勇者の剣、またまたまたまたまた返品します。
小さな精霊たちが、いつまでも飽きることなく遊んでいます。
勇者様が五度目の来訪から旅立たれて以来、私は今度こその暇を満喫しています。もう流石にこの天丼もね、終わりでしょうということで、次にいらっしゃるときは魔王ぶち倒してると思いますね。
何せ最強の剣ですから! ただでさえ最強の性能を持った剣なのに、最強すぎるが故の欠点も次々克服してますから。勇者様の悩みのタネになりそうな要素は消しまくりです。もう流石にないと思います。
しかし勇者様も悩み多き方です。私ではまったく思いつかないような懸念点を次々提示されますが、それはつまりそれだけ日々の中で憂いが多いということでもありますから、なんというか生きにくいんじゃないかなって思います。
しかしそれはそれとして早く私の剣を魔王を倒した栄光の剣にしてほしいものです。
ああ、勇者様、早く魔王を倒して帰ってきてくれないかしら!
そして私の剣を名声の海で泳がせてあげてくれないかしら!
今日もいつも通り私はそんなことを考えています。
……そろそろかな、と思ったところで案の定来客の報せがありました。
何となくわかるようになってきましたよいらっしゃる周期が! まぁさすがに今回で最後でしょうけども。
もう目つぶってても誰かわかりますよ。この足音と気配はやはり……。
「勇者様!」
勇者様がいらして、私がはしゃぐ。そしてやっぱり私ははしたないですね。
勇者様の腰には私の剣が下げられています。これを見ると安心します。
「勇者様、お戻りになったのですね! 魔王は討伐できたのですか?」
「……。」
「まぁさすがに今回は討伐の報告ですよね! もう六回目ですから!」
「……。」
「もうそろそろその剣も栄光の雨に打たれたいところかと思うんですよ。私もその時を楽しみに待っていました! 本当にありがとうございます!」
「……。」
「王都の民には報告しましたか? その剣は皆の憧れの的になってますよね?」
「……。」
勇者様は、今回も黙っておられます。若干嫌な予感がしますが、きっとシャイになったか疲れただけでしょう。信じてます。
「勇者様、お疲れですか? 諸々の話は少し休んでからにしましょうか?」
「精霊さん。」
「はい!」
「魔王は、まだ討伐できていません。」
「え?」
「まだ魔王城の姿も拝んでません。」
「え?」
「ちょっと遅すぎて魔王サイドも困惑しているようです。」
「え?」
私も困惑していますよ。ええ、私も毎回毎回困惑してますけどもね、とうとう相手さんすら困らせちゃってるじゃないですか、と。
敵に同情されるパターンはありますけど、進行が遅すぎてはちょっと情けなくないですか? そろそろ救済措置が発動しそうなんですが……。
いやそもそも最初っから最強の剣装備してますよね? もう救済措置発動してるようなもんですよ。それでもだめならもう変なコマンド入力とかしないといけなくなりますよ……。
「そ、そうでしたか。それで、本日は何用でしょうか……?」
「はい。この勇者の剣を、返品しようと思います。」
「え。」
え??????
なんで????????
だってそれ最強の剣ですよ? ただでさえチートレベルの剣なのにそれにもう五回も修正を加えてるんですよ? テセウスの船みたいな話になるくらい改良してますよ?
てかあなたその公式チートみたいな剣をもってしても魔王に心配されるくらい進行速度が遅いんじゃないんですか? なのになんで返そうとするんですか?
特殊コマンド打ちまくりバグ利用しまくりでも正規エンディングにたどりついてないあなたが、バニラでプレイしようとしてどうするんですか……と。
「ど、どうしてでしょうか勇者様! もう何回も言ってると思いますがその剣は市況ですし、勇者様の要望に合わせて既に五回も修正を重ねています!」
「そうですね。この剣は文句なし最強の剣ですし、毎回私のオーダーに対する修正内容も完璧です。」
「でしたら……!」
「強すぎるんですよね。」
「え?」
「この剣は強すぎるんですよ。」
「初めて返品にいらっしゃったときもそんなことをおっしゃっていましたよね。ですから威力調整機能をつけたわけで……。」
「単なる威力だけの話ではありません。総合的に見て、この剣は強すぎます。」
「そ、そりゃあ私が手塩をかけて、かけて、塩辛くなるくらいかけて作った剣ですから、当然です。何の問題もないじゃないですか!」
「確かにこの剣は単体攻撃も範囲攻撃も攻撃速度もクールタイムも重さも他の剣とは比べ物にならないくらい優れていますし、近距離攻撃と遠距離攻撃のどちらもこなすことができます。それだけでなく追加効果もモリモリで変則的な動きの敵や、搦め手を使ってくる敵に対する対応力も高いです。そして見た目もかっこいいです。」
「そ、そりゃあ私が汗水たらして、たらして、地面に湖ができそうなくらい苦労して作った剣ですから、当然です。何の問題もないじゃないですか!」
「それがまずいんですよね。」
「なんでですか!?」
「私の身の丈に合わなすぎます。」
「え、身の丈、ですか?」
「はい。私が持つには強すぎます。」
「ええ……? そんなことを気にされてるんですか……? 別によくないです?」
「大体最強の武器って最強のキャラが持ってません? 武器以外の面でも、フィジカルがめっちゃ高いとか、長年生きてて精神面がめっちゃ成熟してるとか、そんな人が持ってるじゃないですか。でも私はただ勇者に選ばれただけの男ですよ。」
「勇者に選ばれたんだからそれだけの力量を認められてるんですよ! 勇者なんだから立派にこの剣を振るう資格はあると思います!」
「勇者という肩書は私のステータスの一部ですが、やはり実態が大事だと思うんです。結局この超超超ハイスぺの剣に見合う器かと聞かれると、首を縦には振れません。」
「めちゃくちゃ個人の事情じゃないですか! びっくりするくらい個人的な問題じゃないですか! それで勇者の旅止めて魔王に心配されたりしないでくださいよ! っていうか別に問題なくないですか? ありがたく使えばいいだけでは……。」
「これでサクサク冒険進めてあっさり魔王倒しちゃうとですね、自己評価を正確にできなくなってしまうんですよ。」
「自己評価……ですか?」
「はい。自分の能力以上の結果が出ることは誰しも時折経験するとは思います。しかしこの剣を使ってる限り一生その状態が続いてしまいます。これでは正しい自己評価ができません。過信につながりかねません。」
「めっちゃ個人的な話ですね。世界の命運をかけた旅ですよ……?」
「自己評価は非常に大事です。自分のことを客観的に見れているかどうかは人間関係のおいても重大な要素になってきます。過大評価は言うまでもなく、態度に出れば周囲の反感を買いがちですが、過小評価も然りです。付き合いの中で謙遜が必要な場面はありますが、それは自分の力量を正確に把握したうえで、適切な範囲で行うべきことです。行き過ぎるとただの卑屈ですし、これまた反感を買ってしまいます。」
「ま、まぁそれはわかりますが……。それで一回ここまで帰ってきます……? 世界の命運をかけた旅ですよ……?」
「それに、実績と能力の乖離は自分自身の精神衛生上もよくないです。実態のない評価、経済におけるバブルみたいなもんです。そのままだといずれ弾けますし、自身を苦しめます。」
「そ、それはちょっときついときもあるかもしれませんが……。今やってるのって世界を救う旅ですよね……?」
「自己に対する客観性は、何より大事にすべきです。過信せず卑屈にならず、そして他者の評価と自己評価もできるだけ開きのないように。人間関係において常に気にすべきポイントではないかと思います。」
「そ、そうですね……。それで、勇者の旅の途中ですよね……?」
「まぁ個人の事情が入っていることは否定できません。」
「だいぶ入ってますよね?」
「ですから、この全体攻撃も範囲攻撃も攻撃速度もクールタイムも重さも他の剣とは比べ物にならないくらい優れていて、近距離攻撃と遠距離攻撃のどちらもこなすことができて、追加効果もモリモリで変則的な動きの敵や、搦め手を使ってくる敵に対する対応力も高いこの剣はちょっと私には見合ってないと思うので、返品しようと思ってたんですよ。」
「そ、そんな……。……ん、思ってた、ですか?」
「はい。返品しようと思ってたんですけど、今話しててやっぱりこの剣をこんな個人的な理由で手放すのはもったいないと感じたんですよ。」
「やっと気づいてくれたんですか。」
「しかしやはり身の丈を圧倒的にオーバーしたこの剣をもって冒険するのは厳しいものがあります。」
「そ、そんな……。」
「ですから、私がこの剣に見合うくらい強くなればいいと思ったんですよ。」
「え?」
「精霊さん。噂で聞いたんですが、精霊さんって現実世界とは隔離された特殊空間への転移魔法が使えるんですよね? その中では時間の流れが現世とは違って、現実世界における一瞬のうちに、何十年もの時間を過ごせると聞いています。」
「よく某マンガに出てくる精神と時の部屋って言われるやつですね。ええ、転移できますよ。」
「そこで己の力を伸ばしたいと思っています。この剣に見合う力をつけてみせます。そうすれば私も評価の乖離を気にすることなく堂々とこの剣を振るうことができます。」
「え、ええ。相当厳しい修行になるとは思いますが……。」
「構いません。お願いします。この剣も五度のアップデートを重ねましたが、次に改良すべきは、私の方なのです。」
「……わかりました。では、準備はいいですか?」
こうして、勇者様は転移していかれました。そして現世の時間で数十秒後、勇者様は、勇者様ver.2となって戻ってこられました!
「勇者様、大丈夫ですか……?」
「大丈夫です。本当にこっちでは少しの時間しか経っていないんですね。しかし、私はあの空間の中で己を鍛え、圧倒的にパワーアップしましたよ。これでこの剣に見合う剣士といえますし、何ならこの剣なくても魔王倒せそうです。」
「いやそこはその剣で倒してくださいほんとにお願いします。」
こうして勇者様は旅立っていかれました。
勇者様にも未熟な点があったんですね。人の子ですから、当然ですね。
しかし、本人のパワーまで上がったのですから、流石の流石に今度は魔王を倒して帰ってきてくださいね……!




