます。
「今日は、ギルドマスターが作った、野いちごのババロアがあります」
「まあ!」
ぜひに、と頷きました。
「紅茶も一緒にお願いします」
◇
運ばれてきたのは、淡い紅色のババロア。
各皿に、飾りの野いちごも一つずつ飾られ、見た目も可愛らしく、いちごの甘酸っぱい香りが、ふわりと立ち上ります。
「ギルドマスターさんの見た目によらず、可愛らしいですわね」
エリシアが言うと、
「……美味しい」
ミリエルが、思わず声を上げました。
「森で採って間もないのでしょうか」
「ええ。香りが本当に豊か。酸味が本当にちょうど良いですわ」
リオネッタも、穏やかに微笑みます。
「滑らかで、丁寧な仕上がりですね」
ギルドマスターが近くに立って、嬉しそうに照れていらっしゃいます。
エリシアは、紅茶を一口。
「戦の後に、これは……格別ですわ」
「ただ……こちらのババロアの風味なら」
わたくしは、ミントのようなすっきりした風味のある、手持ちの薬草を一つまみ、紅茶に加えました。
「そう。この味の方が生えます」
「あら、本当ですわね。疲れが取れる薬草ですしね」
ミリエルも同意します。
見ていたギルドマスターも、近寄ってきました。
「ちょっと、俺にも飲ませてくれ……おおっ、これは良いな!
ここのギルドで真似して良いか?」
「ええ、ぜひどうぞ」
わたくしはカップを持ちながら、穏やかに答えました。
――森で、初めての戦いを無事に終え、
町で、当面のお金も得ることができました。
亡命の旅は、始まったばかり。
けれど。
剣と魔法と、午後三時のお茶があれば、きっと進める。
仮面の下で、王女たちは静かに微笑みました。




