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勇者の剣、本当に返品します。

 小さな精霊たちが、今日も楽しそうに遊んでいます。

勇者様が何度目かの旅立ちを果たされてからというものの、私はなんとも落ち着かない気持ちでいました。

何せもう六回も、「返品します。」とか言われて剣のアップデートに取り組んでいますから。また勇者様が返品しにやってくるかもしれません。

ほんとに自信作だったんですけども。火力が既存の剣とは比較にならないほど高いのは当然として、追加効果や遠距離攻撃もモリモリ盛り込んで、さらに輝かしい装飾とかっこいい演出。すべてを詰め込んだ珠玉の一作だったのです。


 何の文句もなし、勇者様は歓喜の涙に打ち震えて一振り一振りを噛みしめながら進み、あの剣は次々と輝かしい戦果を積み上げていく。そしてあの剣は魔王にとどめの一撃を加え、勇者様は私に感謝し、剣の名声は世界中に轟き、民は皆私と私の剣の栄光を称える。そういうシナリオのはずだったのです。


 しかし、現実はそうはなりませんでした。勇者様が帰ってきたと思ったら剣の修正。また帰ってきたと思ったら剣の修正。またまた帰ってきた思ったらまたしても剣の修正。なんと六回もその繰り返しです。最強の剣を生み出した最強の精霊の私とはいえ、ちょっと自信を失いそうです。私の天下無双の剣にそこまで欠点があるとは思いませんでした。もう最初とかなり様相が変わってしまいましたし……。


 威力が高すぎてもダメ、輝きすぎるのもダメ、派手すぎるのもダメ、便利すぎるのもダメ、見透かしすぎるのもダメ、強すぎるのもダメ……。まったくもって注文の多い勇者様だと思いますが、言い分を聞けば確かに一理あるな、と思わされるものばかりでした。自分の視野の狭さがちょっと悲しくなります。精霊の長として情けないです。


 ……とはいえ、その度に勇者様は言ってくださいました。なんだかんだいっても私の剣は最強だ、と。だからこそ、私はまだ心の奥では信じています。最後はあの剣が魔王を倒すのだ、と。そして、我が子と言っても差し支えないほどの愛を注いだあの剣は、世界から愛される最高の剣になるのだと……!


 ああ、勇者様。今度はどうか返品の依頼ではなく、凱旋の角笛を吹き鳴らしながら帰ってきてください!

そんなことを、ずっと考え続けています。


……森に来客がありました。この森にアポイントもなく来るような存在は一人しかいません。

入口の方から歩いてくる気配で確信しました。彼です。


「勇者様!」

私ったらもう七回目なのに、懲りずにはしゃいでしまいました。はしたない。

勇者様の腰には、私の剣が燦然と輝いています。


「勇者様、よくぞ戻っていらっしゃいました! 魔王は討伐できましたか?」


「……。」


「今度こそ、私の剣は完璧でしたよね? その剣は魔王にとどめを刺しましたか?」


「……。」


「ゆ、勇者様……?」


 勇者様は、黙っておられます。もしかしたら冒険を経てシャイになったのかもしれないし、長い旅が終わって疲れてしまわれただけかもしれませんが、嫌な予感が頭をよぎります。また、あの言葉を言われてしまうのではないか……と。

いやいや、大丈夫なはずです。もう六度も改善を重ねた最強最高の剣ですから……!

流石に、流石にもう大丈夫ですよね?


「勇者様、どうかされましたか……?」


「精霊さん。」


「は、はい。」


「この剣、返品しようと思います。」




「え。」




え?????

なんで???????

まだケチの付け所が残っていたんですか!? もうこれで七回目ですよ!?

もう流石に自信を無くしてしまいますよ。あんなに自信満々にアピールしてきた剣だったのに……。

いやもう一周回って怒りが湧いてきた気がします。多少文句はあるかもしれませんけど、ここまでのスペックを誇る剣を持っているんだから細かいところは気にせず早く魔王倒してくださいよ! これ以上完璧である必要ありますか? 足るを、足るを知ってくださいよ!!!!!!と。


「ど、どうしてですか勇者様! 我ながらですが、その剣はもう十分すぎるほどのパワーを持っているはずです!」


「そうですね。この剣は本当に強い。文句なしです。」


「だったら!! なんでそんなこというんですか!? そもそもあなたその最強の剣を持っているにも関わらずいつまでも魔王倒せてないじゃないですか! それなのにどうして返品とかいうんですか? 馬の如き脚力を与えられながら牛歩を続けてきたあなたが、足まで牛のそれに取り替えてどうするんですか! 比類なきスタミナを与えられながらスローラップを刻むあなたが、呼吸器を常人のそれに取り替えてどうするんですか! 反発係数ぶち上げた金属バット使ってようやくレギュラー級のあなたが、ただの木製バット握って打席に立ってどうするんですか! jokerも2も1も革命対策の3も4も揃えてなお大富豪になれず平民ばかりのあなたが、手札まで平民のそれに取り替えてどうするんですか! 最初から伝説のポ●モン手に入れてスタートしてもジム巡りに苦戦するあなたが、今さら呑気に博士からレベル5御三家に乗り換えてどうするんですか! 特殊コマンド打ちまくりバグ利用しまくりでも正規エンディングにたどりついてないあなたが、バニラでプレイしようとしてどうするんですか! 最強の剣をもってしていつまでも魔王を倒せないあなたが、その剣すら手放してどうするんですか!!!!!」


「……精霊さん。」


「……すみません。」


……つい、今までの不満を爆発させてしましました。あーあ、めちゃくちゃ言っちゃった……。どうしよう、気まず……。


「精霊さん。」


「す、すみません。そうですよね。勇者様だって魔王を倒したい気持ちはやまやまのはず。仕方ないです。そう簡単には行きませんよね。それなのに私ったら……。」


「魔王は、討伐できました。」


「え?」


「私は先日魔王を倒し、ここに帰ってきました。」


「え?」


「魔王への最後の一撃は、その剣が加えました。」


「え?」


「ですから剣を返品しに来ました。今日は、その報告に来たのです。」


「ほ、本当ですか?」


「本当です。」


「や、


やったぁぁぁぁぁぁありがとうこざいますぅぅぅぅぅぅぅぅ勇者様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁありがとうございますぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


「いえいえ。あの剣のお陰です。こちらこそ本当にありがとうございました。」


「そりゃそうですよ! あの剣は! 最強の剣ですから!!」


「ええ。本当に。これまでたくさんの注文をつけてしまってすみませんでした。すべてに文句なしの対応をしてくださったお陰で、こうして魔王を倒せたのです。」


「そんなの! 全然いいんですよ! こうして私の剣が魔王を倒したのですから、こんなに嬉しいことはありません!!」


「はは、それは本当によかったです。」


「では、戦勝の報せを世界中に広めましょう! 超豪華なパレードをしましょう! そして勇者様と、この剣の栄誉を王国中に響かせましょう!!」


「いいえ、それはしません。」




「ん?」


「豪華なセレモニーもしませんし、大々的に私たちを称える報道もしません。」


「え?」


「私たちの旅の子細をみなに伝えることはしません。ただ、平和が訪れたことだけは伝えます。」


「え?」


「民は静かに平和を噛みしめます。そしてまた日常に戻ります。それだけです。」


「え、ど、どうしてですか!? 勇者様やそのお仲間の皆さんの苦労は計り知れないものがあったと思います。その剣の実績も凄まじものがあると思います。それに見合う対価として、羨望の眼差しや称賛の嬌声を全身に浴びる権利くらいはあるはずです!」


「……どうでしょうね。そうなんでしょうか。」


「そうですよ! もっと自信を持ってくださいよ!」


「そうだったとしても、です。私たちの栄誉を広めるようなことはしません。剣はあなたに返品し、これ以上語ったりはしないようにします。」


「なぜですか!」


「世界は変わっていくからです。力が語り草になる時代は、終わらせなければいけません。」


「世界が変わる……ですか?」


「私はですね、この旅で理解しました。魔物も人間も同じです。魔物も人間も自分たちなりの正義を持っていて、自分たちの正義……言い換えれば自分たちの利益のために、他の種族を踏み台にします。そして時には、同種どうしで利益を奪い合い、争います。みんな自己利益に忠実ですし、自己中心的です。私も、自分たちのために多くの魔物たちの命を奪いました。」


「……。」


「でもそれでいいと思っています。そういうもんです。その成り行きとして、魔物たちはこの度大きく衰退し、人間は繁栄します。それも時代の流れの一つです。しかし、そうなったのには必ず理由があります。なぜ魔物は衰え、人は栄えるのか。それをですね、考えていたんです。」


「わ、私にはよくわかりませんが……。」


「他の動物たちと違って、魔物にも知性があります。そこは人間と同じです。しかし、その知性の生かし方に大きな差があったのだと思います。」


「……?」


「もっといえば、知性をもって作り上げた社会に差があったのだと思います。魔物たちの社会は徹底して力と、それによる格差の社会です。力というのは言ってしまえば暴力です。まぁ彼らは魔物の中の種族の違いで生まれながら大きな格差がありますし、力の差が明確にありますから余計にそうなったのでしょうが、殺し合いにおける能力の高さが全ての暴力格差社会です。確かに非常にわかりやすい仕組みだと思いますが、非常に脆い仕組みでもあると思います。」


「と、いいますと。」


「社会全体でのつながりが非常に緩いということです。彼らをつなげるのは力だけです。社会の流れを作るツールは暴力だけですし、それが格差構造と直結しているわけですから、彼らの関係は合理性の範疇を超えません。いわば、仲間や友といった類のものではなく、ビジネスパートナーといったものにとどまることが人より断然多いということです。」


「う、うーん。なるほど……?」


「人間社会でいうところの仕事と娯楽が同じ『暴力』に集約されているということです。こういう構造をもとに個体ごとの自我を抑え込んで統率をとっているのが魔物社会なのではと思います。」


「な、なるほど。」


「ですから組織内での個と個の関係は深いものになりにくいです。これが脆さの原因の一つだと思います。良くも悪くもドライなので、関係がこじれたりはしないでしょうが、肝心なときの連携もうまくとりきれないのではと思います。これは人間社会も同じで、人間関係の煩わしさから孤高を気取る人は度々見られますが、集団で生きる人間という種の性質上、そのストレスを飲み込んででも他者と深く関わり続けなければ、大きなリスクを背負うことになると思いますし。絡み合う糸のように、人と人、組織と組織。深く複雑でめんどくさいつながりこそ、社会を強固で解けにくいものにしていくのではないかと思います。」


「精霊の世界もそうですけど、人間関係の力学は摩訶不思議ですし、逃げたくなる気持ちもわかりますけどね……。まぁ大事ですよね。」


「そしてもう一つ、暴力という一つの正しさに依存しすぎたことが脆さの原因だと思います。」


「は、はぁ。」


 「魔物の世界では強さが全てです。力の強い者が正義です。わかりやすいですが、多様性の欠片もありません。変化できるものが生き残るというのが種の存続の議論でよく言われることですが、魔物は姿形こそ多様化すれど、その社会の在り方は多様化しませんでした。」


「まぁ確かに一元的ではありますけど、何がだめなんですか?」


「例えば魔物たちより力の強い種が現れたらどうしますか。在り方を暴力に依存してた魔物たちは屈服せざるを得ません。精神的にもです。何せ自分たちの上位互換が現れたわけですから、存在意義を突き付けられますし、簡単に崩壊します。私が力をもって魔王を征し、魔物社会を衰退させたように。一元的な存在は、簡単に上位存在を生み出してしまいます。それは魔物どうしでもです。魔物たちの上下は絶対的です。力の強さで簡単にランキングがついてしまいます。そして力という絶対的な善悪の基準ができてしまいます。こういった絶対的な上下の違いは盲目を生みますし、個性や可能性を殺します。だからこそ今までずっとこんな社会構造が成立し続けてきたともいえますが、どこかで袋小路になるのは目に見えています。事実、多様化して可能性の幅を広げた人間社会に敗北するわけですから。」


「よくわかりませんが、まぁなんとなくは……。」


「絶対的な存在というのは視野や可能性を狭めるんです。明確な天井を決めているわけですから。まぁ普通の種は何らか絶対的な基準が存在したりします。基本的には生き残ることだったり、次世代に血を残すことが全てですよね。しかし、知性をもった存在ならそうはならないはずです。知性は、存在に多様性を与えます。」


「……。」


「人間社会は、多様化しています。人間社会の評価軸は力だけではありません。学問に優れた者、文化的に価値のある物を生み出せる者、その礎を築き、支える者……。

在り方は多様化し、様々な成功の基準が生まれ、それぞれの業界で明確に上下を作ることなく互いを称え、生かしあっているからこそ、ここまで発展してきました。これからも、そうあり続ける限り、可能性は広がり続けるでしょうし、発展し続けるでしょう。」


「……人間の可能性の凄まじさは、私たち精霊も身に染みて感じています。」


「魔王を倒す決め手になったのは確かにこの剣による暴力ですが、私が生まれ、育つまでの背景や環境、この剣を作りだせる精霊のあなたと関係を深める過程、旅の道程で私たちが受けた数多くのサポート、その後ろにある数多くの文化資本、その歴史……。多様化した社会の全てが、魔王を倒したのだと、そう思います。」


「……確かに、そうですね。」


「ここまで話してようやく、なぜ私が自分たちの戦果を広めないのか。それは、人間社会に蔓延る暴力主義の風潮を強めないため、そして絶対的な正義を生み出さないためです。」


「……!」


「これから魔物の脅威に怯えない時代になります。社会の大きな変化です。こういった時代の潮流には、往々にして力による正義が強くなります。生活の大きな変化、混沌に対して、力による正義はわかりやすいからです。しかし、力は数多くある正義の形の中でも、危険なものの一つです。痛みという、根源的な恐怖を呼び起こすものを扱っており、やもすれば他の正しさを一瞬にして飲み込んでいく危険性があります。ですから、暴力によって社会に変化をもたらした私の存在は、大事にしすぎずに流してほしいのです。あくまで私は実行しただけ、この勝利は暴力によるものではなく、あらゆる要素を組み合わさっての勝利ですから。」


「……。」


「そして、私たち勇者一行が絶対正義になることも避けたいと思っています。絶対的な存在は人を盲目にしますし、正義は、時に人を残酷にします。」


「残酷に……ですか?」


「はい。私は魔王と話し、一部の魔物を保護し、人間と共存させることを決めました。人間に害を成さない、心優しい魔物たちです。」


「魔物との共存なんて、そんな……。」


「まぁそう思うのも無理はありません。だからこそ、そこに正義という凶器を加えたとき、人は残酷になり、その凶器を振るいます。人間同士でもそういったいざこざが絶えないのですから、魔物に対してならなおさらです。ですから、私は自分という絶対的正義になりうる存在を誇示したくありません。」


「……。」


「それに、先ほども話しましたが、絶対的な正義は社会の可能性や視野を狭めます。多様な正しさの在り方を守るべきなんです。そして、私たちの存在、そしてこの剣の栄光は、絶対正義の象徴になりかねないのです。この剣は完全無欠、まさに絶対的な存在であり、魔王を倒したという正義を得てしましました。最強の剣だからこそ、その名声を広めるわけにはいかないのです。」


「……。」


「この剣を作って、改善を重ねてくださったこと、本当に感謝しています。あなたもまた人の世に平和をもたらした勇者の一人です。しかしどうか、その栄誉は私たち一部の人間や精霊たちの内にとどめてはいただけないでしょうか。納得はできないかもしれませんが……。」


「……わかりました。」


「……!」


「まぁちょっと、というかだいぶ悔しさはあります。でも、この剣は本当に立派にその使命を果たしてきてくれました。我が子のように大切に思ってきたこの剣が、世界に平和をもたらしてくれた。その事実で、もう十分かもしれません。それに今度は社会の崩壊を招く破壊の剣になってほしくはありません。私がつくった剣ならば、諸刃で、なんでも傷つけるのではなく、守るべきものもの守るための剣であってほしいですから。」


「……ありがとうございます。本当に、これまでたくさんお世話になりました。他の一行ももうすぐ到着します。世間からの称賛はないかもしれませんが、私たちの間で、勝利の祝杯をあげませんか?」


「本当ですか!? ぜひそうしましょう! 他のメンバーの皆さんにもお会いしたかったところです。楽しみですね。」


「よかったです、みんなもあなたに会いたがっていましたよ。」


「そして、この旅での私の剣の活躍を、たくさん、たくさん、聞かせてくださいね――――。」


 小さな精霊たちが、今日も楽しそうに遊んでいます。

……私は、まだまだ未熟でしたね。精進しないといけません。

全然当初の想定通りはいきませんでしたが、でも、これでよかったのかもって思います。


勇者の剣の栄光は、いつまでも、いつまでも、私の胸の中に残り続けますから――





ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。

執筆をはじめたばかりでまだまだ至らぬ点だらけだったかもしれませんが、少しでも読んだ方の心に残ったなら幸いです。

それと、ちょっと烏滸がましいですが、もしよろしければぜひ、評価やコメントを頂けると非常に励みになります……何卒よろしくお願いします。

これからも書き続けたいと思っているので、ぜひまた読んでいただけるとうれしいです!

ありがとうございました!

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