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【完結】亡命王女四姉妹は、午後三時にお茶をする ~竜国の姫 外伝~  作者: コフク


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第2話 森ではじめての戦いと、ギルドマスターの野いちごのババロア

翌日。

「来ました!」

 リオネッタの声と同時に、森の奥から魔獣が勢いよく飛び出しました。

 岩猪――

 硬い毛皮と、鋭い牙を持つ魔獣です。


「前に出ますわ。――水の盾」

 エリシアが詠唱を始めると、淡く光る魔法陣が展開され、わたしたちを包みました。

「セレフィナ、支援を!」

「はい、ただいま!」

 わたくしは深く息を吸って、声を紡ぎ、ハープを弾きます。

「湧きあがれ、ミルクティーの力――」

 紅茶を思わせる、温かな魔力。

 それが、姉たちの身体をそっと包み込みました。

「……力が、湧いてきた!」

 リオネッタが一歩踏み込み、岩猪を一撃で仕留めます。

「また、来ますわね」

「ええ。数が増えています」

 エリシアは冷静に魔法を展開し、水流を操りました。

「濁流!」

 押し流される岩猪たち。

 流れが収まったときには、すでに地に伏しています。

まだ息のある猪たちも、リオネッタが次々に、剣で止めを刺しました。

ミリエルは戦闘中も姉たちに回復魔法をかけ、戦闘が終わると、魔力回復薬を手渡して助けます。

 その後も、四人は現れる魔獣たちを次々と討ち、森は再び静けさを取り戻しました。

「解体は任せて」

 リオネッタは慣れた手つきで魔獣を処理していきます。

「お父様と猟や討伐に出た際に、覚えました」

「皮も肉も、状態が良いですね」

 エリシアが冷静に、袋に詰めていきます。


 一方、わたくしとミリエルは森の奥へ。

「この葉は回復用……こちらも、治癒に使えますね」

 冷静に薬草を集めるミリエル。

「蜜も集めて行きたいですわ。あ、こちらの果実は甘そうです」

 わたくしも、蜜や果実を見つけ、思わず胸が躍りました。

 けれど――

 この森では、まだいただきません。

 まずは、安全な場所まで。

 森を抜けた先に、石造りの小さな建物が見えてきました。

「……人の気配があります」

 エリシアが静かに告げます。

「ギルドの看板ですわ!」

 わたしたちは仮面を付け直し、冒険者としての顔を整えました。

 冒険者ギルドは、昼下がりにも関わらず活気に満ちていました。

「魔獣の討伐と、素材の持ち込みです」

 エリシアが告げると、職員は内容を確認し――目を見開きます。

「……この量を、四人で?」

「はい」

 リオネッタが一歩前に出ました。

「森で遭遇しましたので新鮮です。処理も適切かと」

 職員はしばし沈黙し、やがて奥へ声をかけます。

「すごい量の持ち込みです。一緒に見てください!」

 現れたのは、腕の太い壮年の男性――ギルドマスターでした。

「これ、全部買い取る。正当な値段でな」

 金貨が並べられ、ミリエルが小さく息を呑みます。

「……十分です」

 エリシアが、静かに頷きました。

 そのとき。

「なあ、嬢ちゃん達、なんだその仮面は。

 外して見せろよ――」

 近くにいた男が、笑いながら絡むように声をかけ、エリシアに手をのばしてきました。

 ギルド内の空気が、一瞬張り詰めます。

 次の瞬間。

 エリシアが、触れもせずに男の腕を封じます。

「……失礼」

 男は床に転がり、周囲がざわつきました。


 わたくしは、そっと懐中時計を確認します。

「あら……もう三時ですわ。お茶にいたしましょう」

 ギルドの端の席に、四人で腰を下ろしました。

「おすすめはありますか?」

 わたくしが尋ねると、職員は答えます。

「今日は、ギルドマスターが作った、野いちごのババロアがあります」

「まあ!」

 ぜひに、と頷きました。

「紅茶も一緒にお願いします」

 運ばれてきたのは、淡い紅色のババロア。

 各皿に、飾りの野いちごも一つずつ飾られ、見た目も可愛らしく、いちごの甘酸っぱい香りが、ふわりと立ち上ります。

「ギルドマスターさんの見た目によらず、可愛らしいですわね」

 エリシアが言うと、

「……美味しい」

 ミリエルが、思わず声を上げました。

「森で採って間もないのでしょうか」

「ええ。香りが本当に豊か。酸味が本当にちょうど良いですわ」

 リオネッタも、穏やかに微笑みます。

「滑らかで、丁寧な仕上がりですね」

 ギルドマスターが近くに立って、嬉しそうに照れていらっしゃいます。

 

 エリシアは、紅茶を一口。

「戦の後に、これは……格別ですわ」

「ただ……こちらのババロアの風味なら」

 わたくしは、ミントのようなすっきりした風味のある、手持ちの薬草を一つまみ、紅茶に加えました。

「そう。この味の方が生えます」

「あら、本当ですわね。疲れが取れる薬草ですしね」

 ミリエルも同意します。

見ていたギルドマスターも、近寄ってきました。

「ちょっと、俺にも飲ませてくれ……おおっ、これは良いな!

 ここのギルドで真似して良いか?」

「ええ、ぜひどうぞ」

 わたくしはカップを持ちながら、穏やかに答えました。


 ――森で、初めての戦いを無事に終え、

 町で、当面のお金も得ることができました。

 亡命の旅は、始まったばかり。

 けれど。

 剣と魔法と、午後三時のお茶があれば、きっと進める。

 仮面の下で、王女たちは静かに微笑みました。


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